【遊戯王】《水晶機巧-ハリファイバー》の生涯を振り返る【約20,000字】
1.はじめに
こんにちは、なごにゃんです。
今日は、遊戯王史に残る名カード《水晶機巧-ハリファイバー》の話をしようと思っています。
禁止指定から2年が経ちますが、未だその現実を受け入れられず、名前を見るだけでボンヤリとした喪失感に襲われるのは私だけではないハズです。
OCG25年史において、これほどまでに二面性のある、毀誉褒貶の限りを一身に受けてきたカードは他にありません。
ある面では英雄的な貢献をもたらし、またある面では戦犯的な暴威を振るったその様は、まさしく歴史上の偉人のようです。
幾度となく命を狙われながら、その度に奇跡(関連カードの身代わり規制)が起きて生き延びてきた”不死身”の逸話も箔付けに相応しいでしょう。いつしか「遊戯王は《ハリファイバー》のあるゲームである」と認識され、一時期、どれだけ暴れても禁止候補に挙がらなくなったのはこのカードの特異性を強調するエピソードです。
この記事では、そんな《ハリファイバー》の生涯に思いを馳せ、さながら故人を偲ぶように昔話をします。
「このカードの強さ」についてはもちろんですが、彼が伝説的カードとして眠りにつくまでの経緯を中心にお伝えできればと思います。
タイトル通り、約20,000字の長文記事となりますので、お時間のある時にお読みいただくか、目次をご活用いただいて少しずつ読み進めていただくかのどちらかを推奨します。
2.~2017年11月:《ハリファイバー》前夜、ヘリックスの下り坂
ご存知の通り、《ハリファイバー》が生誕した2017年は新マスタールールの適用開始年、すなわち ”リンクショック” に見舞われていた時期です。
この記事では多くを語りませんが、OCG史上最悪の暗黒期であったことは間違いありません。
何より、"ごっこ遊び" ツールとしての商品価値を毀損し、競技と無関係に遊んでいた層に大ダメージを与えたのが致命的でした。
(私の地域では遊戯王のフリー対戦をほとんど見なくなってしまい、カジュアル層がごっそり蒸発したことを痛感させられたものです……。)
競技勢の中には「インフレを抑止するために必要なことだ」「昔のカードが活躍するチャンスかも」と前向きに捉える声もありました。
前者は的を射ていて、競技環境が多少健全化したのは事実ですが、後者の希望(昔のカードの活躍)が叶うことはありませんでした。
というのも、エクストラデッキからの展開に制限をかけたところで、活躍するのは「昔のカード」ではなく「エクストラデッキへの依存度が低い最近のカード」なわけです。
間の悪いことに、その代表格たる【真竜】【恐竜】が直前にリリースされており、次点である【召喚獣】【十二獣】【ABC】【WW】【トリックスター】【Kozmo】あたりも登場から1年未満のものばかりでした。
実質的には、「最近のカードからペンデュラム関連が抜けただけ」で、それほど目新しいラインナップにはならなかったと言えます。
とはいえ、これはこれで群雄割拠と言える多様性があり、それなりに評価されていたのも事実です。冒頭で注釈した通り競技環境は多少健全化の傾向を見せており、明確な不満と言えば《真竜剣皇マスターP》が強すぎることくらいだったと記憶しています。「規制はほどほどでいいので、リンクモンスターの充実で閉鎖的なゲーム体験が改善されれば……」と考えていたユーザーも多かったのではないでしょうか。
しかし無慈悲にも、2017年10月のリミットレギュレーションでは大鉈🪓が振るわれることになります。
今となっては笑い話ですが、リストを見てください。
発売から半年そこそこの【真竜】に禁止2枚・制限3枚というヤケクソな制裁が加わり、【召喚獣】は《アレイスター》制限というコンセプト否定に近い仕打ちを食らいました。その他、少しでも環境に顔を出したギミックは何らかの形でお仕置きを受けており、「そこまでしなくても」と言いたくなるほど非常に厳しい改訂となっています。
(※ さすがにやりすぎと判断されたのか、ほどなくして《アレイスター》は《メルカバー》と入れ替わる形で復帰し、【真竜】の制限カードも毎シーズン1枚ずつ緩和されていくことになります。)
「もっとリンク使えよ!😡」というメッセージ性を感じる改訂ですが、多くのプレイヤーは「お前がまともなリンクよこさないのが悪いんだろ!😡」と反駁したはずです。
この時期のリンクモンスターは本当に層が薄く、【十二獣】は《ミセス・レディエント》を使っていましたし、【ABC】は《デコード・トーカー》をありがたがっていました。《プロキシー・ドラゴン》が1500円買取だった時期があると言えば、どれほど窮屈な状況だったかお分かりいただけるのではないでしょうか。
そんな状況で「リンクモンスター中心の強いデッキを作れ」というのは、どだい無理な話です。一部のデッキがルールに順応するため仕方なく使うものというのがリンクの共通認識で、コンセプトに据えられるようなものではないと考えられていたのです。
だからこそ、やむを得ず "脱エクストラ環境" が作り上げられていたのに、新システムの販促に邪魔だとばかりに踏みにじられたことに気分を害した人も少なくなかったと思います。
そして、その状況に、「ならこれを使え!」とばかりに生み出されたのが史上初のリンクソリティアテーマ【SPYRAL】だったわけです。
(※ 厳密には、来日時にリンクモンスター1体が追加されただけでリンク特化テーマではないのですが、便宜上そう紹介します。)
「そうじゃねーよ」とツッコミたくなったのは私だけではないでしょう。
確かに【SPYRAL】の影響力は凄まじく、リンク召喚そのものの危険性を後世に知らしめ、2017年9月~2017年11月にかけてほぼ1強の大活躍をしたデッキです。
しかし、ユーザーが欲しかったのは "新しいリンクテーマ" ではなく、 "既存のデッキで使えるリンクモンスター" だったのです。
正直、【SPYRAL】の存在がリンクモンスターの販促に繋がったとは到底思えず、むしろ我慢して付き合っていた古参ユーザーの不満が噴出したのがこのタイミングだった印象です。
既存のデッキの多くが選択肢を奪われ、しぶしぶ組んだ【真竜】【恐竜】【召喚獣】も根こそぎ規制され、残ったユーザーに突き付けられたのが「これが新時代だ!w」とばかりの【SPYRAL】です。
ゲームの閉塞感がいつまでも改善されないままに、ポッと出の新テーマだけが新システムの恩恵に最大限与ることができたわけです。長年遊戯王にしがみついてきた筆者も、この時ばかりは「もう付き合いきれない」と感じたのを覚えています。
それがユーザーの総意……とまでは言いませんが、私と同じことを考えていた人は相当数いるようで、それが《SPYRAL-ザ・ダブルヘリックス》の価格推移に如実に表れています。
見てください。これが「ヘリックスの下り坂」です。
初動4000円をつけたトップレアが、制限改訂を待たず暴落しているのです。
これはすなわち、需給のバランスが崩れたこと、《ヘリックス》を求める競技人口が激減したことを意味しています。「遊戯王終わるかもw」と冗談で言い合っていた筆者の周囲も、日に日に下落して最終的にブロックオリパの表紙になった《ヘリックス》の姿を見て真顔になったのを覚えています。
ここまでの経緯をまとめると、以下の通りです。
”リンクショック”により、カジュアル層がごっそりいなくなった。
適応した競技勢によって生み出された”脱エクストラ環境”は、リンクモンスターの販促に邪魔だったのかボコボコに潰された。
閉鎖的なゲーム体験が改善されないまま、唯一リンク召喚を使いこなせる新テーマ【SPYRAL】の1強環境となり、競技勢も愛想を尽かした。(ヘリックスの下り坂)
当時の遊戯王がいかに限界集落と化していたかお分かりいただけると思います。
はっきり言ってこの時期の遊戯王は "オワコン" 以外の何物でもなく、公認大会の定員を満たせないこともしばしばで、現行レギュレーションよりもゲートボール(※)の大会の方に人が集まったという逸話もあるくらいです。
(※ 特定時期の禁止制限とカードプールを用いて行う非公式レギュレーションのことです。用語自体は2010年頃には存在していたようですが、悲しいことに流行したのは2017年のこの時でした……。)
後にも先にも、「遊戯王の終焉」を本気で危惧したのはこの時くらいです。
3.2017年~2018年:《ハリファイバー》爆誕
2017年11月25日、救世主は突然訪れました。
「LINK VRAINS PACK」の発売日です。
以降の環境に多大なる影響を与えた伝説のパックです。
強すぎるカードのことを「未来から来たカード」とするスラングがありますが、これはもはや「未来から来たパック」、本来であれば数年後に発売する予定の商品を前倒ししたのではと邪推しています。
そうでないと説明がつかない、数世代のインフレを重ねてやっと印刷が許されるレベルのパワーカードがひしめいていました。
《プロキシー・ドラゴン》や《ミセス・レディエント》をありがたがっていた時代に突然こんなのがぶち込まれたのです。何らかの裏事情があるのは確実と思われ、低迷する商況やユーザーアンケートの結果に鑑みてテコ入れが試みられたのは想像に難くありません。
この施策は、大多数のプレイヤーには好意的に受け入れられました。
まさにこれらのカードこそ、切望していた "既存のデッキで使えるリンクモンスター" 群であり、それらがまとまった数投入されたことでゲームの閉塞感が大幅に改善されたためです。
とりわけ《水晶機巧-ハリファイバー》がもたらした影響は甚大で、これ以降の遊戯王を「《ハリファイバー》のあるゲーム」に変容させました。
このカードの強さを余すことなく設明するのは困難です。
あえて言語化を試みると、以下の点で、異次元のカードとしか言いようのないスペックを誇っていました。
リンクモンスターは他の召喚法の中継と考えられ、「マーカーさえまともならバニラでも合格点」だった時代に、単体で動きの起点となる性能が与えられた。
縛りが「チューナーを含む2体」のみと非常に緩く、あらゆるデッキから繰り出すことができた。
新ルールの影響をモロに受け使用不可になっていた「シンクロモンスター同士のシンクロ(アクセルシンクロ)」をフルサポートしていた。
筆者が驚いたのは3番目の点で、新ルール下では使い物にならないだろうと諦めていた「アクセルシンクロ」をこれ1枚で復活させてしまったのには舌を巻きました。
というのも、たとえばシンクロモンスター3体を並べて《シューティング・クェーサー・ドラゴン》を出そうと思うと、「リンク先3つ(≒頭数3匹分)」を余剰に確保した上でそれらを並べなくてならず、現実的に救済できるとは思えなかったのです。
その点、2つのリンク先を提供しながらチューナーを呼び、最終的に自身が任意のシンクロチューナーに化けることで、結果的に旧ルールよりも低い要求値でアクセルシンクロまで辿り着けるようになったのには脱帽するばかりでした。
明らかにリンク2にしてはオーバーパワーですが、ここまでテキストを盛らないとまともに遊べないくらい新マスタールールが狭苦しかったことの証左と言えます。
(※ ちなみに筆者は、呼び出せるシンクロチューナーに種族やレベルの制限がないことを危惧しており、「将来的にヤバいシンクロチューナーが出たら規制されそうだな~」と暢気に考えていたのですが、まさかその効果がインクの染み扱いされるようになるとは思っていませんでした……。)
さて、救世主《ハリファイバー》率いるリンクモンスター連合により、当時の遊戯王に蔓延していた閉塞感は一挙に打破されました。
その噂はゲームから離れていたカジュアル層の耳にも届き、「遊星デッキがまた組めるらしい」「リンクヴレインズパックを買えば今までと同じように遊べるらしい」という評判も広まり、静まり返っていたフリースペースもにわかに活気を取り戻したのです。
この時点で、《ハリファイバー》が遊戯王再興の立役者であり、英雄であることに疑いの余地はないでしょう。
ところが、歴史にはウラオモテがあるものです。
《ハリファイバー》は救世主などではなく、規格外のリンク召喚効率によって遊戯王を破壊した戦犯とも言えたのです。
というのも、《ハリファイバー》自身にも呼び出すチューナーにも利用制限がかけられていないのが問題でした。
頭数を伸ばすギミック=リンク召喚のサポートとして転用することが可能で、むしろ《ハリファイバー》自身がシンクロ素材にならないこともあってリンク素材に回した方が展開効率が高くなる状態だったのです。
単純な話、「《ハリファイバー》を出す」=「リンク値が無償で1つ増える」ですから、これより優れたリンクサポートはそう存在しません。
加えて、《グローアップ・バルブ》のような自己再生(トークン生成)持ちのチューナーをリクルートした場合は更にリンク値が1つ伸びることになり、リンク2=リンク4というバカの数式が成り立つことになってしまいます。
さらに、《ハリファイバー》から繰り出すリンクモンスターが展開効果を持っていれば追加のリンク値が発生することになります。
以降の環境でも《幻獣機アウローラドン》《神聖魔皇后セレーネ》などとの組み合わせで存在感を示す性質ですが、最初は《サモン・ソーサレス》(※エラッタ前)との組み合わせでこの危険性を顕在化させました。
リンク値を内包するモンスターを呼び出せば+2となり、リンク2=リンク6という愚者の定理が見えてきます。
さらにさらに、ここから他のリンクモンスターを掛け合わせてまだリンク値を伸ばせますし、当時は《ファイアウォール・ドラゴン》(※エラッタ前)が存命でしたから、実際にはこれを通して破局的な展開が行われることになります。最終的に生み出されるリンク値はいくつになるのか……考えるのもバカらしいのでやめましょう。
とにかく、《ハリファイバー》が通ればその後の展開が無限に膨らみ、人が死ぬのです。ここにリンク2=死💀という宇宙の真理が誕生しました。
最大の問題は、ここまでの展開をあらゆるデッキで可能にしてしまった異常な汎用性です。
どのデッキも自己再生チューナーを1〜2種採用するだけで簡単に真理を手にできるようになり、リンク召喚の大原則である足し算が崩壊しました。
ここまで極端な例でなくても、単純にリンク値を+1して《トロイメア・ユニコーン》に手を伸ばしたり、1枠だけ割いた《グローアップ・バルブ》経由で《ヴァレルロード・ドラゴン》を狙ったりもできる、攻め手の幅を広げるスーパーサブとしてその名を轟かせたのです。
言ってしまえば、《ハリファイバー》が本当に救ったのはシンクロモンスターではなくチューナーだったわけです。
あらゆるチューナーは真理の入り口となり、レベル3以下のものであれば《ハリファイバー》を介して相互リクルートできるようになったこともあって運用性が跳ね上がりました。なぜか汎用手札誘発の多くがチューナーであり、ダブついたそれらまでフィニッシャーに変換できるのは革命的で、伏線回収とまで呼ばれました。
そして、それら手札誘発は相手の《ハリファイバー》対策としても有効であるため、事実上の必須枠として環境に定着していくわけです。
今日当たり前となっている「《うらら》《G》フル投入から構築を始める」価値観はこの頃に確立したと言えます。
以上のことから、《ハリファイバー》がこのゲームに与えた影響は計り知れず、彼が生まれながらに禁止相当の特級パワーカードであることは誰の目にも明らかでした。
にも関わらず、世論が禁止を求める声一色ではなかったのがこのカードの特異な点です。それどころか、「良カード」 「インフラ」「禁止にすべきではない」という擁護意見も多く聞かれ、このカードの危険性を理解しながらも必要悪であると語る人もいました。
(※ 筆者もおおむねこのスタンスでした。)
というのも、《ハリファイバー》がもたらしたゲーム体験は率直に言って楽しかったのです。
まともに選択肢のない時代から一転、その気になれば誰もが【SPYRAL】のように振る舞うことができ、リンク召喚の恩恵を等しく享受できる時代の到来です。拒否反応を示していた層も徐々に順応し始め、「位置要素が面白い」「直感的でわかりやすい」という評価が聞かれ始めたのもこの頃と記憶しています。
環境へのインパクトはどうあれ、《ハリファイバー》がリンク召喚のパイオニアとして最良の働きをしたのは事実です。もちろん、デザイン通りシンクロ召喚のサポートも十全に果たすことができますし、それによって救われたカジュアルデッキは数え切れません。
《ハリファイバー》がもたらしたものは、破壊であるとともに自由でもあったのです。
そんな《ハリファイバー》の禁止とはすなわち、自由の喪失、息も詰まるような限界集落への回帰を意味するわけです。安易に禁止を願うことを躊躇った人も多いのではないでしょうか。
言ってしまえば、「遊べないクソゲーよりは遊べるクソゲーの方がマシ」なので、《ハリファイバー》には長生きしてほしいと願うユーザー心理が生まれたのです。
《ハリファイバー》は遊戯王を終わらせかねないカードでしたが、
終わりかねなかった遊戯王を救うためには必要な力だったのです。
こうして《ハリファイバー》は、罵声と同じくらいの称賛を浴びるという奇妙なデビューを飾ることになりました。
4.2018年~2019年:《ハリファイバー》死すべし? 禁止論最盛期
《ハリファイバー》登場以降の環境は彼を中心に再構築されることになり、「《ハリファイバー》を上手く使えるデッキ」が覇権を争いました。最たるは悪名高き【植物リンク】(→後の【たんぽぽサンバ】)ですが、それ以外にも多種多様なデッキタイプが《ハリファイバー》の出力ありきで生み出されています。
はっきり言って、この時期の環境はメチャクチャです。
《ハリファイバー》→《サモン・ソーサレス》の基盤があれば大抵の無茶は叶えることができ、ひとたび《ファイアウォール・ドラゴン》が動き出せばゲームが終わります。この三悪人を軸にした先行1キルやエクストラリンクが猛威を奮い、トーナメントシーンはソリティア博覧会の様相を呈していました。
(※ 実際には対抗馬となる【閃刀姫】【オルターガイスト】【サンダー・ドラゴン】のようなデッキも活躍していますが、ここでは割愛します。なお、《ハリファイバー》は【閃刀姫】のメインウェポンでもありました……。)
「この3枚の中でどれがいちばん悪いか」という不毛な議論がありますが、私は《ハリファイバー》に一票です。
もちろん《サモン・ソーサレス》《ファイアウォール・ドラゴン》も単体で禁止相当のパワーカードですが、その運用性を跳ね上げたのは《ハリファイバー》であり、これがなければ前者2枚の問題性が顕在化するのはもう少し後だったのではという印象があります。本来であれば構築単位で特化すべきコンボの下ごしらえを一人でやってしまうのは異常というほかありません。
で、この環境で数ヶ月も遊んでいると、さすがに世論がこんな感じになっていきます。
「《ハリファイバー》は良カードだ」と言っていた層も、この惨状には口を噤みます。もちろん、先の事情もあってヘイト100%のカードというわけでもなく、「まだ死なないでほしい」という願望はよく聞かれましたが、おそらく叶わないであろうことは多くのプレイヤーの共通認識でした。この時期が「ハリファイバー禁止論」の最盛期であったことは確かです。
筆者も「持って年末までだろう」と考えており、ここをデッドラインと考える人は多くいました。
実際、Xデーたる年末を予告するように、この三悪人は徐々に締め上げられていきます。
まず周辺パーツとして、2018年4月~2018年10月にまたがって、最強の初動であった《BF-朧影のゴウフウ》は引退し、先行1キルの実質火力を担っていた《フェニキシアン・クラスター・アマリリス》《キャノン・ソルジャー》《トゥーン・キャノン・ソルジャー》《メガキャノン・ソルジャー》《アマゾネスの射手》も一発禁止の刑を食らいました。
……正直に言うと、素引き前提の《ゴウフウ》が規制されたところで大きな影響はなく、1キルが規制されても突破不能な先行制圧でいくらでも代用できたので、この規制にガス抜き以上の意味はありませんでした。
ぶっちゃけこの時点では「先っちょだけ規制してどうする」状態でしたが、この後も続く射出系カード取り締まりの第一歩としては有意義な決定だったかもしれません。
続いて、いよいよ三悪人の本体から脱落者が出ました。
2018年10月、《サモン・ソーサレス》が1年足らずの生涯を終えます。
(※ これ以降復帰することなく、6年後にエラッタされ存在ごと抹消されることになりました。)
筆者の感想は、「あ、そっちからなんだ」でした。
もちろん、このカードの禁止指定そのものは妥当ですが、年内に出たばかりの書籍付属カードでもあり、《ハリファイバー》を処してから様子を見るものとばかり考えていたので、やや意外な決定に思えました。
(※ 事情通のフリをして、「集英社との契約どうなってるんだろね?」と友人に話していたのを覚えています。恥ずかしい。)
さすがにこの規制はクリティカルで、多くのプレイヤーに歓迎されました。
《サモン・ソーサレス》がなんでも引っ張ってこれるからこそ成立していた面白ルートが崩壊し、多くのソリティアが考え直しになりましたし、《ハリファイバー》=勝ちというほど単純な図式が成り立たなくなったのです。
もっとも、「じゃあ《ハリファイバー》は許されたのか」というとそんなことはありません。
確かに《サモン・ソーサレス》存命時よりは要求値が上がりましたが、未だソリティアの起爆剤として大きな存在感を示していましたし、この頃には《ヴァレルソード・ドラゴン》によるお手軽1ショット量産機として別軸の問題も発生させていました。今でこそピンと来ない話ですが、「苦労して出すテーマ専用の切り札より、《ハリファイバー》が片手間に出す《ヴァレルソード》の方が強いのはおかしい」と相当なヘイトを集めていました。
(※ 今でも《アクセスコード・トーカー》に嫌悪感を示す人がいますが、その比ではなく問題視されていた印象です。)
また、この頃になると《ハリファイバー》の問題性が十分に周知され、「本当の意味でシンクロ救済になっていないのでは?」「チューナーやリンクモンスターのデザインに差し障るのでは?」という声がカジュアル層からも聞かれ始めたものです。いよいよ《ハリファイバー》禁止に向け外堀が埋められていくのを感じました。
そして、来たるXデーの12月。
《ハリファイバー》禁止はまず間違いなく、後はどこまでソリティア絡みにメスが入るか……と皆が固唾を呑んで見守る中、歴史的な大改訂が発表されます。
禁止カード8枚。
いかに環境が荒れていたか分かりますが、なんとそこに《ハリファイバー》の姿はありません。
代わりに羅列されていたのは《バルブ》《スチーム》とソリティア連合の皆さま、そしてあろうことか《ファイアウォール・ドラゴン》その人だったのです。
度肝を抜かれました。
もちろん、これ以上なく妥当な人選ですが、現行アニメ主人公のエースモンスター(※)という出自からまずあり得ないというのが通説で、禁止候補に挙がることすらなかったカードです。
おそらく、脚本の白紙化や商品展開の見直しといった多大なる労力を要したでしょうが、それを天秤にかけてでも、《ファイアウォール・ドラゴン》を生かしておくことがOCGの未来のためにならないと判断されたのです。
これは本当に英断と呼ぶほかなく、界隈は驚愕と歓喜の渦に包まれました。
(※ このカードは、過去作主人公のエースモンスターと比べて扱いが悪く、デュエルにおける見せ場も印象的な入手エピソードも十分に用意されていませんでしたが、今思えば禁止化が検討されていたために微妙な扱いで濁されていたのかもしれません。)
この決定と対照的なのが《ハリファイバー》の処遇です。
これだけ「ソリティア死すべし」の方針が示されたのに、《ハリファイバー》だけはチューナーを身代わりにしてまで意志をもって生かされているのです。まるで、その存在がOCGの未来のためであるとでも言うように。
(※ 一応《ハリファイバー》本体も制限カードに指定されていますが、運用性に大きな変化はなく、どちらかといえば「ちゃんと見てますよ」というメッセージ性を帯びた裁定です。)
ここまでして《ハリファイバー》を守ったことは非常に大きなニュースでした。
確かに、ソリティア手段の多くを削られた《ハリファイバー》の出力はグッと下がり、この瞬間に限れば良カードの域にまで落ち着きます。
それこそ《ヴァレルソード》引換券としての運用が主になり、それも《バルブ》禁止により《ジェット・シンクロン》で代用しなくてはならず、きっちり手札コスト1枚分弱体化しています。
また、ひそかに獲得していた《シューティング・ライザー・ドラゴン》の存在もあり、シンクロサポートとして運用してもリンク展開の劣化扱いされなくなったのは非常に理想的な状況と言えました。
しかし、あくまでそれは「この瞬間に限った話」です。
《ハリファイバー》の高すぎる汎用性はカードプールに禍根を残し、いつ壊れカードに立ち戻ってもおかしくない状況でした。
このカードの存在下では、
自己再生やトークン生成効果を持ったチューナー
展開効果を持ったリンク3モンスター
などを安易にデザインすることができず、その禁を破れば元の木阿弥となります。
前者はともかく、リンクモンスターをプッシュしている期間に後者を守るのは並大抵の負担ではなく、少しでも気を抜けば問題を再燃させかねません。
(※ 後述しますが、実際1年足らずで《幻獣機アウローラドン》《神聖魔皇后セレーネ》がリリースされてしまうことになります。)
こういった開発上の制約、カードプール上の時限爆弾を抱えることを承知の上で、開発陣は《ハリファイバー》を生存させることを選んだわけです。
その応用性の高さがむしろ販促に適していると判断されたのか、向こうしばらくの商品スケジュールを《ハリファイバー》ありきで組み立てていたためか、今となってはその真意はわかりません。
(※ カジュアルレベルのカードですが、明らかに《ハリファイバー》前提の《TG トライデント・ランチャー》が直前にリリースされていたこともあり、後者の線が強いかもしれません。)
誰が言ったか、「遊戯王は《ハリファイバー》を生かす世界線に分岐した」という表現がストンと腹落ちしました。
これを機に「ハリファイバー禁止論」の勢いは急速に衰え、徐々に「ハリファイバーのある遊戯王」が許容されていくことになります。
……ちなみに、神改訂とされるこの采配にひとつケチをつけるとしたら、《トリックスター・キャンディナ》が謎の準制限指定を食らったことです。ある意味《ハリファイバー》生存以上に納得のいかない決定でしたが、余談はほどほどにしましょう。
5.2019年~2022年:《ハリファイバー》のある遊戯王へ
2019年初頭は、《ハリファイバー》にとって最も穏やかな時期でした。相変わらず《ヴァレルソード》とは蜜月の関係でしたが、前年までの使われ方を見れば嘘のように健全化したものです。
環境そのものも大きく落ち着きを取り戻し、【転生炎獣】【閃刀姫】【オルターガイスト】【サンダー・ドラゴン】【オルフェゴール】などがしのぎを削るミッドレンジ全盛の良環境となります。
(※ 【オルフェゴール】の初期形態はミッドレンジとは言い難いものでしたが、ここでは割愛します。)
完全に禁止論が立ち消えたわけではなく、
年度末の再録パック「20th ANNIVERSARY LEGEND COLLECTION」に収録されなかったこと。
年始に登場した《星杯の神子イヴ》と強烈なシナジーを形成していたこと。
などを根拠に「4月こそXデー」と唱える声もありましたが、結局そうなることはなく、ますますこのカードの特異性が浮き彫りになっていきました。
(※ 誤解されがちなので注釈すると、《星杯の神子イヴ》は《ハリファイバー》の効果で呼び出されていたわけではありません。本体は《ドラコネット》などから真っ当にシンクロ召喚されますが、その後《ハリファイバー》のリンク素材となると出力がバグるのが問題でした。)
驚くべきことに、ここから半年以上の間《ハリファイバー》は比較的健全なポジションを保ち続け、次に「やっぱダメじゃね?」と言われ始めるのはなんと11月末を待たねばなりません。
「LINK VRAINS PACK 3」の発売日です。
初代「LINK VRAINS PACK」に勝るとも劣らないパワーカードの宝庫で、後の禁止カード《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》《ユニオン・キャリアー》を輩出した名パックです。
そのラインナップの中には、《ハリファイバー》の命運を決めるカードが何枚か含まれていました。
その筆頭は《幻獣機アウローラドン》です。
いわゆる「ハリラドン」として年単位で暴れ続けることになるコンビの片割れで、この時点では【ロボットリンク】と呼ばれる専用アーキタイプを創出することになります。
《アウローラドン》の最大の問題は、せっかく前年の改訂で「《ハリファイバー》を通すだけではビッグアクションに繋がらなくした」のに、その問題を再発させたことです。この時点ではルールの影響もあって「通せば勝ち」というほど苛烈な盤面は作れませんでしたが、不穏分子であることは明らかで、《ハリファイバー》を生かす上での約束に抵触してしまったような印象を受けました。
《神聖魔皇后セレーネ》は《アウローラドン》と対照的に、フェアデッキにおける《ハリファイバー》を強化してしまったカードです。
《ハリファイバー》で魔法使い族チューナーを呼んでリンク召喚、それをこのカードで蘇生することで即座にリンク4に向かうことが可能で、その真価は2ヶ月後の《アクセスコード・トーカー》とセットで発揮されることになります。
いわゆる「ハリセレーネアクセス」は、従来の「ハリジェットヴァレソ」と比べ明確に優れたコンボでした。
《ジェット・シンクロン》のような専用枠を設ける必要がなく、《エフェクト・ヴェーラー》が採用されているだけでよい。
手札コストが必要ない。
《ハリファイバー》《セレーネ》の属性がバラけているため、最低でも2枚破壊が担保される。
身も蓋もない話、《ヴァレルソード》より《アクセスコード》の方が強い。
「公開領域に魔法3枚」という条件こそありましたが、正直あってないような縛りです。これ以降「ハリジェットヴァレソ」を見る機会はめっきり減ってしまい、「ハリセレーネアクセス」への世代交代が速やかに完了しました。直前まで型落ちの気配を見せていなかった《ヴァレルソード》の電撃引退に、界隈は騒然としたものです。
《アーティファクト-ダグザ》も、《アウローラドン》《セレーネ》に比べると一歩劣るものの十分に革命的なカードでした。
このカードの登場により、《ハリファイバー》1枚から《アーティファクト-デスサイズ》によるエクストラロックが行えるようになったのです。
《ハリファイバー》から《ジェット・シンクロン》をリクルート。
《ジェット・シンクロン》を《リンクリボー》に変換、自己再生して《ダグザ》をリンク召喚。そのままターンエンド。
相手メインフェイズに、《ハリファイバー》の変身効果を発動。それにチェーンして《ダグザ》で《デスサイズ》をセット。
《TG ワンダー・マジシャン》を特殊召喚し、《デスサイズ》を破壊。自身の効果で《デスサイズ》を特殊召喚し、エクストラロック成立。
《ワンマジ》で《デスサイズ》を割るという発想は当初からありましたが、素引き前提で安定しなかったところ、《ダグザ》の登場により確定ルートに組み入れられるようになりました。
場に残る《ワンマジ》《デスサイズ》を持て余していたのも、後年獲得する《フルール・ド・バロネス》により補えるようになった非常に美しいコンボです。
「ロック成立のタイミングが遅い」「チェーン切りを食らうだけで無妨害になる」など弱点も多く流行はしませんでしたが、省スロットで高いリターンを得られたことは間違いなく、オリジナルデッキのサブルートとして採用した人も多いのではないでしょうか。
これらの登場により「ハリファイバーやっぱダメじゃね論」がにわかに盛り上がる中、それを後押しするような重大発表がなされます。
待ちに待ったマスタールールの改訂です。
融合・シンクロ・エクシーズモンスターの扱いが旧来のルールと同様になり、遊戯王は長年の "リンクショック" からついに解き放たれることになりました。
この変更はもちろん歓迎されますが、一方で、「本当にそのまま戻して大丈夫?」「旧ルール前提で調整されていたカードが規制されるのでは?」という懸念の声も聞かれ始めます。そして、その筆頭こそが《ハリファイバー》だったわけです。
言うなれば《ハリファイバー》は、ルール変更が生み出した歪みそのものです。
そのルールが元に戻るのであれば、生かしておく道理もありません。
抽象的な事情を抜きにしても、《アウローラドン》のシンクロ展開にリンクマーカーが不要になることは具体的な強化であり、これが許容範囲を超えてしまったというのは妥当な見立てです。
ちょうど盛り上がっていた「やっぱダメじゃね論」はこの報せに補強されることになり、2020年4月がこのカードの最期になるのではと予想されたものです。
ところが、そんな巷間の噂など意にも介さず、《ハリファイバー》は「RARITY COLLECTION-PREMIUM GOLD EDITION-」に再録され、当然のごとく2020年4月のリミットレギュレーションでもスルーされることとなります。
そのリストが以下です。
またしても、なのです。
「旧ルール前提で調整されていたカードが規制されるのでは?」という懸念は的中しており、大量のカードが様子見的に検挙されています。なのに、その中に筆頭たる《ハリファイバー》の姿がありません。代わりに禁止されたのは、前年に不倫報道があった《星杯の神子イヴ》の方でした。
「ハリファイバー禁止論」が完全に終わりを迎えたのはこの時でした。
このカード、本当に何があっても死なず、どうしようもなくなった時は取り巻きが身代わりになってくれるのです。
もう環境がどうとかデザインがどうとかゴチャゴチャ考えるのをやめて、「ハリファイバーのある遊戯王」を受け入れるしかないと多くのプレイヤーが諦めたのはこの瞬間だったのではないでしょうか。
そんな調子でしたから、この時にわかに問題視されていた《リンクロス》との組み合わせも、「なんかあったら《リンクロス》の方が死ぬでしょ」という意見が大勢になりました。そしてその通り、登場から半年足らずで爆速禁止指定されることになり、いよいよ《ハリファイバー》の不死身神話が確かなものとなります。
余談ですが、サムネのクソデカ《リンクロス》で笑ってしまった人は私だけではないと思います。
その後の《ハリファイバー》も隆盛を極め、見ない日がないカードであり続けました。
【電脳堺】【相剣】のような《ハリファイバー》を使わない(使えない)シンクロテーマのデザインも試みられるようになり、少なくともシンクロモンスターとは不可分の存在ではなくなっていきますが、それだけで勢いが衰えるようなカードではなかったのです。
特に、ルール改訂当初問題視されていた「ハリラドン」はより洗練され、「通したら勝ち」レベルまで昇華することになります。「そういうことをしないのが約束だったのでは?」とは感じましたが、もうそこは「ハリファイバーだから」と割り切るしかない状況です。どうしようもなくなれば《アウローラドン》か《オライオン》が身代わりになるだろう、という確信がありました。
実際、2021年の夏には【勇者】《ルイ・キューピッド》の登場によりいよいよ「ハリラドン」が全盛期を迎えますが、このタイミングでも《ハリファイバー》の禁止を予想する声はごく少数にとどまりました。
事情を知らない新規プレイヤーが「《ハリファイバー》がいちばん悪いんじゃない?」と指摘し、それを古参プレイヤーが「そうなんだけど、ハリは死なないから」と諫める光景は各所で見られたそうです。
……ところで、ルール改訂から更に2年以上「不死身のハリファイバー」と付き合うことになって、このカードに奇妙な愛情を抱く人もいたのではないでしょうか。
もともと功罪両面あってファンの多いカードではありましたが、長年の付き合いになりすぎて感覚が麻痺し、もはや苦楽をともにした相棒のような気がしてきます。
「ハリラドン」による展開は(自分だけ)爽快で、「ハリセレーネアクセス」で相手の盤面を捲る快感は何にも代えがたく……。気づけば「ハリファイバーのない遊戯王は考えられない」状態になっていました。
開発陣にもその認識はあったのか、この間にも「明らかにハリファイバー前提のカード」はリリースされ続けます。
口ではなんだかんだ言いつつ、毎日会っている《ハリファイバー》のことが好きになっていた人は多いのではないでしょうか?
(※ これを単純接触効果と呼びます。)
《ハリファイバー》は紆余曲折を経て、もはや善悪を超越した遊戯王OCGの一部として定着を見せたわけです。
6.2022年7月:そして伝説へ…
2022年に入ってからも、《ハリファイバー》は元気に暴れていました。
「ハリラドン」流行の契機となった【勇者】は規制されやや勢いを落としていたものの、ギミックそのものには手が入らず、根本的には壊れたままです。
また、年度初めのぶっ壊れレギュラーパック「POWER OF THE ELEMENTS」により、いよいよ《ハリファイバー》にとって最後の力となる【スプライト】を手にします。
《ハリファイバー》でレベル2チューナーをリクルートして《ギガンティック》を作る贅沢な初動として扱ってもよかったですが、チューナーは素材に回さず、《鬼ガエル》で手札に返すことで疑似サーチすることができます。要は、レベル3以下のチューナーなら何でもサーチできるようになり、展開の過程で《灰流うらら》などを抱えることができるようになりました。
さらに、《エルフ》との組み合わせもかなりおかしく、《ハリファイバー》+レベル2チューナーで繰り出して即座にそのチューナーを蘇生することが可能です。
つまり、本来《ハリファイバー》の制約で発動できない「フィールドで発動するチューナーの効果」も使えるようになってしまったということで、具体的には《宣告者の神巫》を利用できるようになったことで危険性が1段階上がります。
もっとも、これは誰が見ても【スプライト】の方が狂っていて、《ハリファイバー》の方に問題があると考える人は少なかった印象です。
(※ そうじゃなくても擁護されるのが《ハリファイバー》ですが……)
筆者も「またハリが変なことやってるよw ったく…」と訳知り顔で腕組みし、自分でも《エルフ》《神巫》を試したくなったのでこのタイミングで【代行者】を組みました。今思えばバカです。
そして、2022年6月某日、何の前触れもなく終わりは訪れました。
言葉を失いました。
あるはずのない名前が、そこにありました。
《ハリファイバー》?
見間違い?
しばらく脳が理解を拒否した後、ようやく紡がれた言葉は「なんで今!?」でした。
この時の《ハリファイバー》と言えば、ちょっと「ハリラドン」で環境を壊したり、「ハリセレーネアクセス」で1ショットを定義したり、【スプライト】でおかしな動きをしたり、環境外の先行1キルに加担したりしてたくらいで、何もしていませんでしたが……。
……はい。
感覚が麻痺していただけで、思い当たる節が多すぎます。あまりに手広くやりすぎて、どの罪状で逮捕されたのか未だにわかりません。
(※ おそらく全部ダメで、複合的な理由で禁止指定が下されたものと思われます。【スプライト】が直接の原因と語られることがありますが、それしきのことで死ぬのならもっと前に死んでいます。)
それにしても、です。
「なんで今!?」 なんです。
《ハリファイバー》が壊れていることなんてずっと前からわかっていたはずです。それを工夫して生かし続け、これが不死身のカードなのだという共通認識を植え付けたのは開発陣だったはずです。
「ハリラドン」全盛期に死ぬのならまだ納得が行ったのですが、このタイミングで急にハシゴを外されたことに驚愕したプレイヤーは多かったのではないでしょうか。
筆者は、誇張ではなく、次の日の仕事が手につかないレベルでヘコみました。
やや不謹慎な表現かもしれませんが、ペットロスに近い喪失感がありました。それも老衰ではなく、何の前触れもない交通事故によるもので。
もはや《ハリファイバー》はOCGの一部であり、OCGが生活の一部である筆者にとっては、自分の一部を持っていかれるに等しい痛みを感じました。
これからこのゲームはどうなってしまうのか、不安で仕方なかった記憶があります。
(※ 実際の《ハリファイバー》禁止による影響はあまりに広範すぎて、影響を受けなかったデッキがないレベルなので語り尽くせませんが、ここまで紹介したあらゆるコンボが白紙に戻ったと考えていただければ、そのことの重大さが伝わるのではないでしょうか。)
こうして《ハリファイバー》はその激動の生涯を終え、遊戯王OCGは新たな時代へ歩を進めることになります。
最後に、このカードの禁止に際して湧き上がったあるユーザー心理については触れなければいけません。かつて同じく三悪人と呼ばれた《サモン・ソーサレス》《ファイアウォール・ドラゴン》の禁止時には決してかけられなかった言葉が、彼の名前のサジェストについて回ったのです。
「ハリファイバー ありがとう」と。
もちろん、単純接触効果で生まれた愛着といえばそれまでですが、この言葉は彼を労うのにピッタリと言えました。
愛憎渦巻く《ハリファイバー》への思いは、たった一言になって発露したのです。
暗黒期から遊戯王を救ってくれてありがとう。
シンクロデッキを救済してくれてありがとう。
リンク召喚を教えてくれてありがとう。
《ヴァレソ》や《アクセス》を使わせてくれてありがとう。
……省略されている言葉は、こんなところでしょうか。
実際、このカードがなければ遊戯王OCGは終わっていたかもしれないのです。その経緯も込みで、このカードの死に侮蔑の言葉をぶつけるユーザーはほとんどいなかった印象でした。
ここに、「ハリファイバー不死身神話」は終わりを迎え、彼は伝説的カードとして眠りにつくこととなったのです。
7.おわりに
いかがでしたでしょうか?
ふと思い立って筆を執ってみましたが、思いのほか長くなってしまい自分でも驚いています。
本当はお盆に間に合わせようと書き始めたのですが、気づいたら1か月近く下書きをこねくり回していました……。🍆
これで全てを語ることができたとは思っていませんが、少しでも皆さまが《ハリファイバー》のことを思い出せたのなら、彼を偲ぶことができたのなら幸いです。
どんなに知名度の高いカードでも、禁止から時間が経てば忘れ去られ、認知が歪んでいきます。
《ハリファイバー》も例外ではありません。
やがて当時を知るプレイヤーがいなくなれば、脈絡なく環境を荒らした戦犯であったかのように語られかねないのです。
どうか、この記事をお読みになった皆さまは、《ハリファイバー》がただの破壊者ではなく救世主でもあったこと、その身に与えられた使命を完全に果たした英雄であったこと、《ハリファイバー》なくして今日の遊戯王はあり得なかったことを忘れないでください。
最後に一言だけ。
《ハリファイバー》、ありがとう。
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