電話の向こう
私が以前勤務していた学校は、職員が100名近くいて、職員室がとても広いものでした。
平日は職員室内が騒がしく、子供の声と教師の声と様々に聞こえていました。
ですが、夏休みに入れば、学校に来る子供たちも限られ、教師たちも研修やら休暇やらで、職員室はガラ空きの状態になりました。
8月、校内研修のため、私は出勤していました。
研修は午後からだったので、午前中から出勤し、2学期の教材準備として、職員室内で指導案を作成していました。
午前中から来ている職員はまばらで、周辺には学年主任や若手教師が、子供のケースについて話していました。
午前10時を過ぎた頃、職員室の電話がなりました。
電話から近い若手教師は主任と話していたため、私が電話をとることになりました。
「お待たせしました。○○学校です。」
私は、定形の口上で電話を受けました。
けれど、反応がありません。
本来ならかけてきた相手が何か話し始めるのでしょうが、全く聞こえません。
私は耳をすませました。すると、電話口の向こうでは、遠くで数人がガヤガヤと話す様子が聞こえました。
駅かどこか、人が居る場所からかけてきているのかな。そんな風に思いました。
日頃、保護者からの電話には人が多い場所からかけてくるケースもあります。
そんな時によくあるのが、周囲の音のせいで、こちらの声が聞こえずに「もしもし?」と繰り返し尋ねられるか、こちらが話し始めるのを待って無言になるといったものです。
後者のケースかと判断した私は、もう一度「○○学校、巳上が承ります。」と大きめの声で伝えました。
今度も反応がありません。
こちらから、もしもしと少しずつ声量をあげて伝えても、反応がありません。
むしろ、うふふ、クスクス、と笑い声が聞こえ始めました。
ああ、何だ。子供のイタズラ電話か。
分かってしまえばなんてことは無い話です。
夏休みで、友だち同士で暇潰しに学校に電話をかけたのだろうと思いました。
私は対応するのも無駄なので、「お電話失礼いたします。」と電話を切りました。
主任と若手教師がこちらを見ていました。
若手が不思議そうな顔をしているので、『イタズラ電話でした。』と答えました。
若手教師は、はい?と聞き返しました。
夏休みだから、学校にイタズラ電話かけてきたんだと思う、と答えると
「いや、あれ、内線の呼出音でしたよ。」
若手教師の言葉に主任が頷きます。
聞けば、職員室内線の呼出音なのに、外線電話の応対をした私を『夏休みボケしてるなー』と話したようです。
職員室には電話機がいくつも置かれ、外線でも内線でも電話ができたため、私がボケていて間違えたのだと思ったとのことでした。
でも、私以外に電話を使っている教師は居ない。
他の教室にも電話はあるが、そこは休業中のために棟ごと閉まっている。
じゃあ、この人は誰と話してるんだ?と、お二人とも考えたそうです。
「とにかく、こっちが困ってるのを笑ってました。」
と、私が事実だけ伝えると、止めてくれ、とお二人とも、さっさと話を切り上げ自分の仕事をし始めてしまいました。
今でも、子供のイタズラ電話にあたることはありますが、内線からのはそれきりです。
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