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台湾有事シナリオ:開戦から戦後復興までの道のり

■2027年の危機


近年、台湾海峡をめぐる緊張が日に日に高まっている。特に2027年以降が重要な転換点として注目されているが、これは単なる憶測ではない。中国軍の近代化計画が完成期を迎え、米軍との軍事力格差が縮小すること、AIや無人機技術の発展により人的損失のリスクが低下すること、そして極超音速ミサイルなど新技術の実戦配備が完了することなど、軍事的な要因が重なってくる時期だからである。

政治的な観点からも、習近平体制の正統性維持の必要性や、台湾統一に関する期限設定への圧力が高まることが予想される。さらに、米国の同盟システムへの信頼が揺らぐ可能性や、中国の内政問題から目を逸らす必要性など、複数の要因が重なってくる時期でもある。

更に付け加えるなら、先ごろ行われたアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプ氏が返り咲きを果たした。一度敗れた大統領が三度目の正直で返り咲くのは実に132年ぶりだそうである。話がそれたのでもとに戻すが、ようは「やつ」が帰ってきたのだ。世の中に不安定の種をばらまくトランプが、再び世界最高の権力を持つ椅子に戻ってきたのである。これは具体的に台湾有事の発生確率やそのあり方にどういう影響を与えるのか、先々を読みにくくなったのは間違いない。

◼️短期ルート

では、仮に台湾有事が発生した場合、戦闘はどの程度の期間続くのだろうか。多くの軍事専門家や研究機関の分析によると、最も可能性が高いのは1-3ヶ月程度の中期シナリオである。これは、米軍の本格介入を含み、主要な軍事作戦が完了するまでの期間として想定されている。

もちろん、より短期のシナリオも考えられる。中国軍が電撃的な勝利を目指す場合や、台湾の抵抗力が予想以上に弱い場合、あるいは米軍の介入が遅れる場合などには、2-3週間程度で主要な戦闘が終結する可能性もある。

■長期ルート

一方で、戦闘が膠着した場合や、多国間の介入がある場合には、6ヶ月以上の長期戦となることも考えられる。特に経済戦を含めた総合的な戦いとなった場合、その影響は軍事面にとどまらず、より広範な領域に及ぶことになる。

ここで注目すべきは、たとえ戦闘自体が短期で終結したとしても、その経済的影響は極めて深刻で長期にわたる可能性が高いということである。特に日本への影響は甚大なものとなるだろう。

■シーレン防衛は盤石か? 経済はどうなる? 財政破綻?

日本はシーレーン(海上交通路)を通じて、石油・食料・肥料・種ほか様々なものを世界中から輸入し、それらを加工して輸出する経済構造を持っている。台湾有事によってシーレーンが危険にさらされれば、この経済の生命線が大きく損なわれることになる。

不幸中の幸いというべきか、塞がれるシーレーンは南シナ海とその出口にあたる海峡(台湾海峡とバシー海峡もふくまれる)、及びその周辺のいくつかに限定される可能性が高く、太平洋上のシーレーンまで本格的な危機に陥る可能性は低い。なぜなら、さしもの中国海軍でもそんな本国から遠いところまで言っていちいち商船を追っ払う、なんて芸当は難しいのではないか。それに万が一そこまで中国軍が手を広げれば、アメリカのより本格的な介入を招くことになりかねない。

とはいえ、物資の流入量は著しく減少し、物価の大幅な上昇は避けられないだろう。さらに、便乗値上げや売り惜しみを行う悪徳商人の出現も予想され、物価上昇に一層の拍車がかかることになる。最悪の場合、戦争に巻き込まれたことで日本円や国債などの信認に決定的な傷がつき、通貨・債券・株価のトリプル安を経て、経済破綻への道をたどる可能性すら否定できない。そんなことになれば、病人は薬をもらえず人工透析も受けられずに、病苦の中で苦しみ抜いて亡くなる人が大勢出るかもしれない。生活保護や年金をもらって暮らしていた人たちも、支給自体を打ち切られたり、もらえても円の価値が落ちたことで満足に物が買えなくなり餓死する者が出てくるかもしれない。このように経済が大混乱に陥れば、大量の弱者がばったばったと地面に帰っていくだろうことは想像に難くない。

戦争が起きたにも関わらず、経済に一切の影響がないなどということはありえないので、財政が脆弱な我が国ではかなりの高確率で、国内経済・財政が荒れに荒れるだろう。そして私はこれが明治維新や第二次大戦敗戦にならぶ、近代日本3度目の「グレートリセット」になるのではないかと予想している。

■「もはや戦後ではない」状態になるまでには何年かかるか

では、戦前の経済水準に回復するまでにはどれくらいの時間がかかるのだろうか。多くの経済専門家は、基本シナリオとして7-8年程度を想定している。これは第二次世界大戦後、「もはや戦後ではない」という有名な言葉が政府の白書に登場した1954年(終戦から9年後)という歴史的事実とも整合性がある。

回復過程は、大きく三つの段階を経ることが予想される。最初の1-2年は危機対応期として、緊急経済対策の実施や代替供給網の構築、インフレ抑制策などが実施される。続く3-5年目は構造改革期として、産業構造の転換や新規貿易ルートの確立、金融システムの立て直しなどが行われる。そして6-8年目には回復安定期を迎え、経済指標が戦前水準に戻り、新たな成長モデルが確立されると考えられる。

ただし、この回復過程は決して直線的なものではない。産業によって回復速度に大きな差が生じ、新たな成長分野が出現する一方で、地域による格差も拡大するだろう。また、人口減少や高齢化、財政赤字の拡大、エネルギー依存度の高さといった構造的な問題が、回復の足かせとなる可能性もある。

一方で、回復を早める要因もいくつか考えられる。技術革新の加速や新産業の創出、規制緩和の推進、労働市場の柔軟化、新たな経済圏の形成などである。また、国際的な投資誘致も重要な役割を果たすだろう。

■直接の生傷(戦争による物理破壊)より、銃後の慢性病(経済苦)が深刻

このように台湾有事は、たとえ軍事的には比較的短期間で決着がついたとしても、その経済的影響は極めて深刻で長期にわたることが予想される。今後は、経済的なリスクヘッジや代替供給網の構築、エネルギー自給率の向上、食料安全保障の強化など、有事への備えを着実に進めていく必要がある。それは決して容易な道のりではないが、避けては通れない課題なのである。

なお、これらの予測は、戦争の規模や期間、国際社会の対応、各国の政策対応の効果などによって大きく変動する可能性があることを付け加えておく必要がある。しかし、いずれのシナリオにおいても、事前の備えと冷静な対応が、その後の回復過程を大きく左右することは間違いないだろう。

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