45日目 ぞ。

検温、血圧チェック、朝ごはんからのトイレといういつもの流れに加えて、散歩が習慣になった。散歩といっても歩けないので、車椅子だ。右足が使えるので操縦ができる。左足自体は怪我なく使えそうなのだが、骨盤に負担がかかるので使うのは禁止。我慢の左足。

回診の気配を察してベッドに戻る。遠くの部屋にぞろぞろと先生の集団が入っていくのが見えたのだ。さぁ、今日は何が判明する日なのだろうか。

整形外科の回診では、大勢の先生方がベッドを取り囲む。

「おはようございます、今日から歩く練習です」

待ってました!

救急科の回診では、気管切開の跡をチェック。

「あー、まだふさがらないねー」という時の顔をみると、残念な気分に拍車がかかる。

「話をする時は押えると、塞がるのが早いかも」

もうすでにそうしているのだけれど。穴を塞ぐオプサイト付きガーゼは、何度も皮膚に貼ったりはがしたりを繰り返している。喉の薄い皮膚が赤くひりひりしてきたので、今日ははがした後、1時間ほどオープンの状態にしておいた。それにしても、なかなか塞がらないのどに不安を感じる。気にしないフリをしていても、やはり気になる。毎朝ガーゼをはがしてみる度、期待はずれの穴がそこにあるのだ。

焦っているのかな。疲れているのかな。自分を励まし続けるのは疲れるよな。前向きになりたい。右足が、今の私の希望。

言語聴覚療法リハビリでは、前回の「ハノイの塔」の続きをする。今日は6段からのスタートだ。4秒47。次回またタイムを計る。パズルは楽しい。

作業療法リハビリでは、左手首を中心にマッサージ。曲がる角度の記録をとる。世間話をしながら。なかなかうごかない左手首だけど、辛抱強く待ってくれる。褒められるとうれしいから、リハビリ頑張る。

今日の夕方も車椅子で外に連れて行ってくれた夫。今日は花壇のラベンダーの香がよい。今日の風は涼しくて、気持ちがいい。虫に刺されそうなので、早々と中に入ることにした。帰りに売店で水を買って帰る。

ベッドに戻ると「ますこさーん」と声をかけられた。整形外科の担当の先生がカーテンの向こうから顔をだす。骨盤の創外固定について、来週から創外固定をゆるめはじめて徐々にはずしていきます、と知らせてくれた。

でも先生、私11日後に東京に行きたいのです。その時、創外固定をしていても外出できるのでしょうか?ずっと固定していたものをゆるめるとどんな変化がおきるのでしょうか?骨盤にささるこの金属の棒と共存できる服で、東京に行けるのでしょうか?どうなのでしょうか?

頭の中で質問がぽんぽん浮かぶが、とりあえず「11日後に外出したいのですが、可能性はありますか」と控えめに相談してみた。日勤の時間帯の中ならば、おそらく、と答えが返ってきた。可能性は0ではない。

可能性は0では、決してない。ぞ。


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