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奪衣婆になった祖母

昨年、夏頃に夢を見ました。
そこでは、15年ほど前に亡くなった祖母が居間にいて、家族と会話をしていました。

祖母は、亡くなった当時から、私の夢にたびたび表れていて、その度にあれがない、これがない、これが食べたい、あそこを直せ……云々と、色々な注文をつけていました。

また、一人暮らしだった私に、『実家で〇〇がないと言っている』などの伝言をして、私が買って実家を訪れると「なぜそれを知ってるの?」というようなこともありました。

もともと、祖母は亡くなった後もしばらく実体に近い存在感で家に居たので 念が強いタイプの方だったんだと思います。

そのため、祖母が夢に現れると、『ああ、何か伝えにきたんだな』と理解して対応していました。

でも、その夏の夢は少し違っていました。
祖母の様相がいつもと違うのです。

祖母は、ハイカラな方で、ベレー帽を颯爽と被りカラフルな服を来て、孫から見てもおしゃれな方だったと思います。
銀座近くで寿司屋の女将をやられていたので、働く意識もはっきりした方でした。

でも、その時の祖母の様子は、浴衣の前を垂れた父が見えるほどだらりとはだけ、髪はザンバラに乱れて櫛を入れていない物をひとまとめに結っていました。

家族は、祖母だと思って話しています。
でも、私は、祖母ではあるが祖母でなく、別の存在ではないかとマジマジと見つめていました。

そうすると、祖母が「やっぱり気付くか。」と言うのです。
私が何を?と問うと、祖母は「仕事をしなくちゃならん。」と言っていました
なんの仕事?と聞いたら、「見ればわかるだろう。」と言うように、身を私に向けるのでした。

そこで目が覚めました。
祖母は何を伝えたかったのだろうか、と考えましたが、見当がつきません。

初めは、祖母は死後の世界でもあれが食べたいなどの要求を言っていたから、餓鬼になってしまったのかとも思ったのです。

そんなことも日が経つに連れ忘れていたのですが、ある日、時代物の資料を漁っていますと、そこに載る奪衣婆にの図が目に止まりました。
あの時の、祖母の様子にそっくりだったのです。

あれ、それじゃあ祖母は奪衣婆になったのか?
仕事って、奪衣婆?
奪衣婆って、閻魔さんの妻とか言われてなかったか?……と、たいそう不思議に思っていたのですが、よくよく考えればあの当時、コロナ感染症のために国内でも死者数が少しずつ増え、世界中ではかなりの死者数だったと記憶しています。
そのため、祖母はきっとバイトか何かで、奪衣婆の仕事を手伝うことになったのかと、何故だか納得できたのでした。

空想の域を出ない話でした。
でも、都合の良い辻褄合わせではあっても、面白かったり、祖母も不幸ではないのではないかと思えたりしたので、私の空想(妄想)話として、当時は家族に話すに留めておいたのです。

ここまでならそれだけの話ですが、昨年の12月、普段から使っている私の箪笥の引き出しを開けると、祖母の布袋が入っていました。

なぜこんな物がここに?と手にとると、ずっしりと重いのです。
中を見ると、大量の小銭が出てきました。
祖母の字で、10円50枚、50円50枚など、それぞれ枚数を数えて紙で巻かれて整理されていました。

そのタンスは、私が普段から使っているもので、夏冬の服の入れ替えを何度もしていましたから、祖母の袋がそこに入っているわけがないのです。

けれど、袋がそこにあるのは事実です。

そこで、「仕事をする」と言っていた祖母の夏の夢を思い出しまして、「ああ、これは年末の給料を届けに来たんですね。」と思いました。

昔は奉公に出ると、年末年始には給金を持って里帰りしていたと聞きます。
うちの場合は、チャンネルの繋がりやすいのが私だったので、私に届けて実家に持って行けと言いたかったのでしょう。

祖母は、生前は寿司屋の女将ではありましたが、心臓疾患と軽度の身体障害のため、働きはしていたけれど、思うように働くことは難しかったようです。

死後の世界は、祖母にとっての現実世界の身体の制約がなく、働こうと思えば働きやすいのかもしれません。


そのお金は、仏壇のお盛り物と年末の御節の購入に当てました。
祖母の意向に添えていれば良いなと思います。

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