効率や利便性とはかけ離れていることだけれど、でも失いたくないものを復元する感覚だった
6月15日・16日と、全国から来るチルチンびと・地域主義工務店の会見学会がここ埼玉県にて開催された。15日には総勢30名ほどの方々が、ますいいリビングカンパニーの川口市里にある「暮らしを楽しむ作り場」の見学にお越しいただいたのであるが、日本全国の非常に良質な工務店経営をされている方々が大勢起こしになるということでなんとも緊張した次第である。
合計2時間ほどの見学時間、建物の設計や各種仕様、会社の運営方針などについて詳しく説明させていただいた。僕は若い頃は建設同業者の会というものをあまり大切にしてこなかったのだけれど、今はこういう時間をとても大切にしている。というのも、やっぱりさまざまな経験を持つ方々に学び、その学びを生かしながら自分の会社の独自の型を生み出していくこと、つまり「守破離」の如き思考と行動が一番だと思うからである。
例えば「木の家」という言葉について考えてみよう。ただ単に木を構造材として現しで使っているだけの家もあれば、こだわりの産地の国産材を使用している家もあるし、国産広葉樹を丸太で買って製材し造作に使用している家もある。木の扱いひとつとっても実はその幅は大きく、より山に近いところまで遡っていけばいくほどに素材が良くなるだけでなく、価格も求めやすくなるという利点がある。でもそれをますいいの家づくりに取り入れるには、まず自分の足で吉野の山まで木を見に行って、それを製材する様子を見て、「この木で家を作りたいという気持ちになる」過程こそが何よりも重要なことであった。僕はその機会をチルチンびとの山下編集長からいただいた。実際には吉野の山に生える樹齢140年の杉の伐採見学ツアーをしていただいたのだが、木を切る瞬間に聞こえたような気がした「木の声」のような響、チェーンソーを入れた瞬間に木から噴き出す水飛沫、そして木が倒れる瞬間の地面を揺るがす轟音は一生忘れることができないと思う。この過程を経て僕の頭の中には、日本の山の木を使いたいというとても強い信念が生まれたのである。
健康住宅という言葉も同じだ。この建築ではベニヤ板・ビニルクロスのような新建材を一枚も仕様することなく、全てを無垢材で作り上げた。この話を普通の工務店の方が読んだら、何を馬鹿げたことをやっているのかと言われるだろう。一度便利になったものを巻き戻すのはなかなか大変なことであるのだ。こういうことをしようとすると必ず否定する人たちが現れる。そんなことできるわけない、やったことがない・・・色々なことを言うけれど、でも昔の人はやっていたことなんだよと説明し、納得していただいた。と言うのも高機密住宅の中に化学物質を発生する新建材を仕様したことで現代人のシックハウス症候群といったアレルギーに起因する病気が増えたことを考えれば、ある一定数存在する化学物質に敏感な方にはとても大切なことだと思ったからである。効率や利便性とはかけ離れていることだけれど、でも失いたくないものを復元する感覚だった。
兎にも角にも、今こうして皆様に見学会に集まっていただいたことに改めて感謝したいと思う。