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続・電話の向こう

初期の頃の投稿に、「電話の向こう」という話があります。
かつて勤めた学校で、誰とも分からない相手からの電話を取る話です。

私は、この春から職場が変わりました。
新しい職場の印象は『えらく騒がしい職場』で、いつもどこからともなくいろんな音がします。
それがどんな音なのか、私には聞き比べることができないので、そのままを受け入れています。

そんな職場で、20時ごろまで職員室で残り仕事をしていました。
周りには、若手、中堅の働き盛りの方々が、約7名ほど残っていました。
職員室は先生方の囁くような話し声がして、適度な雑音で集中力が増す私に取っては『最高の環境』でした。

私は、一旦集中してしまうと周りの音が耳に入らなくなる性質でした。
そのため、学年の違う同僚教師に声をかけられていたことも、かなり大きな声で名を呼ばれるまで気付きませんでした。

「巳上さん!電話鳴ってます!」

ハッとして顔を上げれば、まだ会話を交わしたこともない若手の女性が通路を隔てた向こうから声をかけてくれていました。
見れば、周囲の何人かがこちらを見ています。
何を言われたかが分からず、女性の指差す方を見れば、私の斜め前の電話が鳴っているのです。

今の職場は、いくら外線から電話がかかっても、18時を過ぎれば業務終了の音声が流れて繋がらない仕様のため、この電話は内線電話なのでしょう。
でも……と、私は、電話をしげしげと見つめました。
誰から来ているか、全く覚えがないからです。
かけてくるであろう事務室の職員さん達は、帰宅されている時間でした。

私が電話を取らないのを不思議に思われた周囲の先生方は、変な顔をしたのですが、職員室内を見て、おや?という顔をされました。
誰も電話を使っていません。
特別教室には電話がありますが、日直が校舎内を施錠したのはだいぶ前の時間でしたから、わざわざそこから内線電話をかけるということも考えにくいのです。

皆で、顔を見合わせたところで、埒があかないと思ったのか、若手女性が
「私、とります!」
と電話に向かいました。
ですが、彼女が受話器を取る寸前に、電話は切れました。

「なんだったんですかね?」
「いや、長く鳴らしてましたね。」
「とれませんでしたね。」
「まあ、本当に用事があるならまたかけてきますよ。」

その後、21時まで仕事を続けましたが、電話が鳴ることはありませんでした。

現在も、同僚の皆さんは何事もなかったような顔で、毎日さらりと仕事をこなしてらっしゃいます。
要は『慣れの問題』なのだと思います。

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