なぜ藤井風の紅白パフォーマンスはこれほどまでに「沁みた」のか?
※記事で取り上げる動画の一部は期間限定です。見れなかったらごめんね。
お久しぶりです。考える犬です。
年末年始にあれこれ追われて、長いことnoteもご無沙汰になっていました。リハビリってわけではないけれど、ここ最近で心に沁みた音楽…そう、藤井風の紅白パフォーマンスについて語りたい。
放送直後から各方面で話題となっているこちらのパフォーマンスだが、なんと今ならNHKの公式Youtubeチャンネルで無料公開中である。
まだ未視聴の方は、ぜひご覧ください。
多くの方が手放しで絶賛するこちらの内容。僕自身、今年は紅白をリアルタイムで見ており、視聴後はしばらく放心してしまった。
そして、間髪入れずにはじまる三山ひろしのけん玉ギネスチャレンジ。その凄まじい急展開、ギャップ、高低差に、自宅で寛ぎながら危うく高山病になるところだった。
…若干話が逸れたが、そんなわけで、今回は「藤井風の紅白パフォーマンスはなぜ素晴らしかったのか?」また、「なぜこれほどまでに多くの人の心に『沁みた』のか?」その辺を考えてみたい。
…最初に断っておくが、ここに綴るのはあくまで一視聴者の感想・考察であって、特別に裏付けをとったものではない。どうか「また好き勝手言ってる」と温かい目で見てもらえると幸いである。
1.「満ちてゆく」という選曲
まず、数ある楽曲の中から「満ちてゆく」を選んだという事実。意外と言及されていないが、ここのセンスには計り知れないものがある。
(過去のレビュー記事はこちら。↓)
…というのも、アーティストからすれば、紅白で披露する曲の筆頭はもちろん直近のリリース曲である。リリースして日が浅い曲は、すなわちまだ熱を持った曲ということ。紅白という多くの人が注目する舞台でそれを披露するのは、ごく自然なことである。
藤井風の場合、2024年7月リリースのアッパーチューン、「Feelin' Go(o)d」がそれにあたる。
…さらに言うまでもなく、NHK紅白歌合戦は一大イベントである。日本のトップアーティストたちがその年ヒットした楽曲を持ち寄り、最高の舞台で披露する。我々日本人には風物詩とも言える、年末夢の祭典だ。
そんなお祭りだからこそ、多くのアーティストはここにアッパーチューン・ダンスチューンを持ち込む。「自身の楽曲でお祭りをさらに盛り上げよう」というわけだ。
…しかしそんな中、藤井風が披露したのは「満ちてゆく」。これはピアノの旋律が美しい、スローでメロウな、どちらかと言えばダウナーな楽曲だ。
内容も、人間の一生について振り返って考えさせられるような、藤井風その人の人生観が色濃く反映されたもの。最後には全てを肯定で包み込むような、心がじんわり暖かくなる楽曲である。
で、注目したいのはこの「立ち止まり、省みる」という楽曲コンセプト。
これは年末のこのタイミングで、我々視聴者全員にもれなくブッ刺さる。もはや理屈ではない。日本人にとって…いや、全人類にとって、年末とはそういう心理になるタイミングなのである。
「今年も色々あったなぁ」
「色々あったけど、これで良かったのかな」
「来年も幸せに過ごせますように」
新年を目前にこんな心理で視聴する中、藤井風チームの全身全霊を込めて叩きつけられる、渾身の「満ちてゆく」。
そりゃあかんて。
こんなの、沁みないはずが無いだろうが……!!
…で、さらにもう一つ言うと、この直前がB'zのサプライズ出演→「LOVE PHANTOM」→「ultra soul」という怒涛のテンション爆上げ演出であったことも効いていた。
B'z→藤井風へのバトンは、完璧な流れであった。
製作陣に拍手。
B'zに否応なしにテンションを最高潮に持っていかれ、その後の藤井風の全肯定に心を抉られ、さらに展開される三山ひろしのけん玉ギネス。
このとき我々の情緒は一度NHKに破壊された。
2.藤井風がした「優しさの提示」
…さて、上記でも言及したことだが、そもそも今回の藤井風は「他のアーティストと全然違うことをやってるな」という印象を受けた。
(再度動画を引用)
たぶん一般的に紅白に求められるのって、言うなれば「楽曲とパフォーマンスの披露」だ。「音楽の力とアーティストの魅力で紅白という祭典を盛り上げてください」というのが求められていて、多くのアーティストはその期待に全力で応える。
対して、藤井風ももちろんパフォーマンスの披露には違いないのだけれど、それ以上に僕が感じたのは「優しさの提示」とか。「肯定の表明」とか。そういう類のものだった。
この舞台で藤井風チームが「満ちてゆく」を選んだのはもちろん偶然ではなく入念な協議の結果で、そこには「多くの人が救われる一年でありますように」という祈りのようなものを感じる。
多くのアーティストがNHKが誇る最高の演出のもと、格好良さ・美しさ・楽しさといった要素で会場を盛り上げる中、遠く離れたニューヨークで藤井風だけが「優しさ」を提示した。
どちらが優れているとか劣っているとか、そういう話ではない。
ただここに僕は、紅白に限らず音楽におけるパフォーマンスの全く別の可能性というか、x、y軸しか無い中でz軸を提示されたようで、感動したのである。「やってくれた!」という痛快さと言っても良い。
3.創作の可能性
最後に言及したいのがこれ。今回の一件、一般の視聴者の方はもちろんのこと、SNSではクリエイター勢の方々が絶賛するのをよく目にした。
(↓は演出されたご本人、山田健人さん)
いや、本当に凄いことだと思う。
会場と遠く離れたNYからのライブ配信、寸分のミスも許されぬ状況の中で、あれほどの映像美と最高の演奏をやってのけたチームは、マジで只者ではない。紅白という大舞台も相まって、藤井風チームはこれまで以上に不動の評価をものにするだろう。
一方で、これらを可能とした裏には紅白製作陣の英断があった事は忘れてはならない。遠く離れたNYから藤井風を出演させるということ、加えてその演出を番組スタッフが手掛けるのではなく、丸ごと藤井風チームに一任するという決断がいかに難しいかは想像にたやすい…天下のNHKだからこそ。しかしそれにより、今回我々視聴者は最高のパフォーマンスを目にすることができた。
僕がここに感じるのは、創作(=クリエイティビティ)の可能性である。率直に言えば、「ただ決まった時間枠だけをアーティスト陣に丸投げすることで、本当に良いものが生み出せる可能性がある」ということだ。
…もちろん言うまでもなく紅白歌合戦は一大イベントであり、そこにはNHKという巨大組織の中で様々な大人の事情が、複雑に絡み合っている。
今回の星野源の一件など、その最たるものだと思う。
華やかな会場とは打って変わって暗い場所でひとり、ギターを爪弾き歌う星野源の姿を、簡単に忘れることはできない。
ここにはある種「仕方ない」と思う部分もある。多くの人が視聴する日本を代表する番組だからこそ、批判の声も無視するわけにはいかない。当たり前のことだ。
ただ、それらは往々にして、素晴らしい創作の可能性を狭める傾向がある。
紅白に出演するアーティストたちはあの日本一の舞台で日本一の検閲基準のもと、限られた選択肢の中からそれでも奮闘して素晴らしいパフォーマンスを行っていることを、我々は忘れてはならない。
…しかしそんな中で、今回の藤井風のパフォーマンスである。
与えられた時間枠、その演出を全面的に藤井風チームに委ね、完全にライブ中継のバックアップに徹した紅白製作陣。その決断と、「藤井風チームを信頼してくれた」という事実に僕は感動したし、今後の創作における可能性を無限に感じたのである。
願わくば、若い人たちがこうした健全な創作を自由にできる環境が、どんどん増えてくれますように。そしてそれを理解し、ケツを持ってくれる格好良い大人たちがどんどん増えますように。
…そんなことを感じました。
4.総括
…ということで、今回は「藤井風の紅白パフォーマンスは、なぜこれほどまでに我々の心に『沁みた』のか?」考えました。
個人的な考えでは、以下の3点が主要な要因と思いました。
…ということで、今回は世間で話題の藤井風・紅白パフォーマンスの記事でした。本当、表舞台に出てくるたびに驚かせてくれますねこの人は。今年も一体どんな素晴らしい音楽を届けてくれるのか、わくわくである。
ちなみに、藤井風さんについては過去にも多く関連記事を執筆しています。
良かったら読んでってくださいね。↓
…といった具合で、現場からは以上でした。
長文を読んで頂きありがとうございました。
今年も素敵な音楽がいっぱい聴けますように。
それでは!
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