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サトリ

私事で、本日、U町からS橋駅に向かっていたときの5分ほどのお話です。

私が歩いていますと、進行方向先から40代後半〜60代と思われる男性が歩いてきました。

髪色は黒かったけれど、頭頂部の肌が見えるほどの毛量に対して横髪が肩にかかるほど長くて、一見して落ち武者を思わせるような風貌をしていました。

相手の唇が動いて、何かモゴモゴと動き、喋ってるのだろうと思われました。

服装は虎柄っぽい綿入りジャンパーに、ニッカポッカ風に見えたズボンを履いていたように思います。

夕方のせいか、全体的に濃いめのサングラス越しにみたような黒さで、着衣の色や肌感は判別できませんでした。

本当に真っ黒に見えましたから、『汚れている』と瞬間的に思いました。

そうしましたら「汚いなー。」と、その男性の声が耳に届きました。

そちらを見ると、相手はニタニタと笑ってこちらを見ていました。

自然に、私は目を逸らしました。

ビル風が吹いてきたので、ファーのマフラーを押さえながら『寒い』と思いました。

呼応するように、近づいてくる男性が「寒い寒い。」と聞こえる声で呟きました。 

重なる偶然に『何か変だな』と感じました。

すると、男性も「変だなぁ。」と呟いたのです。

その声を耳にして、不安が過ぎりました。

『私の考えていることと同じことを言っているのでは?』と思いながら、ちょうど男性とすれ違った時です。

「一緒だねえ。」

男性はこちらを見ずに、ニヤリと笑った風の声で呟き歩いていきました。

私は新橋駅に向かう歩を早めるでもなく、
『ああ、偶然ってあるもんだなぁ。』
と呆けながら駅へ向かっていきました。

私は振り返りませんでしたから、その男性がその後どうであったかは分かりません。

よく考えましたら、このご時世なのにマスクを着用していなかったのは変な気がします。

また、ガラス戸の店舗の明かりが煌々と道行く人を照らしてたので、空が多少暗かったとしても、服の色くらいは判別可能だったかと思うのです。

けれど、それでも黒くて汚れた印象であったから、『ああ、路上生活者の方か。寒い中大変だなあ。』と思ったんです。

それなのに、すれ違った際には体臭のようなものは一切感じませんでした。

もしかしたら、サトリだったのでしょうか。
不思議な体験をさせていただきました。

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