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私的アート思考episode.3 美術室という居場所

先月開催されたグループ展が無事終了しました。
ギャラリーまで足を運んで下さった方、SNS等で応援して下さった方、関わって下さった全ての皆様に感謝です。
どうもありがとうございました!
今後も精進してまいりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
さて、こちらのマガジンを10月末から更新していなかったので、早速続きを書いていこうと思います。
高校時代の美術部のお話です。

女子高生のエネルギー

私の入学した高校は県立の女子高で、地域の進学校でした。
主に大学進学を目指す生徒が殆どで、一学年400人も生徒がおり、式典などで広い体育館いっぱいに1200人もの女子が集まる様子は圧巻でした。
女子高というのはなかなか特殊な環境であったなと今でも感じるのですが、中でも女子高生特有の若いエネルギーは本当に凄かったです。
決して枯れることがない泉のように、エネルギーがこんこんと湧き出てくるあの感じ。
時に噴水みたいにどこまでも高くて強い飛沫をあげるような、女子高生のあの無敵な感じって一体何なんでしょうね?
仲良くなった同級生たちは皆自分のやるべきことに集中しながらも、高校生らしい生活を楽しみたいというフラットな人間関係を好むスタンスの子が多く、良い意味でお互いを刺激しながら共に成長していけるような、とても恵まれた環境でした。
中学時代までは生来の気質のせいか優等生的なポジションにつくことが多かった私でしたが、そのような環境の中「自分の好きなことをする」という方向に舵を切り、それまでの自分では気が付かなかった、新しい自分の一面を発見できた三年間でもありました。

美術のI先生

高校では芸術科目は美術・工芸・音楽の中から一科目を選択する方式でしたので、私は迷わず美術を選択しました。
美術科目、そして美術部の顧問でもあったI先生との出会いです。
I先生は当時40代後半〜50代くらいの男性の先生で、武蔵野美術大学で油画を専攻し、卒業後福島県の高校の美術教師になられた先生でした。
とてもエネルギッシュでダンディな雰囲気の先生で、当時の私がイメージする芸術家の姿を体現されているようで、とてもかっこよく見えました。
中学時代の美術のA先生とはまた違った雰囲気の先生でしたが、どこか学校という枠組みからは少し離れたところに立っているような、そんな独特の存在感を二人は共通して持っているように私は感じていました。

I先生の美術準備室

そんなI先生は授業中以外は美術室の隣にある美術準備室にいることが多く、先生はそこで大きな油絵を描いていました。
150号くらいはあったでしょうか?
I先生の描きかけのキャンバスに描かれていたのは大きな竜巻と、その渦の中に小さな馬の置物が巻き込まれている様子でした。
竜巻を表す荒々しい灰色の筆致と対照的に、馬の置物の柄が朱色で繊細に書き込まれており、普段I先生から感じるエネルギッシュさをその絵からも感じ取ることができました。
その絵の脇には沢山の油絵具が出されたパレットや筆、溶き油の入った皿が木製ワゴンの上に置いてあり、先生の机の上には美術手帖、芸術新潮、みづゑなどの美術系の様々な雑誌や書籍が読みかけのまま置いてありました。
私はI先生のアトリエのように使われていたこの美術準備室に入るとき、この高校の建物の中の他のどの教室とも全く違う、まるで異世界の中に足を踏み入れたような気持ちになりました。
I先生のアトリエという「芸術家が創作をする空間」を体験することで「美術」という世界が、よりリアルに広がっていくように感じられたのです。

美術室という居場所

入学後すぐに入部することにした美術部での様々な出会いもまた、私と「美術」との距離をより近くしてくれました。
美術部に入部している生徒の殆どは美大進学を目指していたので、放課後美術室へ行くと、日中自分が過ごす普通科のクラスの友人達とはまた違った雰囲気のコミュニティができあがっていました。
より価値観の近い子が多かったように思います。
MDプレイヤー(懐かしい!)で好きな音楽を聴きながらもくもくと鉛筆デッサンをする子、自分の背丈よりも大きな油彩画を描く先輩、好きなドラマや漫画の話をしながらのびのびと絵を描く子など、各々が好きなように美術室の中で過ごしていて、そこに「たまに」I先生が見に来て皆に声をかけてくれるという、「美術」という共通項で繋がった、つかず離れずのさっぱりとした関係性が私はとても気に入っていました。

美術室の奥に置かれた真っ白な石膏像。
静物デッサン用のワイン瓶なんかのいろんな置物。
色とりどりの布。
イーゼルに掛けられた描きかけの木炭デッサン。
赤や黄色の絵具で汚れた青色のヤッケ。
(ヤッケは方言らしい!学校指定のウインドブレーカーのこと)
美術室の傍にあった作品や使わない道具の物置と化した屋上に続く階段。
そんな物置のような階段の、狭い隙間を登って行った先にある屋上への扉。
屋上から見えた桜の花。春の風。
一緒に過ごした友達とのなんとも自由で楽しいおしゃべり。
そんな愛すべきものたちを全てひっくるめた、カオスで居心地の良い空間。
ここでなら安心して自分を表現できる。
そんな今で言うサードプレイスのような居場所が、私にとっての「美術室」だったのです。

そして、この「美術室」という空間で過ごした三年間は、表現することの自由さやお互いの個性を認めるといった「アート的な価値観の種」を、私の心の中に育んでくれていたように思います。
この種が、その後美術大学に進学してから少しずつ芽を出していくことになっていったのではないかなと。
まさに青春という名にふさわしい、尊い時間でした。

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