生まれて初めてガチの野良猫を保護した話・最終回
全部わかってる
2020年6月28日、私は里親さんに、しっぽを正式譲渡してきました。車にしっぽを乗せて、えつこさんと夫と3人で、里親さんのご自宅まで、しっぽを送り届けました。
しっぽを正式譲渡する日程が決まったのは、2週間ほど前のこと。その日から今まで、私は、とにかくしっぽがストレス最小限で里親さんのおうちにいけるよう、注意を払ってきました。
里親さんのおうちまで、何度か車で行く練習をしたり。しっぽが使ったケージやタオル、お皿に段ボール、爪とぎ、ブラシなどなど、においがついたものはすべて一緒にお渡しすることにしたり。譲渡することをしっぽに気づかれないよう、荷物の移動は前日まで一切行わず、いつもと変わらない態度で接し続けました。
里親さんのご家庭には、小さなお子さんが2人います。子供って、大人が泣いたりしたらきっとすごく衝撃を受けてしまうから、しっぽの前でも子供たちの前でも、絶対に泣かないぞ、と固くかたく決意。
それなのに。
いざ譲渡のためにキャリーケースに入れようとすると、しっぽの様子がいつもと違うのです。病院に連れて行くときは、多少嫌がるものの、キャリーに入れるとすっかり大人しくなり、観念するのですが、今日のしっぽは、とにかくものすごく鳴いて、抵抗するのです。
えつこさん曰く、野良猫というのは、滅多なことでは大声をあげて鳴かないのだそうです。なぜなら、声を出すと天敵に見つかってしまい、危険だから。確かにしっぽも、7ヶ月間一緒にいても、大きな鳴き声はほとんど聞いたことがありません。そのしっぽが「くうーん、くうーん」と鳴いて逃げる。キャリーケースに入れてからも、ずっと鳴き続ける……。
里親さんのお家に連れて行き、今まで使っていた二段ケージを設置したあと、しっぽと二人だけでお別れをする時間をもらったのですが、そのときもしっぽは、こちらがハッとするような、見たことがない表情を浮かべているのです。なにかを悟ったような、諦めたような、寂しそうな上目遣い。こんなしっぽは、はじめてでした。
猫は、人間よりずっとするどい勘で、すべて分かってるんだなあ、感じるんだなあ。そう思ったとき、我慢していた涙がポロっとこぼれてしまいました。――そんな顔しないで、しっぽ。今はまだ実感できないかもしれないけど、里親さんは優しい人たちだよ。私と仲良くなってくれたみたいに、時間はかかっても、しっぽは必ず里親さんたちを大好きになるよ。大丈夫だよ。
ちょっとだけ泣いてしまったけど、すぐにいつもの調子で、明るく優しいトーンを意識しながら、声をかけました。
「しっぽ、こわくないよ、おともだちだよ」
保護してからの7ヶ月、おそらくしっぽに一番たくさん繰り返したこの言葉を、私は最後にもう一度伝えながら、ふわふわの体を何度も撫でたのです。
ゆっくり、少しずつ
しっぽを保護してから今まで、本当にいろんなことがありました。
公園で見つけた、ボロ切れのようなしっぽに、
毎晩ごはんを食べさせに通い、
えつこさんに助けてもらって、どうにか捕獲し、
我が家に保護しても、最初はまったく馴れてくれず、それでも少しずつ、少しずつ仲良くなって…
なでられるようになり、ケージの外にも出られるようになって、他の猫たちとも仲良しに。
体重も、ガリガリだった2.7キロから、適正体重の3.9キロまで増えました。
上の写真は、我が家でしっぽを写した最後の一枚です。しっぽは、すっかりお気に入りになった私の枕で、気持ちよさそうに寝ています。
一見なんてことないこの一枚の中に、この7ヶ月のしっぽの変化が、実は、沢山たくさんつまっています。
ケージから外に出て、違う部屋に自ら行き、くつろげるようになった(最初はケージがある部屋以外は、怖がって行けませんでした)。
ベッドの上に乗れるようになった(ベッドに乗っても、警戒して1秒で降りてしまっていました)。
一眼レフカメラを向けても、目を覚まさなくなった(私が同じ部屋にいるだけで、絶対寝ようとしなかったのに!)。
横になって眠れるようになった(警戒して、寝るときも、すぐ動けるように、うずくまるような姿勢をなかなか崩しませんでした)。
毛がふわふわになった(保護したときは、バリカンさえ入らないくらい、長い毛が絡まってぶらさがっていました)。
しっぽ、ありがとう。たくさん怖い思いをしただろうに、もう一度人間に信頼を寄せてくれて、心を開いてくれてありがとう。しっぽのおかげで、猫という生き物のことが、今までよりもよく分かり、今までよりさらに好きになりました。
我が家にいるときより絶対に幸せになれるよう、えつこさんとしっかり選んだ里親さんだから、どうか私にそうしてくれたように、ゆっくり仲良くなっていってください。しっぽはかわいいところがたくさんある素敵な子だから、きっと愛してもらえるよ。私も、そんなしっぽを保護できたこと、本当によかったよ。ずっとずっと忘れないよ。
さて、この『生まれて初めてガチの野良猫を保護した話』は、今回で最終回です。私は今後は元保護主として、里親さんをサポートしつつ、しっぽの猫生を遠くから見守り続けます。
みなさんも、もし外で、具合が悪そうな野良猫を見つけたら、少しでいいから、どうか気にかけてあげてください。
ほんのちょっとの優しさで助けられる命はたくさんあり、きっと一見狂暴そうに見えるその子は、しっぽのように、愛すべきとても尊い一面を、隠し持っているはずですから。
ここまで読んでくれて、ありがとう!
我が家の猫たちとのエピソードはこちらに。