最果ての地、不思議な宿
国頭村奥集落への旅
ゴールデンウィーク、沖縄を一人旅した。
ちょっと変わったところに行きたいということで、沖縄本島の最北端まで行ってみようと思いたった。とても行くのが大変な場所なので、浮世離れしているのではないか。そして、そこにある民宿の主人が面白い人物だ…という噂を聴きつけたので、行けば何かが起きるだろうと期待し、本島最北端の国頭村(くにがみそん)奥集落を目指すことにした。
奥集落までの道のり
那覇バスターミナルから名護まで高速バスで1時間半。そこから普通の路線バスに1時間乗って、国頭村の村役場がある辺土名という集落に着く。
ここからは国頭村の村営バスに乗り継ぐ。バスといっても車両はトヨタ・ハイエースで、一日3往復のうち2往復は、事前に村役場に電話して予約しないと走ってくれない。ペーパードライバーに沖縄は大変だ。
奥集落
那覇から4時間半、奥集落に到着した。
個性の強すぎる宿
宿の場所はGoogleMap見る限りはここなのだが…ただの林にしか見えない。林の間の小径を入っていくと、いくつかの木造の建物があり、炊事をしている人の気配があった。声をかけると、宿の主人が出てきて部屋を案内してくれた。
客室棟に通される。一人部屋が用意されている。中央には居間のようなところがあり、大量の小説やその土地に関する資料が積まれていた。退屈はしなさそうだ。
しかし、さっきから蚊がずっと飛び回っているし、なんかそのサイズ感が大きい(虫除け持ってきてよかった)。そして、ほかの客もいないので、ひょっとしてこの建物に一晩一人なのか…と思うと心細くなった(宿泊客はあと二人いたのでそれは杞憂に終わったけど)
夜。ご主人の独壇場。
夕方6時から夕食。藁葺き屋根の下のテーブルに、宿泊者がみんな集合して食べる。
宿泊者に料理をふるまいつつ、ご主人がカメに入った泡盛をずっと飲みながら同席して、喋る喋る!!
白い髭を伸ばした仙人みたいな見た目のご主人は、アメリカ占領下のこの集落に生まれた70歳。
集落の中学を卒業後、那覇で建設業に従事したのち、18年間夜の店を経営していたという。厄介なお客はバシバシ出禁にしていくスタイル(飲み屋の経営としては圧倒的に正しいと思う)で、バブル景気の後押しもあってそこそこにやっていたが、集落に帰ってきて、建設業の経験を活かし、自力でこの民宿を設計・建設したという。
「おれは海と料理と酒と女があればそれでいい」と豪語。オフシーズンには国内外のかなりいろんなところを旅行しているという。それだけに話題はかなり豊富で、人を惹きつける不思議な力があった(シモネタは多いけど)。
同じ時に宿泊していた人たちもリピーターだったし、常連客が多くいる様子だった。この立地で、それをやっていけるのは只者ではない。
食事がとても美味くて食べ過ぎてしまい、そこにじゃんじゃん泡盛を注がれる(断ると怒られる)ので苦しくなりつつも、コウモリとフクロウの鳴き声が響く不思議な夜はふけていった。
集落の朝
幸い二日酔いにもならず、夜が明けて朝食の時間となった。
朝になってもご主人は元気いっぱいでよく喋る。「最初から変態なやつが来たなと思っていたよ、女物のブーツなんて履いて。久高島に行こうとしている?あんたみたいな人にはあってるよ」
…わたしは変態ではないのだが。人のことをよく見ている。眼力強いな〜。
買い出しに行くご主人を見送ると、30代くらいのご婦人が5歳くらいの娘を連れてやってきて、部屋を清掃し始めた。隣の集落に住んでいて、ここに掃除にやってくるらしい。
娘ちゃんは、居間にあった「やんばる動植物図鑑」を開きながら、この虫を見たことあるとか、ヤンバルクイナを見たことがあるとか、お父さんがヒメハブに噛まれて病院に運ばれたとか、そんな話をいっぱい聴かせてくれた。話題にすることが都会の子供とぜんぜん違う。この子は全校児童7人くらいの小学校に進学することになっているという。都会生まれのわたしには想像することも難しい環境だな。
絵本を読んだりして遊んでいるうちに、那覇へ戻る時間となった。
帰路
予約していたバスがやってきて、また同じ120kmの道のりを那覇へ戻る。
バスの運転手が「あの宿泊まったの?ご主人変わっていたでしょう」と。本当ですね。この集落はとんでもない人物を輩出してしまったものだ。
まだまだ元気とはいえ、最近は高血圧の薬も飲み始めたという。泡盛飲みすぎないで、元気にやってほしいものだ。きっとまた会いに行きます。
クセは強いので人は選ぶと思いますが、興味ある方はぜひ、本島の果てまで行ってみてください。いい思い出になると思います。連絡くれたら情報提供します。