【遊戯王】《ABC-ドラゴン・バスター》みたいな融合モンスターの話【デザイン論】
1.はじめに
こんにちは、なごにゃんです。
前回の記事「ハリファイバーの生涯」が大きな反響をいただいており、非常に驚いております。ありがたい限りです。
(※ 水晶機巧の新規カード発表で「ハリファイバーエラッタ緩和論」が盛り上がり、そのトレンドに便乗してしまったのが事の真相のようですが、経緯はどうあれ拙文が多くの方の目に触れることとなり恐縮の至りです。)
特定のカードにクローズアップした解説記事は今後も続けたいと思ったのですが、さすがにカード1枚で20,000字近く絞り出せるのは《ハリファイバー》くらいでしょう。というか、この文量を書き上げた後に二匹目のドジョウを狙う度胸も体力もありません。
そこで今回は、もう少しライトで字数も抑えられそうなテーマを設定しました。5,000字ちょっとのスッキリした記事なので、よかったらお手すきの際にでもお目通しください。
昨今急増している、ある特殊な融合モンスター群について語ります。
2.《ABC-ドラゴン・バスター》が犯したタブー
《ABC-ドラゴン・バスター》は、第9期末期の2016年6月に誕生したカードです。
「STRUCTURE DECK -海馬瀬人-」といういかにもファンアイテムっぽい商品の出身で、実際《ブラッド・ヴォルス》《ランプの魔精ラ・ジーン》《攻撃の無力化》とかまで再録されており、お世辞にも質のいいラインナップではありませんでした。
その中で、《ABC》とその関連カードは明らかに異彩を放っていました。
当時、その召喚条件に衝撃を受けた1枚です。
《融合》を必要としない
素材を墓地からも調達できる
という片方の性質に限れば前例がありましたが、これらを併せ持つとなると話が違ってきます。ただ素材を墓地に集めるだけでよく、《ミラクル・フュージョン》のようなカードを引き込む必要すらなく、条件さえ満たせば無から融合モンスターが出現するわけです。
《ABC》には質の高いフリーチェーン除去効果がついており、攻め手としても返しの妨害としても十全に機能します。明らかに無料で出てきていいパワーのカードではありません。
さらに、ターンこそ跨ぐものの分離効果がついており、墓地から使ったはずの素材がフィールドに帰ってくるという意味不明な挙動が発生します。
このままフィールドから素材を使ってもう1度合体してもいいですが、せっかく墓地からも素材にできるので、いったん別の使い道で墓地に送りましょう。当時はリンク召喚こそ存在しませんでしたが、素材を1度に取り外せるランク4モンスターなら好きなように追加できてしまいます。
もうだいぶメチャクチャです。
ここまで上手くゲーム運びができたら大体勝ちでしょう。
特筆すべきは、このゾンビ🧟のような展開の始点が"無"であることです。
アドバンテージ的には何も失っていない、どころか何も払っていないのに勝手に無尽蔵なリソースと致命的な展開が生み出されています。
そもそも素材のステータスが機械族・光属性・レベル4・ユニオンと良質でサポートが多く、無理をせずランク4デッキとして振る舞っているだけで勝手に墓地に素材が溜まっていく設計です。
(※ ユニオンを優遇ステータスに含めることには違和感があるかもしれませんが、同時に獲得した《ユニオン格納庫》の影響により格段に取り回しがよくなっていました。)
従来のランク4デッキの手数に加え、廃材が自律して襲い掛かってくるという規格外の攻め手を持ったこのテーマは環境に定着し、新時代のミッドレンジデッキとしてその名を轟かせたものです。
なぜ海馬のファンアイテムにこんな化け物が混ざっていたのか、その理由はさっぱり分かりません。
ただ、対となる《電磁石の戦士マグネット・ベルセリオン》はメインデッキに入る特殊召喚モンスターであり、こちらだけが新時代の融合モンスターとしてデザインされていたことを考えると、このメカニズムがゲーム上大丈夫かの実証実験を兼ねていたのではと邪推しています。
(※ 単にリメイク元の《磁石の戦士マグネット・バルキリオン》と《XYZ-ドラゴン・キャノン》のカード種別に合わせただけの可能性も高いですが……。)
で、大丈夫かどうかで言えば、ダメでした。
これ以降、《ABC》と《格納庫》は6年にも渡る規制と緩和の歴史を繰り返すことになります。
端々で、開発陣がこのカードの扱いに困っていたことが伝わってきます。
《格納庫》を緩和してやっぱりダメだったので《ABC》本体を規制することになったり、2020年4月の大規模規制から3年近い観察期間を設けたり、危険視されていたのは間違いありません。
ここからは推測の域を出ませんが、《ABC》の失敗を踏まえ、長らくの間この方式の融合モンスターは開発上のタブーになっていたと思われます。
《融合》を必要としない
素材を墓地からも調達できる
という条件だけであれば、《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン オーバー・ドライブ》がそれぞれ満たしていますが、どちらも「特定のモンスターの特殊召喚に成功しているデュエル中」という非常に厳しい条件が追加されており、素材も簡単には用意できなくなっています。
こういった条件のない純粋な《ABC》式融合の復活は、なんと2023年の《ヴィシャス=アストラウド》を待たねばなりません。ちょうど《ABC》が制限解除された月のカードであり、これをもってようやくデザインの禁が解かれたと考えるのは妥当でしょう。
その後も立て続けに《合体魔神-ゲート・ガーディアン》《聖霊獣騎 ノチウドラゴ》《ファントム・オブ・ユベル》《XYZ-ハイパー・ドラゴン・キャノン》がリリースされており、ついに時代が《ABC》に追いついたと感慨深くなったものです。
3.2体じゃダメだよ《ABC》式融合
ここまでを振り返ると、「昔は強すぎたメカニズムが、2023年に入ってようやく許される強さになったんだな~」という理解になるかと思います。
その通りと言えばその通りで、《合体魔神-ゲート・ガーディアン》《XYZ-ハイパー・ドラゴン・キャノン》のように素材が「3体名指し」のものであればちょうどいい強さに落ち着いたのですが……。どういうわけか、非常に素材指定が緩いうえに「2体」で済むカードが続々とリリースされています。
2024年現在、《ABC》式融合の代表格と言えば《ファントム・オブ・ユベル》ではないでしょうか。執筆時点で無制限カードですが、この記事が皆様のお手元に届く頃には何らかの規制を受けていてもおかしくないカードです。
無料で出てくる
質の高い1妨害
リソース込み(効果の使用が2体目の成立に繋がる)
といった《ABC》のエッセンスはそのままに、手札のカードも素材に使えるようになって奇襲性が上がったり、除外ではなくデッキに戻すようになってリソース回復を兼ねられるようになったり、細かい点でアップデートがかかっています。
そのうえで、「カテゴリのカード+特定ステータスのカード」と素材の要求値があまりに緩すぎて、効果を無視してリンク値として扱ったり、これ2体を並べてランク9モンスターにアクセスしたりするルートすら現実的になってしまいました。さすがに《ABC》の取り回しもここまではよくありませんでした。明確にインフレを感じる挙動です。
また、環境トップレベルとまではいかないものの、《ヴィシャス=アストラウド》《聖霊獣騎 ノチウドラゴ》の挙動もなかなかおかしいです。
《アストラウド》は、さながら《ヴィサス=スタフロスト》にテキストの拡張をもたらしたような感覚のカードです。
単体ではカードパワーの低い《ヴィサス》に大きな採用意義を与えた点で偉大な1枚ですが、無から「盤面除去+リンク値追加+《クロシープ》の起動」を行うのは冷静に考えて何か狂っています。
《ノチウドラゴ》がやっていることはルールの追加に等しいです。
さながら、「1ターンに1度だけ、墓地に霊獣使いと精霊獣が揃っていたら、片方を除外してもう片方を特殊召喚してもよい」といったところでしょうか。古いテーマの救済というお題目があったため壊れカードと断じることはできませんが、挙動そのものは明らかにイカレています。他のテーマで安易にこんなものを出されてはたまったものではありません。
よく、「古いテーマを救済するにはリンク1がいい」「リンク1はテキストの書き換えに等しい」という意見を耳にしますが、2体で行う《ABC》式融合もリンク1に匹敵する禁じ手だと感じています。
ここ1年ちょっとで何種もリリースされている12期のトレンドのようですが、個人的には不穏な匂いしかしません。《ファントム・オブ・ユベル》の暴走によって再びタブーと判断されるのか、このまま便利なメカニズムとみなされ新規テーマにもホイホイ配られるようになるのか、このゲームの寿命を決める分かれ道のような気がしてなりません。
4.3体で行こうよ《ABC》式融合
否定的な見解を示しましたが、私は「3体名指し」で行う《ABC》式融合は高く評価しています。というか、「もっとやればいいのに」と思っており、《ABC》の情報が出た当初から「《ゲート・ガーディアン》とかこれ方式のリメイクでいいんじゃない?」と言っていたので、ズバリそのものの《合体魔神-ゲート・ガーディアン》が出た時には「やっぱりな!」と小躍りした記憶があります。
匙加減の難しいメカニズムではありますが、「3体名指し」であればそうそう壊れてしまうことはありません。ちょうどいいファンデッキに落ち着いた《合体魔神-ゲート・ガーディアン》がまさに実証していますが、古い素材カードに採用意義を与えることができますし、破壊された時に元祖を特殊召喚できる効果でもつけておけばファン需要にも応えることができるでしょう。
たとえば、《機皇神マシニクル∞》なんかはこの方式のリメイクでいいのです。墓地の《ワイゼル》《スキエル》《グランエル》を除外してエクストラデッキから出てくる《マシニクル》、使いたくないですか?
……というか、機皇帝の強化が来るなら絶対コレだろうと思っていたのですが、現実は変なワイゼルでしたね。思い出したら腹が立ってきました。
余談はほどほどにして、古今の作品で見られた「3体セットのモンスター」はたいていこの方式で綺麗にリメイクできると思います。《合神竜ティマイオス》なんかはまさにこれが適当じゃないでしょうか。
また、原作に合体形態が存在しない場合でも、3体に何らかのつながりがあればデザインすることは可能でしょう。取っ散らかっていて救済不能と思われているチーム・ユニコーンのカードなんかも、なんとかこの方法で救えないでしょうか……?
《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》への意趣返しとして、彼らの切り札が融合になることはそんなに違和感ないと思うんですよね。
……そろそろただの妄想になってきたので切り上げますが、いずれにせよ、今後の動向に期待したいところです。
5.おわりに
いつもより短い記事に仕上げてみましたが、いかがでしたでしょうか?
この《ABC》式融合は12期のトレンドだと思っているのですが、言及している記事が見られなかったため自分で筆を執ってみました。
さすがに《ABC》解禁と《ヴィシャス=アストラウド》の登場が同タイミングだと気づいた時はゾクッとしましたが、これは果たして偶然なのでしょうか……?
使いようによってはゲームを壊し得る危険なメカニズムですが、《合体魔神-ゲート・ガーディアン》が示すように、古い合体モンスターの救済としてはこの上なく優れた仕組みでもあります。節度を持ってデザインされることを祈るばかりです。
ご高覧ありがとうございました!