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部屋の見えない住人『おじさん』


住んでいる部屋には、どうやら霊道が通っています。
この話をすると、皆さんが気にされて質問してくるのは、
「何で霊道ってわかるの?」
「何で引っ越ししないの?」
この2点が圧倒的に多いです。

霊道だと感じたのは、出る霊障のバラエティの富み方と、関わってくる幽霊の年齢層の幅の広さです。
前回書いた話(二階の部屋)で、窓に時計をかけたことで霊道を塞いだことをお話ししました。
「部屋の壁4辺に物を飾ると結界になる」と祖父が言っていたのですが、本来ならば部屋を守るための方法です。
それが、霊を閉じ込めてしまったということは、元々部屋に呼び込む状況ができていたのだと判断しました。

そして、年齢層バラバラの方々が、通りすがりに髪を撫でたり引っ張ったり、人のPCを覗き込んで話しかけたりと、本当にちょっかいの掛け方が『飽きもせずによくやるなあ。』レベルが続くのです。

『出て行け!』という念のある部屋に住んだこともありますが、あの時はすぐに病みましたので、そうではないこの部屋は『常駐霊の少ない場所→霊道である』と思っています。

私は見る力が無いに等しいので、どこに何がいるかはわかりません。
でも、気づいているのは伝わっているようで、何とかして自分のことを伝えたいという欲のある霊達がいます。
なので、今回はその中の1人「おじさん」をご紹介します。

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『おじさん』が居るのは、かなり早い段階で気づいていました。
姿は見えませんが、確実に立体で居ました。
大体、テレビの前に陣取っていた気がします。


やることといえば、私が寝ていて金縛りにした上、身体を弄ったり、荒い息遣いで乗っかって来たりしてました。
幽霊にレイプされるのは堪ったものではなかったので、御守りを持って寝たり、何度か頭突き応対したりしていました。
そうすると、そちらの対応は飽きたのかしなくなりました。

でも、そうやって対応している私に興味を持ったようで、話しかけてくるようになりました。

何を話しているかは分かりません。モソモソとした囁き声が聞こえるだけですし、ロック好きの私が流す曲で掻き消され、ほとんど気になりませんでした。

ですが、ある年の8月のこと。
私は、コミックマーケットに参加するため、参加日の前日に小説を書いていました。
1分1秒無駄にできないギリギリの状況でした。
ネタはあるけれど、文章が降りてこない。
そんな切羽詰まった状況で、作業スペースに座り12時を過ぎた頃です。

「おい。」

いつもよりもハッキリしたその声に、私は隣の部屋の住人の声かと思い、あたりを見回しました。けれど、それ以上、何が聞こえる訳でも何かがいる訳でもありません。

再び、画面を見つめタイピングを始めた時です。
「おい、気づいてんだろ。こっち向けよ。」
ハッキリとした男性の声が左耳元で聞こえました。

流石に驚いて、タイピングを間違えてしまいました。
そちらを向くのも癪だったので、私は右側を向きました。そちらにはキッチンスペースが有りました。
「そっちじゃねえよ。」
男性の声と舌打ちが聞こえました。
明らかな気引き言動。
腹が立つ思いでしたが、とにかく原稿を書くことに集中したくて、無視しようとしました。

しかし、男性は絶え間なく耳元に囁き続けます。
歳の若い相手を揶揄するような、年上男性の口ぶりでした。

「見えてんだろ?気づいてないふりしてるだけだろ?
 なあ、分かってんだからこっち向けよ。なあ。
 それとも、本当に気づいてないのか? ばぁーか。」

馬鹿という罵倒の言葉に、感情が沸き立ちました。
私は、側にあったマウスを感情のままにキッチンの壁に投げつけました。
マウスが音を立てて割れました。
その途端に、ヒュッと息を呑む音が聞こえました。
私は、それが口笛のように聞こえたため、更に感情を爆発させました。

「うるせえ!気づいて、聞こえてるよ!
 こっちは、時間に追われてんだよ!
 てめえの相手してる暇なんてねえんだ!
 大体、見えない人間だっているんだよ!
 てめえの狭い了見で、勝手に人見て、
 構ってもらおうなんて思ってんじゃねえよ!」

まあ、そのようなことを、もう少し口汚く怒鳴りつけました。

すると、すぐそばで聞こえていた息遣いなどが、離れたのが分かりました。
そして、そのまま声は聞こえなくなりました。
私は静かになった部屋で、苛立ったままの状態で何とか原稿を書き上げ、次の日のイベントに参加したのでした。

その後の「おじさん」ですが、同一の霊と思われる方は3年くらい前までは同居していたのですが、お互いに存在は認めているけれど干渉しない形で住み続けました。
おじさんは、私の性格と見た目とのギャップがダメだったようです。
一度だけ、おじさんが水回りのトラブルを引き起こすのに私が腹を立てて、「金を払ってるのは私だ!」と叫んでしまってから、完全に存在を感じなくなりました。

もしかしたら、まだ部屋にいるのかも知れませんが、私には感知できません。それきりです。


これが、私の部屋に居た(居るかもしれない)『おじさん』のエピソードです。

なお、引越ししない理由は『ネタになる』からです。
共存できるうちはこのままかなと思います。

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