羽根田卓也が積んだ石とはどんな石か? | 東京オリンピック カヌースラロームカナディアン男子感想
「羽根田卓也メダル獲得ならず」そんな言葉で報道された日でした。
大前提として、僕はカヌースラロームをメインでやっている選手では無いし、羽根田選手を語る様な間柄にあるわけでもありません。
ただ、彼のレースを見たときに同じリバースポーツに携わる身として、心躍る時間を与えてくれた彼に感謝の気持ちが湧いてきて、ちゃんと記しておきたいと思い、書いています。
僕が羽根田卓也という選手を知ったのは2012年のロンドンオリンピックの時でした。当時は近い年齢の方で若くして海外に渡って日本代表になられているカヌーの選手がいる程度の認識でした。
その後少しずつカヌースラローム競技を見る様になりますが、自分のやっているレースラフティングに活かせる部分はないかといった観点での目線で選手自身を意識することはほとんどありませんでした。
きっかけはリオデジャネイロ オリンピック
ほとんどの皆さんがそうである様に羽根田選手をしっかりと認識するのはリオデジャネイロオリンピックでの3位という結果を見てでした。
この時期から羽根田選手のメディア露出が増え、情報に触れる機会も増えました。そこからですが、彼に関して発信される情報を注視する様になります。
最初は興味本位で眺めていただけなのですが、彼から発せられる言葉や姿勢にすごく好感が持てました。
東京オリンピックの延期とYoutubeでのコメント
特に自分が共感できたというのが、足立和也選手 (東京オリンピックカヤックシングル日本代表)のYoutubeのゲストで羽根田選手が出られていた際に足立選手が羽根田選手のことを「今のカヌー界を作った人なので、お世話になってます」と発言された後に返されたセリフでした。
※良かったらリンクしておきますので、ご覧ください。
「確かにリオの表彰台に立ったのは自分だけれども、自分がやったという感覚がない」と「先輩たちが積み上げてきた石があったからこそ自分が石を積むことが出来た」と話されていました。
さらに、「もしかしたら自分が最後の1個前の石だったかもしれない」とも話されていて、自分が感じたのは彼は自分自身をゴールとしない未来を描いているのだなとという印象でした。
スポーツ選手なら当然と思われるかもしれませんが、自分がプレーできる時期にそこまでの世界観を体現できる人は稀有な存在です。
この動画を見た時から、彼にノれるというか応援したいという気持ちが日に日に強くなりました。
7月25日予選、手を合わせ準決勝進出を願う
当日LIVE配信をネットで拝見しながら多くの海外選手の中でやや小柄に見える羽根田選手がいました。
ジャケットの上からでも伝わるフィジカル面での差、メディアで見る彼の肉体をイメージすると海外選手はどれほど体が作られているのかと圧倒されてしまうほどです。
今回のカヌーコースは昨年僕も何度か漕がせていただいたことがありますが、場所場所での波のパワーが強い印象でした。
7月上旬に変更された今オリンピック向けコース設定は、当日動画で拝見しましたが、自分のイメージよりさらにシビアな技術、筋持久力が試されるコースだと思いました。
羽根田選手は以前にも何度か川の流れを読むことが重要であると話されていましたが、素人目で見ると今回のレースではフィジカル面で消耗が大きかったのかなと感じました。
そんな中、予選は13位で準決勝進出を決められました。
7月26日準決勝、厳しいかと思われたが1stランをペナルティ無しで終え、決勝進出
準決勝は前日までの後着順でのスタートです。
羽根田選手は予選13位なので3番目のスタートでした。
この日も序盤で消耗する要素のあるセットだったと思いますが、その中でナルティなしでゴールします。
初見のセットでノーペナルティでゴールできるのは感心しましたし、昨日より調子良さそうだなとは感じていました。
羽根田選手は10位と決勝進出となりました。
7月26日決勝戦、タイムを削るために勝負に出た。
準決勝で10位の羽根田選手とトップとの差は約7秒。
これはカヌースラロームのトップクラスのタイムとしては相当な差だと思います。
そのことからか、リスクを承知で攻めないと勝ちは無いと踏んだのでしょう。タイムを削るべく攻めたラインで勝負をしかけます。
準決勝進出の10人中10位のため、下位からのスタートですので、羽根田選手が1番手でのスタートでした。
準決勝でミスした場所は改善もできていましたが、タイムを削りに行ったポイントでペナルティ(ゲートへの接触)が出てしまいました。
その後、後発の選手がより早いタイムでゴールするのを見ていて、画面越しに切ない気持ちになりながらも上位陣の素人目にもわかるキレの良さに圧倒されていました。
結果、決勝で順位を上げることはできず10位でのフィニッシュとなりました。
メダルは取れなかったが確実に石は積んだと感じた
おそらくご本人が望んでいたのは、金メダルという結果であって、前回の銅メダルからすると後退したとの印象をお持ちの方もいるかと思います。
ただ、この戦いを多くの人々に見せたこと、見てみようと思わせる動機を創ったことが何よりも価値のあることだと思いました。
この行為が彼が言っていた石を積むということなんだと思います。
日本カヌー界が羽根田卓也という大きい石の上で更に石を積むときにまたメダルを獲得できるのだと思います。
パリは3年後、次を目指すことも十分考えられる?
彼は東京五輪を自身の集大成と語っていました。
言葉通り捉えると東京五輪で引退すると考えている人もいると思います。
ただ、次が3年後と考えた時にもうちょっと頑張ってみようと考えることは十分有り得るかなと思いました。
カヌーという競技はサッカー、野球といったコンタクトスポーツと比べて怪我により選手寿命を縮めてしまうリスクは低いスポーツです。
勝手なことを言いますが、ご本人の身体さえ問題なければ、最後の挑戦をする可能性を考えてしまいました。
何はともあれお疲れ様でした!
この言葉に尽きます。
凄くワクワクさせて頂いたし、東京オリンピックを見る一つの理由でした。
またその言葉は羽根田選手だけではなく、他カテゴリで出場された、足立選手、矢澤選手、佐藤選手に対しても同様にお伝えしたいです。