予言者の話をしよう2

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第二章 運命のテスト

Aサイト

私はたしか2006年頃にインターネットで運命に出会った。
そのころ、「ほぼ日刊イトイ新聞」という大手の奇跡的に炎上しないインターネットメディアがあった。それと同時期にやはり奇跡的に炎上しないメディアがあった。この本命サイトを以下で「A(サイト)」、主催者を「Aさん」とよぶことにする。
「Aサイト」と「ほぼ日」はどちらも大人読者向けで真剣かつ軽妙な筆致のエッセイの多めなサイトであり、どちらも商業的にみとめられたタイトルロールをうけもつ作家がきめ細かくディレクションしており、セレクトされた書き手のコラムを日々掲載して更新しているサイトであるところも似ていた。
私は「ほぼ日」にはあまり興味をひかれなかった(手帳が売れていることは知っていたし、たまにMOTHERつながりでニンテンドーの岩井さんとの対話がでると読んだりもしていたが)。
だが「Aサイト」は、もうちょっとくせのある、万人向けではないサイトで、日本の内科医B氏のコラムを掲載していた。(以下でBと呼び捨てにする)
Bのコラムは初見でははっきりいってどうみても眉唾ものだった。なぜAサイトに掲載されているかちょっと疑問にもおもった。
Bは「○テスト」(仮名)という診断法であらゆることを診断できるという。そして、○テストで身の回りをすべて判定していくと、身の回りや患者さんに、電磁波の影響、ワクチンの影響がみつかったというのだ。
これらは当時でさえまともな感覚では読んでいられない話題ばかりだった。今でいうコロナの反ワクチンのようなエセ科学の味方をして居るようにも読める、あぶなっかしいコラムなのだ。
「…そのうち宇宙からの電波の話をしだしそう。いつか必ず炎上する。私がさっと読んだだけでも主張の食い違いをいくつか発見することができるに違いない。」
そうおもって最初は半信半疑で読んでいたのだが、(過去分も無料で読めたので)数日かけてすべて読み通した私は、Bさんの話の内容よりも話ぶりにひかれていた。朴訥な田舎者で、巧言令色少なし仁を旨とする理系ともまた少しちがう。押しつけがましさがない。
それに、眉唾にしてはBさんはAのなかで丁重に迎え入れられている。BさんはAさんからコラム原稿料をもらっているはずだが、だからといってAさんにも配慮しない文を書く。
Aさんは作家であるのだから、本来ならまっさきに、「○テストでAさんを診断したら作文能力が抜群だった、これはよほど訓練したにちがいない…」とかいっておべっかをつかうはずだ。
でもそうではなく、Aさんのことは診断を掲載せず、たまにその他の芸能人やスポーツ選手について診断してみせるにとどめていた。「うまれつきの性質」はこれ、今怪我しているのは衰えた部分がここだ、治療するには○○を食べたほうがいい、なども指摘している。まるで占いみたい。あなたの今日のラッキー食べ物は?

○テストと協会

実際のところ、Bのつかう○テストそのものはBの専売特許などではなく、別の医師であるCが米国で留学中に開発したものだった。
その利用方法はこうだ、ごく小さな腫瘍や生ワクチンの残渣などが患者の体のどこかにあると○テストで陽性反応が出る。出た場合は、次に漢方薬を一包みずつ患者の手に持たせては○テストを繰り返す。漢方薬をいれかえてスクリーニングしていき、○テストで陰性に近づく組み合わせの漢方薬をみつけるのだ。○テストは対面であれば手が触れる程度で非破壊で検査でき、速度は1回の試行で一秒もかからない。
これはなかなか日本では根付かなかった漢方薬処方の際の「証」診断を、わかりやすく可視化したもの。つまり日本アレンジ版の証診断とみえた。
これを知ったときに私は、中国の伝説によればいにしえの名医農医は黙って座ればピタリと当たる占い師のようなものだったと伝えられていることをおもいだした。
私のようにドクターショッピングをせざるを得ない弱者は、「私が口で訴えた少ない情報だけで勝手に判断されてしまう」「私の全体をみて診断してくれない」そんな現代医療に疲れはてていたのだ。

さて、Cは○テストの講習ビデオ動画を作成し、またCの直弟子D(南のほうにすんでいる)に講習会を開催させて○テストを日本に広める下地をつくった上で、本人は引退した。
Dは○テストに関する協会を組織し、サイトを開設していた。当時の状態でも、講習をうけ認定された各地の○テスト認定医がリストとして掲載されていた。一応しらべた範囲では、認定医の項目に掲載されているのは厚生労働省の医師名検索にちゃんと出てくる内科医が多かったとおもう(全員調べたわけではない)。また鍼灸師やあんま師も最近はリストに掲載されている。

医師の欄だけみても、各県とまではいかなくても全国の隣の県にはいそうなくらい、ぱらぱらと日本中にまかれた希望の種のようだった。私の住んでいる場所の近くにも認定医はいた。
また、そのころは医師のサイト開設が増えていたので、Dの協会から正式な認定を受けていなくても、「当院では○テストで診断や治療ができます(保険診療外)」とさりげなくサイト内に標榜している医者・歯医者も増えてきていた(医療は商売ではないので商標法上の独占はあまり有効ではなかったのか、Dが炎上を避け知名度を取ったのかは外からはわからない。外から見る限りは、標榜程度はわりと野放しに見えた)。

つまり当時は、BやDなど認定医も、それ以外の未認定の医者も、○テスト(名前が違う場合もある)をつかって保険外診療(漢方薬の処方や食餌アドバイス、着衣アドバイスまでを含む)を○テストでおこなっていた。

ところでB,C,Dたちの診療サービスはチェーン店のように全く同じだったかというと、みたところ違っていた。
そもそも、どうやらCは最初は薬(それも漢方薬)の処方だけに○テストを使うつもりだったらしい。ただDやBなど弟子たちが、おのおの、フロンティア精神で対象をひろげた。
特に「あなたが普段つかっている(好物の食品/衣類/食器/枕/ペン/歯ブラシ/ベッドの写真/デスクチェアの写真…)を持参すればあなたが使ってよい物品と悪い物品とを指摘してあげます」というサービスを発明したのがBだった。(たぶん他の医者も○テストがつかえればできるはずだが積極的には書いてなかった)

当時のわたしは、喘息の抗原検査がハウスダストだったことで、当時高価でうられていた空気清浄機(プラチナ線からプラズマイオンを放出するというもので、かなり大手の通販カタログで一推しされていた)を買って枕もとにおいていた。
これがまた線が切れたら1万円も出して買いかえなければいけないし切れかけは音がジージーうるさいし。手間ばかりかかった。
こうやって自分の体のための機械を自分より頻繁にメンテしなければいけない生活などにも疲れ果てていた。(なお、のちにこの手の空気清浄機はHEPAフィルターの登場で駆逐された。当時はHEPAはなかったのだ。)だからこの生活品の善し悪し判定サービスは喉から手がでるほどほしかった。
 
またB,Dたちは世間では手に入りにくい健康食品や衣類や雑貨(当然○テストをパスしたものだけ)を置いて販売した。だが、売っている品目がそれぞれ異なっているのがおもしろいところだった。購入は任意だった。
一方で漢方薬はほぼ強制購入だった。これもなぜ院外処方できないのかをちょっと疑っていたが、受診したときにわかった。漢方薬の名前はすべて診療時に患者に告げるが、なにしろ、○テストではかなりめずらしい漢方薬が候補に出てくる。普通の薬局では棚に無く、取り寄せでも手に入らない(やはり漢方にもOTCではなく処方でしか買えない薬があるようだ)。
だから、いろんなメーカーの供給品から「○テストでヒットしやすく、値段のわりに高品質な漢方薬」をあらかじめそれぞれに選びだして手元に備えてあるのだ。

こうしていろんなサイトやCのビデオや部外者の既刊を調べて、生活全部をオーダーメイド医療の対象にできるのが○テストによる診療の特徴だとわかってきた。できれば自分自身でも○テストをやってみたくなるのも当然だろう。
だって2007年でもまだ私の体は弱いし二人目も妊娠できていない。ひっこし後の地元の総合病院の産婦人科でみてもらったら、精子はおよいでいたし卵管もとおりがよかった。ヒトゴナドトロピンホルモンも反応した。でもさあAIHとなると、病床建て替えのためやってませんと断られてそれっきりだった。ほかの個人病院にもサイトをみて選んでいくつかいったが一人目がすでに生まれているとなると医者は途端に熱意を失うことを知っただけだった。
○テストで身の回りをととのえたいし、そのためにも目の前で一度みてみたい。無認可の医者でもできるなら私だって、身の回りのグッズの判定くらいは習えばできるかもしれない。Bもそれをコラムですすめている。

受診(歯科医E)

そのころにはBはAサイトでのコラムは更新を停止していた。そして自分のブログをamebaかどこかに開設していた。あいかわらずひょうひょうと「この物は人によって悪さをする、こっちは体にいい。野球選手××さんは脳の△を漢方で治療するとホームランが打てる」などと好き勝手に判定している。また個人サイトになったので、出張診療の受診案内や講演会の案内も堂々と掲載されてあった。
講演会にいきたくてもののついでに参加しようとしたら、用事が遅れて、会場に終了間際に到着してしまった。まだやってますかというと残念なことにもう終わるところだったが、会場の人がはけたあとB医師の顔をみることができたし、遅れて残念ですと話しかけると、会場内にもまわして触らせていたという陽性と陰性の布製品のサンプルをさわらせてもらえて「私にもわかった」。うれしかった。

その後やはりB(あいかわらず大人気)に予約を取ろうとしてサイトを通読するとこんな記載をみつけた。
「虫歯を金属の銀歯で埋めている人は、それを樹脂に置き換えてから来てください。銀歯があると診断も治療も無効になります。とくにインプラントで金属を顎の骨にいれることは絶対にやめてください。」
それで、銀歯を先に治療した。認定医リストには近所がなかったが、○テストの別名でググったら歯科医Eが近所にあることがわかった。うまく探せたからこそ、勇気がでたのだ。
Eに予約をとってでかけた。○テストは保険外診療なのでお金はかかったがその後の歯科通いがピタリととまった。もうなにも痛くない。
ヤブ歯医者は何度も通ってもうけさせてしまったのに、こういう名歯科医は一度しかもうけさせられなくて申し訳ないとおもったくらいだ。Eによれば私の銀歯は小学校のときにつめた昔ながらの水銀入りのアマルガム(合金)で、その水銀がずっと体に悪影響だったのだそうだ。そりゃそうだ、水俣病の原因じゃないか…。また○テストをつかった仕上げでかみ合わせも抜群によくなった。さらに、○テストだからということで珍しい漢方薬3種も処方してもらえた。とはいえ、徹夜をするとまだ歯が浮く(あたりまえ)。

受診(内科医B)

2008年ようやく準備がととのい、B医師にかかることができた。2016年まで、合計で11回会いに行った。会うたびにいろいろと違う部分を指摘されてはっと気付いては生活を改善し、もらった薬をのんでは、まずくなった時点で中断した。
特に一番若い家族は義務づけられたワクチンをすべて打ってそだてているが、そのワクチン(この子の場合はとくにはしか。MRは生ワクチン)の副作用がのこっているために体が動きにくく苦労していたので漢方薬で影響をなるべく排除してもらった。
QOLは確実に上がっていたと思う。お金は医療費控除の枠内の年も、ワクを出る年もあった。また、家族も順繰りに同伴して診療してもらったので、いろいろなエピソードがある。

全員、だまって座って顔を見せただけでBさんに性格をばっちりいいあてられたこと。
「あなたは鼻の下に胃が反応するから(←??)研究者肌ですね(!)」といわれた家族。実際一人でもくもくとつきつめて仕事をしている。
私は「あなたは小説を書くのと本をつくるのがいいですね。イラストもいいです、漫画はダメ」といわれた。実際、家族だれにもいわずにパソコンで小説同人誌をつくっているときにいいあてられてうれしかった。
私自身も○テストをみようみまねで使うようになって、買い物で洗うと毛玉だらけになってしぼむ服、といったようなハズレをひくことが少なくなり家族全体で得をしている。
新築の家も○テストで建材などをきめた。
あるとき、年上の家族からインプラントしようかと問い合わせられた。「Bさんがやめとけっていってるから絶対反対」といったのに家族は「もう決めたことだから」と強行した(じゃあなんで聞いたのか)。そうしたら、案の定、血液系の難病にかかった。患者会のサイトではやはりインプラントをしてかかった人がけっこういるらしい。
その家族はめげずに自宅の近くで○テストのできる歯医者をみつけて通い始めたし、鍼灸師でも○テストににたやり方で電磁波の影響が強い人かどうかみてもらった。体が勝手にぐらぐらして自分でもすぐ影響がわかったという。そして「あなたは電磁波に弱い人ですからきをつけて」といわれ、鍼治療を受けたあと、体に合うサプリを処方してもらって難病なのに強健になっていき、現代医学の薬は副作用が大きいことで主治医と相談して減薬に減薬をかさねて今は最初の1/4量で頻度もへらして家族の介護を担っている。
もう一人別の難病の家族も一応受診したし薬を飲んだ。大震災の前後で、もういちど受診する予定が潰えたので、その人に前のと同じ漢方薬をとりよせておくった。(その病気の人としてはびっくりするほど病状の進行を遅らせられたとおもうが、本人は、もう二度とたのまなくていいといっていた)
2014年ごろには、○テストをみようみまねで覚えた私がインターネット通販にためしにつかったらちょっと得をしてしまった。(詳細は悪用されかねないから書かない)

ただ、二人目不妊はとうとう内服薬などでは最後までなおらなかった。運動不足など努力不足だったのかもしれない。
2016年には○テストと関係ない医者で卵巣の手術を受けることになったが、ちょっとした手落ちで手術中ひどい目にあった。
その直後にもB医師に会いに行く予約が入っていたので「ひどい目」のほうを相談したり、術後の回復にもいい薬をもらった。B医師にあったそれが最後になった。

2019年、B医師が無くなったとブログに告知があった。
2020年、私は三回目の入院をした(胃腸)。また持病もますます増えてきている。B医師にあえないと老いが早足でかけてきた。

でも、B医師のおしえはまだ書き残したブログの生活指針の中に生きているとおもう。
真ん中に鉄棒でささえているオフィスチェアは電磁気がでており生殖器にも悪いから、使わないことといっていたなぁ(受診まえから私の腰の痛みをすくってくれたコラム内の助言)。
電灯の笠、紙箱、針金ハンガーを家の中から捨てること。電子レンジの真上にあたる部屋に寝ないこと。アトピーになったら服の内側の白いタグを全部切り捨てろ。ターポリンの上に食事を置こう。
コーヒーがウイルスに効くことがある。ブライト(コーンシロップ)もウイルスにきくことがある。
……などなど。本当にたくさんある。

第三章 予言者

批判

※以下は有料noteになります。
有料化の理由。B先生の批判者は遠慮無くB先生の実名やコラムをコピペして批判というか連呼して醜く踊り狂いました。そこへのリンクを貼ってあるのでたどればB先生の本名を署名したコラムが全部読めるでしょうね。
私からは、「ニセ医学ときめつけて八つ当たり先に使おう」とか、「ニセ医学かもしれない別のオーパーツ医学に補強理由がほしいので受診もせずよく読みもせずにコピペしよう」程度の理由で、むやみにB先生の情報を検索してほしくないんです。たとえB先生が亡くなっていても。B先生にたすけられた患者以外だれも辛くなくても、です。
けれど、本気で同じような状態にくるしんで治療法をさがしている方のためになら実名や元コラムの場所をだしておきたいという葛藤の結果の有料化です。

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