第一回Power House Cup 決勝カバレージ――岩本vsしじゅん
2022年6月11日、神奈川県某所にて有志たちにより開催された記念すべき第一回のPower House Cup。
予選ラウンド5回戦の後、Top4で行われた決勝ラウンドの初戦結果は下記の通りとなった。
勝利:予選1位(4-0-1)
岩本(青赤果敢)
2-0
予選4位(3-2)
三井(ロータスコンボ)
勝利:予選2位(4-1)
しじゅん(青単スピリット)
2-0
予選3位(3-1-1)
小林(青白コントロール)
予選ラウンドを1位、2位とワンツーフィニッシュを果たした二人が決勝戦という舞台で相まみえる。
▼プロフィール
【岩本 友太】
主な戦績:現横浜パイオニア提督
使用デッキ:青赤果敢
ベストカード:《熊野と渇苛斬の対峙》
初代王者に向けた意気込み:初代王者になる!表現の反復がなくても果敢が強いことを証明します!
【しじゅん】
主な戦績:大宮晴れる屋パイオニア神河BOX争奪優勝
使用デッキ:青単スピリット
ベストカード:《とんずら》
初代王者に向けた意気込み:決勝不利対面ですが覆したいと思います
▼デッキ解説
岩本友太:青赤果敢
岩本は現在の晴れる屋横浜店パイオニア提督。使用デッキは愛機である青赤果敢。
《表現の反復》という重要なパーツを失ったとはいえ、《僧院の速槍》《損魂魔道士》ら1マナの果敢クリーチャーに加え、果敢の上位互換である《スプライトのドラゴン》、そして新戦力の《帳簿裂き》が並ぶ。
果敢を誘発しつつもクリーチャーにもなりライフを詰めていく《熊野と渇苛斬の対峙》、これらを《火遊び》《無謀な怒り》《絞殺》といった軽量除去でバックアップしていく。
土地の枚数は驚異の18枚+《棘平原の危険》1枚の19枚。《考慮》と《選択》による果敢を誘発させつつ土地を探す事もできるキャントリップ、そしていずれも2マナ以下と非常に軽い構成だからこそ出来る構築だ。
これら1~2マナの軽量スペルをガンガン唱えていくと手札は瞬く間に無くなってしまうだろう。だが、これをカバーする一枚が存在している。
最大効率で1マナ3ドローというかのパワー9《Ancestral Recall》に比類する力を持ち、フェッチランド等が存在するモダン以下の下環境では禁止指定されている《宝船の巡航》。
これでさらなる脅威を引き込み、相手に一息すらつかせない猛攻をし続けるのがこのUR果敢である。
▶ピックアップカード:《ラムナプの遺跡》
注目点として、《山》《島》といった基本土地を採用せず、《ラムナプの遺跡》が2枚採用が目につく。
直接プレイヤーに叩き込んでライフを削り切る役割を果たす事ができる点においては、他の土地にない利点であると言える。青赤果敢の最後の一押しとして光る一枚である。
しじゅん:青単スピリット
そんな岩本と対面するしじゅんは青単スピリット。
瞬速を持ちマナフラッド受けにもなる《幽体の船乗り》、マナがあればぐんぐんと育つ《隆盛するスピリット》。そして他のスピリットが場に出るとパンプアップしつつ、相手のソーサリー・インスタントに対してプレッシャーをかける《霊廟の放浪者》。
これらの1マナクリーチャーを展開しつつ、瞬速を持ち呪禁を付与することで相手の除去に対して実質的なカウンターと展開を兼ねる《鎖鳴らし》。
クリーチャー戦においては相手のクリーチャーをタップさせる《鎖霊》、そしてこれらスピリットを強化するロードである《至高の幻影》。
いずれも異なる役割を担っているクリーチャー達を支えるのは《高尚な否定》《霊灯の罠》といったマナを要求する軽量カウンター、《とんずら》などで相手の脅威を弾いていく。
青白スピリット、バントスピリットと比べてゲームレンジが短く、ひたすら自分の動きを押し付けるデッキとなっている。
目減りしていく手札の補充手段として《執着的探訪》、《幽体の船乗り》の起動能力などが存在しており、アグロ最大の弱点のマナフラッドにも《不詳の安息地》、《幽体の船乗り》、《隆盛するスピリット》とマナを注ぎ込む手段もあり、見た目以上に粘り強く戦える構成となっている。
▶ピックアップカード:《渦巻く霧の行進》
特徴的なカードとしてはサイドボードに取られている《渦巻く霧の行進》。
筆者は青白コントロールを使用しており、準決勝にて「打ち消されない全体除去最高!!!!」と心の中で叫びながら《至高の評決》を唱えたところにこの《渦巻く霧の行進》で華麗にかわされ、敗北したのが印象的であった。あざした。
お互いによく知る友人対決。対戦前に談笑しながら固く握手を行ったその様から仲の良さがうかがえる。
決勝戦の前、しじゅんは「青赤果敢は不利対面ですが、覆していきたい」と語った。
それもそうである。
青赤果敢側は《帳簿裂き》《スプライトのドラゴン》ら飛行戦力がぐんぐん育ち、スピリット側のクロックが止まってしまう。
また、青赤果敢は脅威を展開しつつ、《火遊び》《無謀な怒り》《絞殺》といった軽量除去がメインでは実に11枚も取られている。
サイド後では《削剥》《引き裂く流弾》などが入り、なんと計16枚ものの除去を青単スピリットは潜り抜けねばならない。
事実、予選の最終戦で岩本としじゅんの二人が対決しており、岩本が勝利を手にしていた。岩本もこの事をよく理解しているようで、自信に満ちた顔で「初代王者になります」と意気込みを語っていただいた。
第一回Power House Cup、頭上にその栄えある初代王者という冠を頂くのはどちらか。我々は固唾を呑んで見守った。
▼Game 1
◆マリガンチェック
岩本:マリガン1回
しじゅん:キープ
予選ラウンドを一位で通過した岩本は先手を選択するも、マリガン。
1~2マナが大半であり、キープ基準となるクリーチャー枠も20枚と比較的キープしやすいデッキだが、運に恵まれなかった形となった。
マリガンした岩本の手札は《僧院の速槍》《損魂魔道士》《無謀な怒り》《考慮》《火遊び》《蒸気孔》《河川滑りの小道》。
《考慮》をボトムに落とし、果敢を持つクリーチャーたちを除去でバックアップするプランを取った。2枚の除去札と2枚の果敢クリーチャー、後続次第だが現時点では最良のハンドとも言えるだろう。
一方のしじゅんは手札を見て即キープ。
《島》《島》《不詳の安息地》《至高の幻影》《証人保護》《霊廟の放浪者》《幽体の船乗り》
1ターン目の動きがあり、かつ《証人保護》という相手の生物への対応策もあり、ロードである《至高の幻影》もありとベストハンドと言える7枚。
(画像については撮り忘れてしまった。ご容赦いただきたい)
Turn 1:一番槍《僧院の速槍》
お互いにキープを確認し、一礼すると岩本は早速2点を支払い《蒸気孔》をアンタップインから《僧院の速槍》を送り出し、まず1点を削り取る。しじゅんは《島》から《霊廟の放浪者》を展開し、ターンを返す。
残りライフ:岩本18 しじゅん19
Turn 2:盤面を掌握する岩本
岩本は引いた《尖塔断の運河》をアンタップインで置き、《霊廟の放浪者》へ《火遊び》。果敢が誘発した《僧院の速槍》でアタックし2点、《損魂魔道士》を展開する。
ここまでは岩本側が盤面を支配する展開となり、しじゅんは厳しい顔で《島》セットから《隆盛するスピリット》。1マナを立てて返し、岩本に《とんずら》《呪文貫き》などの択を意識させる。
残りライフ:岩本18 しじゅん17
Turn 3:しじゅんの反攻
岩本のドローは《熊野と渇苛斬の対峙》。
《河川滑りの小道》を裏の赤で置き、早速《熊野と渇苛斬の対峙》を唱え、1点と共に《僧院の速槍》と《損魂魔道士》の果敢を誘発させアタックし、4点。
しじゅんは残った青マナで《幽体の船乗り》を唱え、回ってきたターンで《不詳の安息地》をセットから《至高の幻影》を展開する。
しじゅんが「手札何枚?」と問うと、岩本は「5枚」と気さくに返すと1枚しかない手札を小さく掲げる。
決勝戦でもこの軽口を叩きあう辺り、仲の良さが伺える。
1枚しかない手札を確認したしじゅんは苦笑いの後に小考、そして《幽体の船乗り》と《隆盛するスピリット》でアタックを決意する。
その後に《証人保護》を《損魂魔道士》に貼り、ただの1/1となる。
3ターン目が終了した時点で岩本のライフは14、しじゅんのライフは早くも残り12。
これがパイオニアのアグロデッキ対決なのだ、と言わんばかりのスピードで試合が進んでいく。
しかし、岩本の表情は晴れない。この時点で岩本のハンドは早くも残り1枚。軽く動ける青赤果敢だが、それは即ち手札の消費も速いということにもなる。
この欠点を大きく補っていたのが実質2マナ2枚ドローである《表現の反復》だったが、6月7日で告知された禁止改訂にて《軍団のまとめ役、ウィノータ》諸共禁止されてしまった。
だからこそしじゅんもすれ違う形でクロックを刻んでいくことを決意したのだろう。これがどう転ぶかは神のみぞ知る。
残りライフ:岩本14 しじゅん12
Turn 4:《帳簿裂き》が裂くものは
4ターン目、岩本は《熊野と渇苛斬の対峙》の2章により《帳簿裂き》に+1/+1カウンターを乗せて送り出す。
その勢いのまま《無謀な怒り》を《至高の幻影》に放ち、2回目の呪文により《帳簿裂き》の謀議が誘発。
手札はないため、そのまま墓地に落ちるが……落ちたのは除去である《絞殺》! 喉から手が出るほど欲しい除去を裂く形となってしまった。
岩本はやや苦い顔をしつつも、《帳簿裂き》にさらなる+1/+1カウンターを乗せるとフルアタックし3点削り取る。
しじゅんは《島》をセット、除去された2枚目の《至高の幻影》を展開し、《鎖鳴らし》、軽量カウンター、《隆盛するスピリット》の起動能力といくつもの選択肢を迫る形で2マナを立てて返す。
この序盤における選択肢の広さも青単スピリットの強みである。
残りライフ:岩本14 しじゅん9
Turn 5:青単たるもの冷静沈着たれ
岩本のターンで《熊野と渇苛斬の対峙》が3章になり、2/2速攻のクリーチャーである《熊野の食刻》へと変貌する。しかし《至高の幻影》がによりスピリット達が強化されており、アタックできるような状況ではない。
小考した後に3/5飛行である《帳簿裂き》でアタック、これが通り3点。相棒指定した《湧き出る源、ジェガンサ》を3マナ支払って回収し、《バグベアの居住地》をタップイン。
土地のタップアウトを確認したしじゅんは《隆盛するスピリット》の起動能力でロードの修正も込みで3/4となる。ターンが回ってくるものの、《島》を置いたのみで冷静にゴー。
《幽体の船乗り》、《隆盛するスピリット》の存在によりこのまま盤面が膠着するのはしじゅんにとって臨むところ。
特に《隆盛するスピリット》の2つ目の起動能力が解決されば《至高の幻影》込みで5/5飛行となり、そうなってしまえば岩本は《丸焼き》でない限り1枚では対処不可となる。
さらに長引いてしまえば泣きっ面に蜂、最後の起動能力により+2/+2カウンターが乗り続けていくのである。
バウンス等の搦手がない岩本はこれを乗り越える手段を引き込まない限り、残り6点のライフを詰め切る事はほぼ不可能になってしまう。
残りライフ:岩本14 しじゅん6
Turn 6:傾きつつある天秤
6ターン目、ドローを確認した岩本はやむを得ないという表情でターンを返す。
これを見たしじゅんは《隆盛するスピリット》の二つ目の起動能力を起動。これに岩本はただ頷く事しかできず、解決され5/5飛行が爆誕する。
しじゅんのターン、ドローした《島》をセットしてゴー。アグロデッキにとってマナフラッドは天敵だが、この膠着した場面はしじゅんに大きく味方している。
残りライフ:岩本14 しじゅん6
Turn 7:切られた火蓋
7ターン目、岩本が5枚目の土地である《シヴの浅瀬》からジェガンサを唱えるも、《霊灯の罠》で打ち消される。
しじゅんは無くなった手札を《幽体の船乗り》で補充すると、《島》をセットして遂に動く。《不詳の安息地》を起動し、アタックする。
「5/4だよね?」と岩本は確認し、しじゅんは肯首する。
そう、《不詳の安息地》は「すべてのクリーチャー・タイプ」を持つため、《至高の幻影》による+1/+1修正の恩恵を受けられるのだ。
起動能力は氷雪マナ3つを要し、単色でない限り厳しい条件となっており、青単にする最大の利点と言ってもいい。
岩本は受ける事を選んだ。相打ちにするならば《帳簿裂き》を犠牲にせねばならず、その選択肢を取ってしまうと《隆盛するスピリット》による敗北は必然だからだ。
残りライフ:岩本9 しじゅん6
Turn 8:決着
ここで遂に岩本が動く。《選択》、トップは《宝船の巡航》。逡巡の後に3マナを寝かせ、墓地の5枚を追放し《宝船の巡航》を放ちさらなる回答を探し出す。
2回目の呪文により《帳簿裂き》の謀議が誘発する。岩本はちらりと視線をしじゅんに向けると、しじゅんはそれらを通す。《僧院の速槍》を捨て、《帳簿裂き》は4/6に。
そして《宝船の巡航》が解決され、3枚をドローするも《蒸気孔》をタップインし《シヴの浅瀬》を立たせてターンを返す。
しじゅんはしばし考え、《隆盛するスピリット》の最後の起動能力を起動し7/7飛行にさせる。
そして返ってくるしじゅんのターン。岩本の土地は《シヴの浅瀬》1枚が立っている。
しじゅんは長考の末、《とんずら》で岩本の《帳簿裂き》をフェイズ・アウトさせると《隆盛するスピリット》《至高の幻影》《幽体の船乗り》でフルアタック。
岩本に飛行を止められる手段はなく、このまま通れば10点となる。これを確認した岩本は盤面のカードたちをまとめた。
岩本 0-1 しじゅん
1ゲーム目を先取したしじゅんはほっとしたような表情を浮かべた。
不利マッチかつ後手という高い壁を乗り越えたのは非常に大きい。しじゅんが初代王者への座に王手をかけた形となった。
▼Game 2
◆マリガンチェック
お互いにキープ。
岩本の手札は《熊野と渇苛斬の対峙》《熊野と渇苛斬の対峙》《考慮》《考慮》《レッドキャップの乱闘》《尖塔断の運河》《シヴの浅瀬》。
実質クリーチャー枠である《熊野と渇苛斬の対峙》が2枚、後続のクリーチャーを《考慮》で探せるという意図でキープか。
一方のしじゅんの手札は《冠雪の島》《冠雪の島》《冠雪の島》《幽体の船乗り》《幽体の船乗り》《至高の幻影》《とんずら》。
1マナのクリーチャーとロードに加え、除去を回避できる《とんずら》と良条件が揃ったハンドをキープ宣言。
Turn 1:一番槍《熊野と渇苛斬の対峙》
前回と同様に先手を取った岩本は《尖塔断の運河》から《熊野と渇苛斬の対峙》を送り出し、まず1点。2章でクリーチャーに+1/+1カウンターが乗り、さらなる脅威を送り込む算段。しじゅんは《島》からターンを返すのみ。
残りライフ:岩本20 しじゅん19
Turn 2:1マナクリーチャー達の共演
岩本は《シヴの浅瀬》をセットすると《考慮》。
クリーチャーを探し出すものの、1マナクリーチャーは引けなかったようで《シヴの浅瀬》から二枚目の《熊野と渇苛斬の対峙》を唱えお互いに1点。
これに合わせてしじゅんの《幽体の船乗り》が瞬速で唱えられる。しじゅんにターンが回ってくるとまず《島》をセット、《幽体の船乗り》でアタックし1点。そのままターンを返す。
残りライフ:岩本18 しじゅん18
Turn 3:ライフレースの幕開け
1ターン目に出した《熊野と渇苛斬の対峙》の3章が解決され、2/2速攻のクリーチャー《熊野の食刻》となる。
2ターン目に出した《熊野と渇苛斬の対峙》の2章が解決され、《シヴの浅瀬》から1点を支払い、《スプライトのドラゴン》に+1/+1を乗せて送り出す。
いずれも速攻を持つため、2/2の二体でアタック。しじゅんはこれを受け、4点。しかし、岩本は土地をセットできずターンを返す。
しじゅんは二枚目の《幽体の船乗り》を唱え、着地させる。岩本の土地が2枚で詰まった好機を活かせるかどうか。
しじゅんのターン、《不詳の安息地》からロードである《至高の幻影》。《幽体の船乗り》二体でアタックし、同じく4点を削る。
壮絶な殴り合いによるライフレースの幕開けだ。
残りライフ:岩本13 しじゅん14
Turn 4:ノーガードの殴り合い
二枚目の《熊野と渇苛斬の対峙》の3章が解決され、《熊野の食刻》に。
岩本は小考から《考慮》、《スプライトのドラゴン》が3/3になるトップをそのままドローする。
続いて《無謀な怒り》を《スプライトのドラゴン》を対象にしつつ《至高の幻影》へ放そうとするも、しじゅんは今回は《とんずら》という対応策を持っていた。
フェイズ・アウトする《至高の幻影》を尻目に、4/4まで膨れ上がった《スプライトのドラゴン》と共に二体の《熊野の食刻》でアタックし、一気に8点を削り取る。この爆発力こそが青赤果敢なのである。
しかし、青単スピリットも負けてはいない。とんずらで2/4となった幻影に《執着的探訪》をつけ、フルアタックで7点+ドロー。《霊廟の放浪者》を出し、土地が2枚しかない岩本に対して強力な睨みを効かせる形。
残りライフ:岩本5 しじゅん6
Turn 5:迅速なる決着
これがラストターンとなる岩本は回答を求めて思考の海へと潜り込む。
立っている岩本の土地は2枚のみ。岩本の場には《熊野の食刻》《熊野の食刻》、4/4の《スプライトのドラゴン》。しじゅんの場はでブロックできるクリーチャーは《霊廟の放浪者》のみ。
ライフは岩本が5、しじゅんが6。《幽体の船乗り》《幽体の船乗り》《至高の幻影》がいるため、ターンを返すと敗北は必然。
岩本は長考の末にフルアタック。
4/4である《スプライトのドラゴン》はマストブロックとなり《熊野の食刻》の二体で2点残るが、《火遊び》がありケアする必要性が生じる。
場には《霊廟の放浪者》がおり、これによって打ち消す事は出来るもののそうするとブロックできないというジレンマを抱える形。
しじゅんは仕方なく《霊廟の放浪者》で《スプライトのドラゴン》をブロックするが、岩本はこれをこのまま解決。コンバットで《霊廟の放浪者》が死亡したのを確認し、《火遊び》。その対象はライフ2のしじゅん。
これにカウンターなどの対応はなく、今度はしじゅんがカードをまとめる番だった。
岩本 1-1 しじゅん
実に5ターンでの決着。これがパイオニア環境のアグロ対決。
しっかり詰め切った岩本だが、実はしじゅんの手札には《鎖鳴らし》があった。
岩本のアタックに合わせて《鎖慣らし》を唱え、これをブロックさせた上で《火遊び》に対しては《至高の幻影》込みでパワー2となっている《霊廟の放浪者》を生贄に捧げることで対応可能だった。
手からこぼれ落ちた勝利。このあまりにも大きいワンミスがどう出るか。
▼Game 3
◆マリガンチェック
お互いにキープ。
岩本の手札は《損魂魔道士》《スプライトのドラゴン》《考慮》《火遊び》《棘平原の危険》《河川滑りの小道》《尖塔断の運河》。クリーチャーが2枚、除去が2枚、土地も2枚+1枚。文句なしのキープだ。
先手を選んだしじゅんの手札は《隆盛するスピリット》《隆盛するスピリット》《鎖霊》《とんずら》《冠雪の島》《冠雪の島》《不詳の安息地》。
同様にクリーチャーを順調に展開しつつ、《とんずら》で相手の除去を躱せる事を評価してかこれをキープ。
決勝戦の最終ゲームでお互いにノーマリガン。あとはお互いに全力を出し切るのみとなった。
Turn 1:小さな攻防
先手を取ったしじゅんは《島》から《隆盛するスピリット》を送り出す。これに対して岩本は《尖塔断の運河》から《棘平原の危険》で処理する。展開よりも脅威に対して対応した形。
タップイン土地かつ1点でしかない《棘平原の危険》の賞味期限は短い。《鎖鳴らし》を筆頭に《高尚な否定》《呪文貫き》などの軽量カウンターを考慮すると、ここが一番の使い処という事なのだろう。
残りライフ:岩本20 しじゅん20
Turn 2:予定調和
しかし、しじゅんは《島》セットから再度《隆盛するスピリット》を展開する。岩本は《火遊び》で《隆盛するスピリット》を対象に唱えるも、今度はしじゅんが《とんずら》でかわす。
予定調和だと言わんばかりにすぐ《河川滑りの小道》の赤マナから《熊野と渇苛斬の対峙》を唱え、1点を削り取りターンを返す。
残りライフ:岩本20 しじゅん19
Turn 3:動き始める歯車
しじゅんは《不詳の安息地》をセットし、ロードの《至高の幻影》。《とんずら》によって2/2になった《隆盛するスピリット》がロードの力を借りて3/3でアタック、3点。
《熊野と渇苛斬の対峙》2章の効果で《損魂魔導士》に+1/+1カウンターが乗る。《無謀な怒り》を《隆盛するスピリット》に放ち、これが通りうまく処理出来た形となった。
気がかりなのは2枚で止まった土地。《スプライトのドラゴン》は出来る限り出したターンに《考慮》などで能力を誘発させたいところだが……
残りライフ:岩本17 しじゅん19
Turn 4:盤面を縛る《鎖霊》
ここまで対応されたしじゅんだが、《至高の幻影》をアタックして1点を削り取ったところで《島》セットから《鎖霊》《鎖霊》と大きく動く。
「禁止カード2枚も出るじゃん」と、岩本は冗談めかして呟く。このようなクリーチャー同士の殴り合いとなる展開でタップさせる能力を持つこの《鎖霊》は禁止カードの如き力を発揮する。
岩本のターン、ドローを確認すると《熊野と渇苛斬の対峙》の3章が解決され、《熊野の食刻》なったところですぐさまコンバットフェイズに入る事を宣言する。
ここでしじゅんが小考に入る。3/3となった《鎖霊》が2枚、岩本のクリーチャーは2/3の《損魂魔導士》、2/2の《熊野の食刻》。
スタッツだけ見れば明らかに有利だが、《損魂魔導士》は果敢を持つ。かと言って《熊野の食刻》をブロックしようとすれば、《火遊び》でも《損魂魔導士》のダメージを-1/-1カウンターにする置換能力で一方的にやられてしまうだろう。
《無謀な怒り》などであれば、《至高の幻影》を処理されつつ、相打ちまで持っていかれてしまう。
ここまで考えた末、2枚の《鎖霊》をタップし、《損魂魔導士》をタップさせる。
岩本はこれを了承し、《熊野の食刻》をがら空きとなった道を走らせ2点。しかし土地を引けず、展開もできず。岩本はやや渋い顔でこのままターンを返す。
残りライフ:岩本16 しじゅん17
Turn 5:《損魂魔道士》の真価
これを好機と見たしじゅんは《島》をセットしてから土地をタップアウトさせ、《不詳の安息地》を起動。そこに岩本の《レッドキャップの乱闘》が唱えられる。
1マナ4点火力。その強力な効果の代償として、赤でないパーマネントにダメージを与えると土地を生贄に捧げねばならないという効果がある。
これにより、実質的に赤のデッキに対する専用サイドボードの一枚として扱われることが多い。
しかし、岩本の場には《損魂魔導士》がいる。
ダメージを-1/-1カウンターに置換する効果により、「《レッドキャップの乱闘》によるダメージは入っていない」ことから土地を生贄に捧げる必要はなくなるのだ。詐欺師のような主張だが、これはルール上正しいのである。
しじゅんはそれでも構わず《至高の幻影》《鎖霊》《鎖霊》でフルアタック、7点と岩本のライフを大きく削る。
土地が詰まれば、果敢の誘発もしづらくダメージレースは明らかにこちらが有利。そう見極めた上での的確な判断だ。
岩本のターン。しばし手を止めて思考したのち、墓地の6枚を追放し2マナで《宝船の漂流》。
ドローは《スプライトのドラゴン》《考慮》《損魂魔導士》。痛恨の除去なし。
最初のドローフェイズでようやく引き当てた3枚目の土地である《ラムナプの遺跡》をセット。ここで少し考えて《熊野の食刻》と《損魂魔導士》でアタック、これが通り5点でしじゅんの残りライフは12。
岩本の残りライフは9、しじゅんの見えてるクロックは7点。しじゅんのハンドはないが、《至高の幻影》をトップされると敗北する。
ここでラムナプの1点を支払い、ライフを8点とすると《執着的探訪》が第二の負け筋となる。
サイドボード後では青赤果敢側の除去が多くなるため、後手だと対処されやすい《執着的探訪》はサイドアウトされる可能性はあるが……それでも2ゲーム目で《執着的探訪》を使われており、この可能性を否定しきれない。
しじゅんの手札は0枚。《執着的探訪》までケアして《損魂魔導士》を出さないか、あるいはここで前のめりに展開するか──
「《ラムナプの遺跡》で1点、《損魂魔道士》をキャスト」
長考の末に岩本は《ラムナプの遺跡》の1点を支払い、《損魂魔導士》を送り出す。
相手の飛行は止められないのならば、どのみち次のターンか2ターン後が最終ターンとなる。ここで勝負を仕掛けないと待ち受けるものは敗北しかない、という判断を下した。
残りライフ:岩本8 しじゅん12
Turn 6:《引き裂く流弾》の先には
しじゅんの運命を左右するドローは……《至高の幻影》でも《執着的探訪》でもない、《島》! 最も引きたくないカードを引き当ててしまった。
ここで岩本は実に細い勝ち筋を辿る第一の関門を突破したということになる。
しじゅんは小考したのちに《鎖霊》2枚でアタック、6点。
ここで殺しきれないならば最後までケアしきる、という気概をもって《至高の幻影》を立たせた形。《島》はセットせず、ターンを返す。
岩本のライフは残り2点。もはや風前の灯火だ。
岩本は《引き裂く流弾》をドロー。これでブロッカーである《至高の幻影》をどかす手段はできた。後は12点というしじゅんのライフを削りきる手段を探し当てるのみ。
《考慮》を唱え、まず2枚の《損魂魔導士》の果敢が誘発する。《考慮》によって見えたカードは《無謀な怒り》。
ここで岩本は長考。場には果敢が1回誘発した2/3、3/4の《損魂魔導士》、2/2の《熊野の食刻》。しじゅんの盤面はタップされている《鎖霊》《鎖霊》《至高の幻影》。
二体の《鎖霊》を《引き裂く榴弾》と《無謀な怒り》で対処できれば、このターンで倒し切ることは叶わないものの、見えているクロックは《至高の幻影》の1点のみとなる。
しかし、赤マナは1点のライフを支払う必要がある《ラムナプの遺跡》。たかが1点、されど1点。この選択は敗北へと続く道となっている。
長考の末に《無謀な怒り》を墓地に落とす。
《火遊び》もしくは《熊野と渇苛斬の対峙》を引けば《引き裂く流弾》と共に唱えることで2枚の《損魂魔導士》の果敢が誘発し、2/2・4/5・5/6の合計11点となる。
残る1点は《火遊び》の2点か《熊野と渇苛斬の対峙》の1点でしじゅんの残りライフである12点を削りきれるのだ。
そうでなくとも、青マナを引ければもう一枚の《考慮》で再度果敢を誘発させつつ、もう一つのチャンスが回ってくる。
このターン中での勝利を目指した形だ。
岩本はドローしたカードを確認し……《引き裂く流弾》を《至高の幻影》に。2回目の果敢が誘発し、《損魂魔導士》はそれぞれ3/4、4/5とサイズが膨れ上がる。
この時点で見えているクロックは9点。立っている土地は《ラムナプの遺跡》。ライフは2点、ギリギリ1点を支払える状況となっている。
しじゅんの脳裏に《火遊び》《熊野と渇苛斬の対峙》という負け筋がよぎる。岩本がコンバットフェイズに入る事を宣言し、これが解決されフルアタック。
しじゅんは顔をやや俯かせ、「はい」と解決する。《火遊び》を持っているかどうか。これで勝負が決まる。
そして岩本の手札からは……
「投了です」という声が響く。
岩本は手札にあった3枚の《スプライトのドラゴン》と《考慮》を見せ、しじゅんに勢いよく手を差し出した。
出ない青マナに泣かされ、それでもなお細い勝ち筋を求め続けた結末は無情にも敗北であった。
それでも最善手を打ち続け、後一手までにじり寄った手腕は見事の一言でしかなかった。これが晴れる屋横浜店が誇るパイオニア提督、岩本友太である。
そして、その岩本が操る青赤果敢の猛攻と刺し違える形で迷うことなく的確なクロックを刻み続けたしじゅんが初代王者という栄誉を勝ち取った。
参加者たち、そして対面した岩本から大きな声援と拍手が送られた。
記念すべきPower House Cup初代王者は青単スピリットを操るしじゅん!
筆者が岩本に対して「しじゅんさんにかなり勝ち越していると聞きました」と尋ねると、「《表現の反復》が禁止される前ですが、フリプで10回ほど戦った時は勝率80%ほど。大会などで当たった事も4回ほどありましたが、いずれも全勝。今回の決勝で初めて負けました」と語ってくれた。
相当不利なマッチアップ、ましてや先手を取られた状態でこのPower House Cupの決勝という舞台で勝ち切ったしじゅんの手腕は見事の一言でしかない。
余談だが、決勝戦後のフリープレイで、先ほどの恨みを晴らさんと言わんばかりに岩本はラクドスサクリファイスで《波乱の悪魔》2体から《敵対するもの、オブ・ニクシリス》でしじゅんの青単スピリットを完膚なきまでに叩きのめしていた。
最後に、「カバレージ楽しそうですよね」と私のカバレージを書くきっかけを作り、そして岩本氏やしじゅん氏の会話、表情など私が把握できない内容をメモしていただいた主催者であるさらみ氏(@MtgMuna)。
カバレージ用のテキストにノートパソコンを快く貸していただいたオルベ氏(@exe_trans2)。そしてPower House Cupの参加者として盛り上げていただいた皆様方に、この場を借りて感謝を申し上げます。
ありがとうございました。
了