ネオ神河環境前~後のオルゾフミッドレンジの変遷に関する所見・今後の考察
本記事では以前執筆した記事であるネオ神河環境前のオルゾフミッドレンジが、どのように変化していったかを自分なりに言語化していく。
重ねて記するが、これはわたしの私見というきわめて一面的なものである。間違っている可能性も大いにあるため、決して鵜呑みしてはいけない。
これを読んでいただいた上で、これはこうではないか?といった様々な観点のご意見は大歓迎だ。ぜひともコメントもしくはTwitterにて声をおかけいただければと思う。
▼ネオ神河実装前環境のオルゾフミッドレンジ
1.氷雪オルゾフコントロール(2021/11月)
氷雪土地を採用し、全体除去兼リアニメイトの《雪上の血痕》を強く使ういわゆる氷雪コントロールという構成が存在していた。
《よろめく怪異》《ひきつり目》で盤面を支えると共に、《命取りの論争》《不吉なとげ刺し》などの生贄コストに活用。《魅せられた花婿、エドガー》も《雪上の血痕》で巻き添えにしやすく、《エドガー・マルコフの棺》でボードアドバンテージを獲得できる点も強み。
さらに《消失の詩句》《食肉鉤虐殺事件》といった優秀な除去も揃えており、いわゆる白単といったクリーチャーデッキには無類の強さを誇ったデッキだ。
一方で、トップメタに存在していたイゼット天啓には致命的なまでに弱い弱点を抱えていた。
このデッキは《感電の反復》《アールンドの天啓》を打てるターンまで到達した時点でゲームセット、という強烈な時間制限が存在している。
この事から低速デッキに対しては滅法強く、環境から低速デッキが淘汰された原因でもあった。
いかに氷雪コントロールが長期戦に強いと言えども、《アールンドの天啓》をコピーされてしまうとアドバンテージ差も関係なく、為す術もなく敗北する結末へと収束してしまう。
短期決戦を目指そうにもクロックが足りず、削り切れず《アールンドの天啓》がコピーされる様子を、ただ指を加えて見ている事しかできない経験をされた方も多かったことだろう。
2.オルゾフt赤ミッドレンジ(2021/12月)
そんな中で、森山 真秀氏(@SakeIzumo)が日本選手権2021 SEASON3でTop4という堂々たる成績を残した。イゼット天啓に対して意識した《シルバークイルの口封じ》が光るリストである。
これをベースにし、トップメタの一角である緑単・白単に対する有利をつけつつ、イゼット天啓にも五分五分程度まで持っていけるように調整したリストがこうだ。
このオルゾフミッドレンジの詳細に関しては上記の記事をご参照いただくとして、私のようにビートダウンに寄ったオルゾフミッドレンジは、MOのスタンダードリーグなどで多少なりとも存在していた。
イゼット天啓に有効でない《雪上の血痕》の採用をやめ、《歓迎する吸血鬼》でアドバンテージを稼ぎつつ、《忘却の儀式》などのサクリファイスパッケージを組み入れた型もあった。
これらのオルゾフミッドレンジは、イゼット天啓に対して強く出られる白単や緑単を狩るデッキという立ち位置だった。
しかし結局イゼット天啓においしくいただかれる形となり、大型大会でTop8に入る事はあまりないまま終わった。
3.禁止改訂(2022/1月)
そして、ネオ神河の実装前に訪れた禁止改訂。
《アールンドの天啓》《ゼロ除算》の禁止により、「イゼット天啓」の名を冠するアーキタイプは消滅した。
《不詳の安息地》の禁止により、白単および緑単が弱体化した。
イゼット天啓、白単、緑単に支配されたスタンダードは終焉を告げたのだ。
次に始まるのは、オルゾフの支配である。
恐れ多くもくろき氏(@kurokimtg)が私のリストをご参考いただき、禁止改定後最初のCS予選である$1,000 Cash GGtoor M:TG Arena Cup#1 (Set Championship Qualifier!)で優勝された。
詳細についてはくろき氏の上記記事をご参照されたい。
もともと低速デッキを淘汰した張本人であるイゼット天啓には弱かったものの、同じトップメタである白単と緑単には《消失の詩句》《食肉鉤虐殺事件》といった優秀な除去が存在し、有利をつけていたデッキだ。
雑多なデッキに対しては、対処されづらい《婚礼の発表》《魅せられた花婿、エドガー》を筆頭に盤面を固めたところで、《不笑のソリン》《蜘蛛の女王、ロルス》による安定した暴力的なアドバンテージで圧殺できる。
サイドボードで《強迫》《真っ白》などのハンデスも採用でき、天啓が含まれていないコントロール系にも大きく有利をつけていた事実も忘れてはいけない。
イゼット天啓という抑えつける枷がなくなった今、ミッドレンジの王として環境のトップへ名乗りを上げたのは、オルゾフミッドレンジを使い続けてきた身からすれば納得以外の何者でもない。
3-1.オルゾフミッドレンジの変化
さて、ここでオルゾフミッドレンジはどう変化するか。
それは実に単純な事。
天敵となるデッキがいなくなければ、最大勢力になるであろうオルゾフミッドレンジのミラーに強くするだけだ。
オルゾフミッドレンジが苦手とするのは《イマースタームの捕食者》、《魅せられた花婿、エドガー》といった《消失の詩句》では対処できない多色クリーチャーの存在。
特に《魅せられた花婿、エドガー》に関しては破壊されても《エドガー・マルコフの棺》として吸血鬼トークンを生み出し、最終的に帰ってくるというアドバンテージの塊のような存在だ。
であれば、これらを対処できるカードを入れればいい。
《忘却の儀式》である。
生贄が必要とはいえ、《消失の詩句》とは異なり土地以外のあらゆるパーマネントを追放できる。
これにより上記の2枚に対して対応できるだけでなく、《婚礼の発表》などにも手が届きやすくなったのだ。
また、オルゾフミッドレンジのミラーでは「アドバンテージを稼いだ方が勝ち」と、実に分かりやすいもの。
つまり、リソース源である《蜘蛛の女王、ロルス》などのプレインズウォーカーの重要性も上がった事になる。これらも睨める意味でも、《忘却の儀式》の存在感が上がることは間違いないと言ってよかった。
では、次に《忘却の儀式》の生贄コストとするものを用意する段階だが、これは《ひきつり目》というお約束のクリーチャーが存在する。
他にも《象徴学の教授》などで《忘却の儀式》のコストに充てつつも、履修によるアドバンテージを得られることでミラーに対して効果的な構成を作り出す事が出来る。
《歓迎する吸血鬼》も入れることで、上記の履修クリーチャーと《婚礼の発表》の人間トークンによって、さらにアドバンテージを得ていく構成が増えていった。
一方で、オルゾフミッドレンジミラーで存在感を発揮するはずの《魅せられた花婿、エドガー》は、上記の《忘却の儀式》によりただの4/4に成り下がる場面が増えるようになった。
こういった経緯により、打ち消しや追放以外の手段では対処不能であり、ほぼ入ると思われた《魅せられた花婿、エドガー》は不採用と、世知辛い道を辿る事となったのである。
《魅せられた花婿、エドガー》がいなくなり、空いた4マナの枠には除去されても確実に後続を連れてくる《軍団の天使》へ白羽の矢が立った。
4/4/3飛行と高いクロックを誇り、除去されてもその分のアドバンテージ差をつけつつ、二の矢三の矢を放つことができる。
《婚礼の発表》が裏返れば5/4飛行で速やかに試合を終わらせる役割を担うことも可能である。
さらに飛行により相手の《婚礼の発表》から産み出される人間トークンでのチャンプブロックもされないことで、ミラーでも非常に強いカードの一枚となっている。
当時の私はこうツイートしていたが、事実オルゾフミッドレンジはミラーに強い履修+サクリファイス+軍団の天使型が主流となり、トップメタへ上り詰めることとなった。
▼ネオ神河実装後環境のオルゾフミッドレンジ
1.ネオ神河で彗星の如く現れた《放浪皇》
そして、神河:輝ける世界(以下ネオ神河と略称する)がやってきた。
ここでたださえ強かったオルゾフミッドレンジに、強力なパーツが加わることとなった。
《放浪皇》である。
効果としては+1が+1/+1カウンターを乗せつつ、先制攻撃を付与。
-1が2/2警戒の侍トークン1体生成。
-2がタップ状態のクリーチャー1体を追放しつつ、2点のライフゲイン。
忠誠度も3と低く、いずれも4マナのプレインズウォーカーとしては物足りないものばかりである。だが、これらがインスタントタイミングで飛んでくるとしたら?
この《放浪皇》はプレインズウォーカーとしては初めて瞬速のキーワード能力を持ち、出したターンに限り忠誠度能力をインスタントタイミングで起動できる革新的なカードだ。
さらに加えるならば、インスタントタイミングで出るため、同様にインスタントによる除去をされない限り起動能力を2回起動出来るという点も一線を画する。
+1は一方的なコンバットトリックになり。
-1は相手のターンと次の自分のターンで使用することで2/2が二体と盤面を固めるものに。
-2に至っては追放による除去をしつつ、2点のライフゲインもある。
上記のように、たった一枚でアグロ・ミッドレンジ・コントロールのあらゆるデッキに対応できるスーパーカードなのである。
この-2能力の存在により、《魅せられた花婿、エドガー》を不採用とする理由も増えた。かわいそうに。
ついでのように《イマースタームの捕食者》も消えた。南無阿弥陀仏。
ネオ神河のストーリーでも多大な存在感を発揮していたこの存在が、オルゾフミッドレンジの強さをより確固なものとしたのだ。
2.エスパーミッドレンジの登場
環境のトップメタと言える立場になったオルゾフミッドレンジに対して、大いに意識を割いたであろうエスパーミッドレンジをZanSyed氏(@zan_syed)が日頃の配信で調整しており、Crokeyz Kamigawa: Neon Dynasty Tournamentで14-2の準優勝という結果を残した。
同型に強い《ひきつり目》と《消失の儀式》パッケージに加え、足した青要素としての《漆月魁渡》の採用が白眉のデッキ。
フェイズ・アウトにより自衛ができる《漆月魁渡》はインスタントで除去出来ない限り、攻撃できるクリーチャーがいれば2枚のドローがほぼ確定する上に+1能力を2回起動してしまえば忠誠度も5と予想以上に硬いものになる。
多色であるため、《消失の詩句》に対処されない点もよりオルゾフミッドレンジに対して強く出られる一つの強みとなっている。
相手の《婚礼の発表》やプレインズウォーカーに対して《消失の儀式》で対処しつつ、上記の《漆月魁渡》でアドバンテージを獲得。
《婚礼の発表》や《蜘蛛の女王、ロルス》などには《心悪しき隠遁者》で睨みを効かせるというデッキで、オルゾフミッドレンジをベースにしつつも打消し要素を入れたことでオルゾフミッドレンジに対して強い構築となっている。
上記のデッキには入っていない《軽蔑的な一撃》、《蜘蛛の女王、ロルス》などを採用する構成も存在している。
マナベースがかなり厳しいという欠点こそあれど、対応の柔軟性に富むオルゾフミッドレンジに打ち消しが加わった形のエスパーミッドレンジは、今後環境に顔を出し続けるデッキの一つとなるだろう。
また、次の新エキスパンションであるニューカペナの街角でエスパーのトライオーム土地が登場するため、そういった点でも注目すべきデッキとも言える。
3.オルゾフ系ミッドレンジを阻むもの達
さて、《放浪皇》や《漆月魁渡》という強力なプレインズウォーカーを得たオルゾフ系ミッドレンジ一強になると思いきや……そうでなかった。
もともと低速デッキの王者として君臨していたオルゾフ系ミッドレンジだが、欠点としてはクロックが遅い事にある。
もともと長引かせてアドバンテージ差で勝利するデッキなのだから当然のことではあるのだが。
この事から、苦手とするデッキは存在している。
そう、イゼット天啓のような「早期決着しなければやられる」コンボデッキである。
ジェスカイオパス。
ナヤルーン。
ジェスカイコンボ。
ネオ神河環境で産声を上げたこの三つのコンボデッキが、オルゾフミッドレンジの前に立ち塞がったのだ。
3-1.ジェスカイオパス
ジェスカイオパスは《暁冠の日向》から8マナの超級呪文である《マグマ・オパス》を2マナで打つというコンボを組み入れたコントロール。
《暁冠の日向》を《渦巻く霧の行進》《勇敢な姿勢》などで除去をかわしつつ、アップキープに《マグマ・オパス》で問答無用に土地を寝かせ、頼りの《消失の詩句》も通用しない多色クリーチャーが並ぶ。
こうしてマウントポジションを形成できたら、《否認》《軽蔑的な一撃》などの各種カウンターで蓋をした上で《黄金架のドラゴン》で速やかに決着……と、オルゾフミッドレンジにとって非常に嫌な展開を強いられることになる。
それを支えるのはやはりレガシー級スペルこと《表現の反復》。コンボパーツを探し出しつつ、必要な土地をセットできるこのカードを使える点でも強みの一つとなっている。
3-2.ナヤルーン
ナヤルーンは《ルーン鍛えの勇者》と《樹海の自然主義者》によって0マナとなったルーンを回し続けることができる。
これと《気前のいい訪問者》《無常の神》《スカルドの決戦》のパンプ効果により、1ターンあるいは2ターンで10/10トランプルといった化け物を生み出し、一点突破で試合を速やかに終わらせる事ができるデッキである。
オルゾフミッドレンジの強みの一つとして、雑多なクリーチャーに対しては《婚礼の発表》や《蜘蛛の女王、ロルス》のトークンでチャンプブロック出来る点があったのだが、ナヤルーンに関してはトランプルで強引に突破される。
上記のような早期決着だけでなく、《無常の神》の手札に戻る効果や《スカルドの決戦》と各種ルーンによってもたらされるアドバンテージによる粘り強さも持ち合わせている。
また、《神聖なる憑依》といった別角度の強力なアプローチを用意することもできる点も一つのポイントとなるだろう。
3-3.ジェスカイコンボ
cftsoc氏により練り上げられたコンボデッキ。
唱えられたインスタントやソーサリーの数だけコピーする《自身の誇示》で《黄金架のドラゴン》を対象に取り続けることで無尽蔵の宝物トークンを生み出す。
それによって得たマナで《錬金術師の計略》を唱え、ストームを十分に稼いだ《自身の誇示》でとんでもないサイズに膨れ上がったドラゴンでフィニッシュするという内容となっている。
両脇を固めるのはコンボパーツの一つでありフィニッシャーでもある《溺神の信仰者、リーア》、そしてコンボパーツを探し出しつつ土地も伸ばせる《表現の反復》。
いかにオルゾフミッドレンジがアドバンテージを得ようとも、前環境の天啓と同じくアドバンテージ差をものとせず瞬殺されてしまっては意味がない。
ネオ神河実装後の大会であるものの、ネオ神河のカードを1枚も採用していないという徹底ぶりで、幾多のオルゾフミッドレンジを食い物にした結果cftsoc氏は14-1という圧倒的な成績で優勝を手にしている。
重ねて言うが、オルゾフミッドレンジは早期決着を目指すデッキではなく、アドバンテージ差を広げて勝利するデッキが主流であった。
故に、頼みの除去である《消失の詩句》が通用しない《暁冠の日向》から《マグマ・オパス》でマウントを取れるジェスカイオパス。
ゲームレンジが短く、《婚礼の発表》や《蜘蛛の女王、ロルス》のトークンでのチャンプブロックをトランプルによる一点突破が出来るナヤルーン。
アドバンテージ差もなんのもの、一瞬の隙を突いてコンボを決めて決着するジェスカイコンボ。
この三つのデッキに不利がつき、オルゾフミッドレンジの立ち位置が一気に苦しくなり始めたのだ。
そして、これらのデッキは白単アグロに狩られ始めた。
4.白系アグロの隆盛
ジェスカイオパスは《暁冠の日向》と《マグマ・オパス》をそれぞれ4枚採用している事が多く、ジェスカイコンボも同様に三色の宿命でタップインの土地も多くなってしまい、大振りな構成となっている。
さらにオルゾフミッドレンジによってアグロが淘汰され、ミッドレンジ時代であるこの環境で有効な《軽蔑的な一撃》などをメイン採用しており、オルゾフミッドレンジなどを強く意識していた。
その分だけ除去である《ドラゴンの火》なども削っている先鋭的なリストだったが、それを見逃す《スレイベンの守護者、サリア》を擁する白単アグロではなかった。
除去が減ったところに《スレイベンの守護者、サリア》から《精鋭魔道士》あるいは《傑士の神、レーデイン》などを出されるとどうにもならない。
そう、オルゾフミッドレンジに淘汰されたアグロに対するガードが著しく下がっていたのである。《ゼロ除算》の禁止も痛手と言えよう。
ナヤルーンに関しては根本的に相性が悪いとしか言いようがない。白単の定番サイドである《粗暴な聖戦士》と《スカイクレイブの亡霊》、そして《ポータブル・ホール》でクリーチャーを丁寧に処理されるのだ。
剰え《スレイベンの守護者、サリア》で各種ルーンのコストが増加し、連打をすることすらできなくなる。
こうして、オルゾフミッドレンジに狩られたはずの白単アグロが、天敵であるオルゾフミッドレンジが数を減らし、逆にナヤルーンなど得意とするデッキが環境に増えたことで隆盛したのである。
事実、日本選手権2021 FINALでも上記のオルゾフミッドレンジが苦手とするデッキの存在により、メタの一角と考えられていた純正のオルゾフミッドレンジを持ち込んだ者はいなかった。
その一方で、青を足して姿を変え、ある程度対応できるようになったエスパーミッドレンジはTop8に2人入賞と結果は残している。
そのおかげもあり、Top8にボロスアグロと白単が2人ずつ、グルールアグロも含めてアグロが5人、かつ優勝者も中道大輔氏の白単アグロと、アグロの躍進が目立った。
一方でオルゾフミッドレンジに対して強いはずのジェスカイオパス等は、仮想敵であったオルゾフミッドレンジの不在に加えてこれらのアグロによって成績を落とし、Top8には1人も入らなかった。
5.オルゾフミッドレンジの復権
そして、2022/2/26の$1,000 Cash GGtoor M:TG Arena Cup#2、2022/2/27のNEO CHAMPIONSHIP QUALIFIERS by 5CH LATAM SERIESの2大会を75枚同一のリストで優勝を果たした純正オルゾフミッドレンジが登場する。
サイドボードの定番であるはずの《強迫》3枚および《侮辱》2枚のハンデスをメインに採用した上で、追加のハンデスでもある《隠し幕》3枚の合計8枚ハンデス体制。
これを活かすのが4枚の《シルバークイルの口封じ》。
《シルバークイルの口封じ》の難点として、相手の手札を推測しなければならず、能力が誘発する機会も少なくただの3/2になってしまう点にあった。
しかし、8枚ものハンデスを搭載しているこのデッキならば、高い確率で3点+1枚ドローを誘発する2/3/2という高性能な一枚となる。
「ハンデスで急所を落とし、アグロしきる」というサイド後の定番である攪乱的アグロプランをこのデッキはメインから行っているのである。
実際に使ってみたところ、イゼット系に対して土地2で《表現の反復》を使えればいいや、とナメたキープした相手を分からせる展開であったり、あるいは《予想外の授かり物》を落とした上で殴り切るプランを取れる点などで相性が大幅に改善されているように感じた。
元々イゼット系には《食肉鉤虐殺事件》など腐るカードが多くメインはほぼ落とすマッチアップであり、ハンデスが入るサイド後が本番、といったところが最初から本番と言わんばかりに大立ち回りをすることができるのだ。
こうしてイゼット系のコントロールはメタから追い出される形となり、隆盛しつつある白単アグロの対抗馬として《消失の詩句》および《食肉鉤虐殺事件》を擁するオルゾフミッドレンジが復権したのである。
事実、私自身もこのメインハンデス型のオルゾフをベースにしたリストで、2022/3/6に晴れる屋トーナメントセンター東京にて行われた『神河:輝ける世界』ゲームデーにて3-1-1の成績で4位通過、そのまま決勝ラウンドを勝ち抜けて優勝させていただいた。
この事からもこのリストの強さは本物と言える出来であったと断言できる。
ここまでが私の中のオルゾフミッドレンジの変遷である。
さて、ここからはどのようにメタゲームが変化していき、オルゾフミッドレンジはどのように適応していくかの私の個人的な考察となる。もう少しお付き合いいただければ幸いである。
▼オルゾフミッドレンジの今後の展望
1.《消失の詩句》《放浪皇》以外の除去スロットを増やす
《消失の詩句》は強力無比な除去である、という主張には口を揃えて肯定されるだろう。
一方で、この《消失の詩句》に対する対応策としても多色クリーチャーの価値が上がっている事も無視できない事項の一つ。
Sekappy Colosseum 二次予選でころも氏(@koromo1205)が2位の堂々たる成績を残したマルドゥイグニッションというデッキは最たる例と言える。
目に付くのはやはり多色クリーチャーの多さ。《シルバークイルの口封じ》、《ヴォルダーレンの末裔、フロリアン》、そして何よりストリクスヘイヴンのトップアンコモンである《墨の決闘者、キリアン》の採用が面白いデッキ。
単色クリーチャーも今や最強の2マナクリーチャーと言っても差し支えない《光輝王の野心家》、そして護法でアドバンテージ損を強いる《墓地の侵入者》と強力なラインナップが揃う。
これを支えるのが4枚フル採用された《スカルドの決戦》、そして+2/+2と共に速攻、警戒、トランプル、絆魂、破壊不能を付与する《天使火の覚醒》である。
上記で紹介したオルゾフミッドレンジは除去を《消失の詩句》《放浪皇》に頼っている。つまり、多色クリーチャーが警戒を持てばどうなるか。
そう、コンバットでの除去に頼らざるを得ないのだ。
そこで《天使火の覚醒》が付与するトランプル、破壊不能が活きる。
《婚礼の発表》《蜘蛛の女王、ロルス》のトークンでチャンプブロックもできず、ただライフで受けるしかないといういわゆるオルゾフミッドレンジ殺しのデッキなのである。
《消失の詩句》や《放浪皇》がいかに強力な除去であると言えども、今やトップメタの一角となったオルゾフミッドレンジに対して、このように対応策を講じてくる事は間違いない。
であれば、それらに対応できるように幅広く構築していく事が必要不可欠になっていくだろう、と私は考える。
候補としては様々な除去がある。
確実な除去であるものの、2点ロスがやや痛い《冥府の掌握》であったり、ライフロスこそ無いが制約のある《パワー・ワード・キル》であったり。
《漆月魅渡》といったプレインズウォーカーまで睨むならば、《運命的不在》や《魂の粉砕》なども候補に入るだろう。ラクドスサクリファイスなどを意識するならば《ポータブル・ホール》も悪くない。
これに関しては各々が感じた環境に対して、選んでいくことになるだろう。店舗毎のメタによって採用カードを変えるという事も立派な理由付けとなる。
2.《スカイクレイブの亡霊》の採用
今後、《スカイクレイブの亡霊》が採用されていくだろうと考える。
というのも、この《スカイクレイブの亡霊》はクリーチャーだけでなく《婚礼の発表》を筆頭とするエンチャント、《勢団の銀行破り》《鬼流の金床》などのアーティファクト、果てには《放浪皇》《漆月魅渡》といったプレインズウォーカーまで追放ができるのである。
先述した通り、《消失の詩句》《放浪皇》では除去できないパーマネントに対しても触ることが出来る唯一無二の役割を担えるのは大きい。
無論、戦場を離れたら追放した分のマナ・コストデメリットこそは存在するものの、上記に列挙したカード達と比べれば能力を持たないバニラなのだから数十倍マシだろう。
何よりオルゾフ/エスパーミッドレンジにも強いカードであり、オルゾフミッドレンジが同系を意識するのであればこの採用は必然であると言える。
それから、トップメタの一角である白単/ボロスの白系アグロ、ナヤルーンに対しても非常に有効な点も見逃せない。
このカードが腐る相手は主にコントロールとなるが、そのコントロールが《スレイベンの守護者、サリア》らによって淘汰されつつある環境なのも追い風。
3.メインハンデスの是非
異なる2つの大会で優勝したメインハンデス型のオルゾフミッドレンジだが、白系アグロが隆盛してくると《強迫》が腐りがちになってしまう点がややマイナスポイント。
ナヤルーンに関しては《スカルドの決戦》を落とすという役割を担えるものの、本来の仮想敵であろうイゼット系が数を減らしている現状だと、メリットよりもリスクの方が上回るのではないかと考えた。
これに関しては環境次第、としか言いようがないが、少なくとも私はメインハンデスの構築を取りやめてサイドボードへ移動させた。
ちなみにこれは《思考囲い》があれば解決する話である。再録してください。《コジレックの審問》でもいいよ。
4.メインカウンターの是非
上記のメインハンデスの是非と矛盾するだろうが、個人的にはメイン《否認》の方が効果的な環境ではないかと考える。
というのも、白系アグロにすら《放浪皇》が入る現状(中には《婚礼の発表》を入れている型まであった)、《否認》の当て先は非常に多いと言える。
ナヤルーンに対しても《スカルドの決戦》《神聖なる憑依》といった大振りな動きに対しても対応でき、同系対決では《婚礼の発表》《漆月魅渡》《放浪皇》《蜘蛛の女王、ロルス》etc…と当て先に困らない。
これはオルゾフミッドレンジにおけるゲームプラン上でも非常にマッチしている。
なんせ、オルゾフミッドレンジというデッキはボードアドバンテージ差を作り出し、それを各種除去などで蓋をするデッキであり、この「蓋」という役割をこれ以上なく果たすのがこのカウンターだからだ。
何より、相手のターンに打ち消しを使用することがなくとも、能動的に動ける《放浪皇》の存在が大きい。
《放浪皇》と《消失の詩句》などの除去の二択に加えて《否認》というカウンターの択まで加わるとなれば、それは盤石と言えるものになるだろう。
4-1.《否認》と《軽蔑的な一撃》について
《否認》とよく比較される《軽蔑的な一撃》。
こちらは点数で見たマナ・コストが4以上であれば、クリーチャーでも打ち消せるのが最大の利点である。
打ち消したいと思えるカードは戦況を動かすものであり、それらは必然的にマナ・コストが重くなる傾向にある。
今の環境で言えば《放浪皇》、《蜘蛛の女王、ロルス》、《スカルドの決戦》、《黄金架のドラゴン》、《暁冠の日向》、《溺神の信奉者、リーア》などが挙げられる。
ここで少し考えてみてほしい。先述した通り、現在の環境はアグロに寄っておりイゼット系が数を減らしている環境である。
つまり《黄金架のドラゴン》、《暁冠の日向》、《溺神の信奉者、リーア》らの大型クリーチャーを採用しているイゼット系以外であれば、《否認》で事済むということになる。
事実、イゼット系がメタゲームから脱落しつつある現在の環境では主に使われている4マナ以上のクリーチャーは《軍団の天使》ぐらいだろう。
そうすると、同型の《婚礼の発表》《漆月魅渡》を打ち消せるという大きなメリットを持つ《否認》の方に軍配が上がる、というのが私の認識である。
無論、イゼット系が復権してきたのならば、《軽蔑的な一撃》の方に軍配が上がることに関して異論はない。
とどのつまり、環境に合わせて採用カードを変えようという話だからだ。
余談:オルゾフ系ミッドレンジの強み
オルゾフ系ミッドレンジの強みとは何か?と問われたら、私はこう答える。
アグロプラン・コントロールプランをどれも取れる点である、と。
《光輝王の野心家》を筆頭に優秀な白のクリーチャー達が存在しており、これらを活かしたアグロプランを取れる一方で、《放浪皇》《不笑のソリン》《蜘蛛の女王、ロルス》といったプレインズウォーカー達も存在している。
これらを《消失の詩句》《食肉鉤虐殺事件》といった除去、そしてサイドボードから入ってくる《告別》《危難の道》などの全体除去でバックアップするコントロールプランも取れてしまう。
これは相手にすると非常に厄介で、メインゲームでは「どちら側なのか」が推測できないことがさらに拍車をかける。
メインゲームで複数枚の《光輝王の野心家》で殴りきった後、サイドボードでその《光輝王の野心家》を全抜きして相手の除去を腐らせた上で、プレインズウォーカーによるコントロールプランで勝った試合は幾多もある。
この器用さこそが最大の強みであり、私にサイドボードの妙を認識させてくれたデッキでもある。
▼最後に
・2022/3/20時点のデッキリスト-エスパーミッドレンジ
上記の所見および考察を経て、2022/3/20に開催された晴れる屋川崎店の日本選手権予選(参加者39人)にて、惜しくも5-1の成績で2位となったリストを掲載する。
私自身もまだまだ試行錯誤している身であり、次回はまた採用カードが変わっている事だろう。それでも一つの参考になれば幸いである。
最後にお約束のあの言葉で締めようと思う。
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了