ゴスペラーズメンバー分析vol.3「村上てつや」〜不屈の圧倒的リーダー〜
0.はじめに
2023.10.29。
現在、ゴスペラーズのツアーの公演中止が相次いでいる。
そのどれもが、メンバーの身体面の不調に起因するものだ。
辛いだろうな…
当記事は、以前より半ば自己満足でコツコツと書き溜めていたシリーズだが、ここ数日の思いがけず悲しい報せの連続に、本当に胸を痛めている。
私事だが、少し前に別の推しについても悲しい事件があったので、尚更。
こういうのって続くものなのかなぁ…
とにかくこういった局面でも、一人のファンに過ぎない自分としては祈ることしかできない。
どうか、早く全てが良い方向に向かいますように。
そんな願いを込めて、本記事を投稿します。
(↓以下より記事内容です。)
さて、引き続きゴスペラーズメンバー分析記事です。
今回で3回目となりました。早いものですね。
(これまでの分析は↓よりどうぞ!)
回を重ねるごとになぜか文字量が増えているのが不思議なこの企画。
本日分析するのは、こちらの方です。
ソウルフルな歌唱にやたら良いスタイル。
トレードマークのグラサンから覗くのは、意外とつぶらな瞳…
リーダー!リーダーじゃないか!!
そう、ゴスペラーズのリーダー村上てつやさん。
満を持しての登場です。
何を隠そう、僕自身が最も推しているのがこの方。
今日は彼の魅力をたっぷりと掘り下げます。
さっそく見ていきましょう!
1.歌唱力
彼の歌唱は、ソウルフルでエモーショナル。
中音域では力強く、そして高音域では裏声を多用するのが特徴。
アッパーチューンではお得意の日本語シャウトをかましまくり、
バラードでは天井知らずのファルセットが冴えわたる。
個人的な考えだが、ゴスペラーズの中で各々リードを歌わせた時に、一番安心感を覚えるのが彼ではないだろうか。
安心というか、場に出た時の安定感というのかな。
とにかく、強引に自分のフィールドに持ち込んでしまう力強さみたいなのが半端ないのである。
仮に和音の調和に若干の不安があったとしても、全く揺らぐことは無い。
「さぁ俺が出てきたぜ!」と自信満々に出てきて一声発せば、
彼の安定感を拠り所に、場の空気はすぐ持ち直してしまう。
シンガーとしての体幹が強すぎるのだ。
サッカーで例えると、黒沢さんがワントップの点取り屋なら、村上リーダーはボランチでキャンプテン。フィールド全体を視野に入れ、彼を基準にチームは連携を構築してゆく。
別にサッカーで例える必要はありませんでしたが、長丁場の彼らのステージにおいて、間違いなくチームの精神的支柱は彼である。
それを象徴する、印象的なシーンがある。
それが2005年の大晦日、紅白歌合戦。
曲目は「ひとり」、リーダーのリード曲である。
もちろん素晴らしい歌唱で観客からの大きな拍手で終えたこのステージ。
実は途中から、全体の音が半音上にずれている。
(当初D→D#に)
アカペラバンドにはよくある話…なのだが、しかしゴスペラーズの場合、
不可解なポイントがある。
それは北山陽一氏の存在。
そう、北山氏は絶対音感持ちであることに加えて、そもそも音叉で絶えず音をとっている。つまり和音が少しでも上ずれば、その事実に瞬時に気づいているのだ。
つまりこの場面で、ゴスペラーズはチームとして本当に正しい音程より、リーダーが思いのまま歌い上げることによる説得力を優先させている(ということをおそらく前提として決めている)のである。
これ、非常に興味深くて、実は真にアカペラに求められるのは完全に正しい音程ではなくて、あたかも正しいように聞こえる音。もっと言えば、正しい音より魅力的に聞こえる音を重視すべきである。
(※個人の見解を含みます)
つまり音程の正しさを気にしすぎた結果、各々が出方を伺うような煮え切らないハモりになっては意味がない。仮に正しくても、なんだか機械的で魅力の欠如した演奏になってしまう。
つまり、北山さんは音叉で常に正しい音を確認しているけれど、それは常にピッチ修正するというわけではなく、仮にずれても「このままメンバーに合わせる」という判断も当たり前にあるということだ。
ここにはリーダーへの信頼と、他のメンバーの献身が伺える。
4人はこの大舞台、村上てつやの絶唱に合わせ、こっそり音を半音上に合わせにいっているのである。
どうですか?これ。
最高にアツくないですか??
歌唱についてもう一つ。
リーダーの歌唱の特徴といえば、そのファルセットボイス。
上記に挙げた「ひとり」ばかりでなく、
「参宮橋」
「I Miss You」
「Heartbeats」
など、サビのほとんどを裏声で歌い上げるリード曲も多い。
コーラスでは高音域を幅広くカバーし、リードでは唯一無二の武器だが、ちょっと掘り下げてみたい。
まずはこちらの動画をご覧ください。↓
彼らの名はThe Stylistics(スタイリスティック)。
70年代に活躍したコーラスグループだ。
実はこれ、初期のゴスペラーズがよくカバーしていた曲である。
リードシンガーの、甘いファルセットボイス。
皆様もうお気づきだろう。
この唱法、リーダーと同じじゃないですか??
そう、安岡さんの回で「彼らの甘さは、先人たちから受け継いだ伝統」という話をしましたが、実はリーダーのファルセット唱法もその一つ。
古き良きR&Bには、「リードボーカルがファルセットで縦横無尽にフェイクをかます」という伝統的スタイルがあり、村上リーダーの得意とする歌唱も、それに則ったものなのです。
この、「流行を追うだけでなく、先人たちの音楽を自分たち流に解釈し、曲として昇華している」という点こそが、ゴスペラーズの説得力の所以であり、「なんか、早稲田らしいな」というポイントでもある。
で、それは良い。それは良いのだが…
一つ気になることがある。
リーダー、あまりに上手すぎやしないか??
発声といい、フィーリングといい、ずば抜けている。
こんな風に歌える男性シンガーを他に知らない。
デビュー以降、幾多のステージを潜り抜け徐々に上達したのだろうか?
いや違う。僕の記憶によれば、リーダーは最初からリーダーだった。
早稲田の学生時代、素人として出演したアカペラコンテストの時からこうだったと記憶している。この当時、裏声でのフェイク歌唱なんてニッチな歌唱法を教えられるトレーナーなんて激レアだろうし、自分なりにソウルミュージックを聞いて、模倣を繰り返したらこうなった?化け物か??
これ、マジで不思議である。
誰か真相を知っていたら教えて欲しい。
2.作曲能力
さて、ソングライターとしても数多くの曲を手掛けてきたリーダー。
以下に一例を挙げてみよう。
うんうん。
あの、実はこの部分、すごく言いたいことがあって。
これはあくまで個人的な見解なのですが、リーダーは5人の中で一人だけ違う視点で曲を作っている気がする。
具体的には、他のメンバーが「良質な楽曲を作ろう」という意識で曲を作っているのに対し、彼は「俺たちは今、何を歌うべきなのか?」を考え、制作している気がするのである。
たとえば、
「コーラスグループはバラードの印象を持たれがちだが、俺らのコーラスワークで客をノセることはできないか?」
「ライブで客を焚きつけつつ、自己紹介をしたら?」
→星空の5人、侍ゴスペラーズ
「『永遠に』がロングヒットを続け、少しずつ世間の認知を得た今、 おそらく次も同様のバラードを期待されている」
「ならオケすら削ぎ落とした渾身のアカペラバラードを叩きつけてやろう」
→ひとり
といった感じ。
「俺たち5人にこんな曲があれば、今よりさらに前へ進めるぜ」という意識というか。実際、↑に挙げた楽曲が今日どれだけゴスペラーズにとって重要かは、今さら語る必要もないほどだろう。
彼の生み出した勝負曲の数々は、グループの前進を虎視眈々と見据え放たれた、「今の彼らに本当に必要な楽曲」である。
ちなみにこれは余談だが、
「こうやってみたら?おお!!良いねぇ!」
「こうしても格好いいんじゃない!!?」
「うっひょー!なんかテンション上がってきたぞ!」
というノリで曲を作ってそうなのが酒井さんである。
覚えておいてください。
3.リーダーシップ
最後に触れるのは、彼のリーダーシップについてである。
日本におけるコーラスグループの先駆者といえばラッツ&スター(旧シャネルズ)がその筆頭だが、実際ゴスペラーズはラッツ&スターのベースボーカル、佐藤善雄氏に見出され、現在彼が代表取締役社長を務めるファイルレコードよりデビューしている経緯がある。正当な弟分といえるだろう。
ラッツ&スターといえば、リーダー鈴木雅之氏の圧倒的カリスマ性とその歌唱力によって支持を得たグループだが、彼と村上てつやのリーダーシップを比較すると、同じようにグラサンをかけてはいるが、実は根本的に異なる部分がある。
具体的には、
鈴木雅之
→自らフロントマンとなり、グループを従えるカリスマタイプ
村上てつや
→一歩引き、メンバーの魅力を最大限に発揮させるプロデューサータイプ
と言えば伝わるだろうか。
実際、ゴスペラーズの活動初期から勝負の場面で、ゴスは寧ろ黒沢薫を多くセンターに起用してきた印象がある。かといって黒沢薫が絶対的エースというわけでもなくて、ゴスペラーズは活動初期から誰か1人のフロントマンを定めず、「みんな面白くて歌唱力抜群な5人組」という見せ方をとってきた。
これにより、一人の圧倒的スターではなく、「イケてる5人組」として、彼らは5人それぞれが持ち味を発揮し、ファンを獲得することに成功したのである。これは当時どちらかというと、SMAPなどのアイドルの売り出し方に近いのではないか。ミュージシャンがこの戦法をとるのは「全員の個性が認知されなければいけない→時間がかかる」というリスクもあったはずだが、それらを承知の上でも「5人全員でスターになろうぜ」という決意が伺える。
思えば、普通なら日陰の存在になりがちなベースボーカル、北山陽一のリード曲「虹」を作ったのも彼、村上てつやなのである。
これは何気に凄いことでは…?
彼の男気と、メンバーへの愛は止まる所を知らない。
また、彼はグループ全体が魅力的になるなら、自分が道化になるのも厭わないリーダーだ。ちょっとマイナーな映像だが、以下の動画を見てもらうと僕の言ってることがわかってもらえると思う。
【動画は削除しました】
最年少の安岡さんにここまで言わせる懐の深さよ…
リーダーたるもの、こうありたい。
さらにもうひとつ。
ゴスペラーズの有名なエピソードに「給料は完全5等分」というのがあるが、これ、どう考えてもリーダーである彼が圧倒的に損している。
だって普通に考えれば、リーダーが一番大変じゃない。
しかも色々なところでこのエピソードを披露する様子から伺うに、どうやら村上氏は積極的にこの案に賛成した立場のようなのだ。
「グループに不和が生じるとしたら、大抵女か金のこと」
「女のことはわからん。でも、金のことはきっちりしよう」と。
彼はまだグループとして売れる前から、これから手にするであろう自分の利益よりもグループの不和の可能性を早期に潰し、全員で音楽活動を存続することを最優先に掲げたのである。
リ、リーダー…!
この事実に気づいたとき、僕は彼を生涯推すことに決めた。
4.総括
ということで、総括。
村上てつやは誰よりもグループ全体のことを考え、その歌唱力、作曲力、ユーモア全てを献身的に捧げた結果、25年以上にわたり最高に魅力的なチームをまとめあげてきた圧倒的名リーダーである。
ゴスペラーズが現在の地位を築けているのは、間違いなく彼のメンバーへの絶対的な信頼と愛情があってこそ。また、これまで直面した数多くのミュージシャンとしての岐路において、彼の采配はその都度グループを躍進させてきた。
彼がリーダーとして、率先し献身を見せてきたからこそ、他の4人は彼を信頼し、自らもグループに身を捧げることができたに違いない。
活動30年目も視野に入りつつあるゴスペラーズ。
そのリーダーである彼が、今後チームに何を仕掛けてくるのか?
末長く、堪能したいと思う。
追伸。
現在ツアー中のゴスペラーズ。
冒頭で述べたように、黒沢さん、村上さんの両名が喉に疾患を抱えており、体調が芳しくないらしい。
とにかく、一刻も早く回復されることを願っています。
全て回復し、万全な状態になった5人の演奏が聴けることを
心より楽しみにしています。
ゴスペラーズに関する記事を強化中です!
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また、音楽の分析を主なコンテンツとしてブログを運営しております。
軽い読み物としてどうぞ!
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音楽の話をしよう ~深読み、分析、そして考察。~
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