子供が育っていく歓び

・・・独身で、子供もいない僕が言うと

「子供もいないくせに知った風な口をきくな」

と言われることもあるのですが、まぁ聴いて下さいよ。

ちょっとね、ピアノを勉強するのが大変な生徒さんがいました。

ピアノは大好き。
好き勝手に知ってるメロディーを弾いている子です。
(もちろんリズムとか、指使いとかデタラメなんですけど、メロディーに使われている音を自分で探ってそれっぽくは弾いている感じです)

しかし、なかなか楽譜が読めるようにはならない。
曲を覚えることも難しい。
一曲仕上げるのにかかる時間も長めでした。
新しい曲をさらうのも(新しく覚えるのが面倒だから)嫌がります。
(でも弾けるようになると、止めても弾き続けようとするくらいになります)
更にレッスン中にふざけたりするので、僕に叱られることも度々。
おうちでの練習もあまり好きじゃない。

「こんな感じでやってて、この子のためになるんだろうか?僕のレッスンがこの子のストレスになってないだろうか?」
とず~~っと自問してきました。

それでも本人はレッスンに来るし、レッスンが終わればお店のピアノを弾き散らかして帰るんです。

去年(2017年)の秋にレッスンを始め、今年の6月に10月の発表会への出演をオファー。親御さんは「是非に」と快諾。
しかし本人は
「え~~発表会~?・・・ヤダ。」
困ったと思いつつも、とりあえず曲を与えて、練習を進めます。

ヤダヤダと言いつつ、練習は着実に進み、本番前にちゃんと1曲通して弾けるようになりました。
良くやった!
エライ!
本気で褒めました。実際、よく頑張ったと思います。

そして本番。

初めての舞台。
経験したことのない緊張が襲い、曲の最後で止まってしまったのです。
何度も同じところで躓いてしまう。
舞台そでから、助け船を出しに行こうか(「落ち着いて、もう一度最初から弾いてごらん」と言うつもりだった。短い曲だったし。)と思ったら、なんとか自分で終わりまで持ち込んで、ちゃんと礼をして戻ってきました。
存外スッキリした顔をして。

その舞台から1か月後くらいからその子は変わり始めました。

新曲に対して嫌と言わなくなりました。
楽譜を読みたがらなかったのが、読もうとはするようになりました。
練習の跡が見えるようになってきました。
演奏も目に見えて落ち着いてきました。

実を言うと、あの発表会の後、レッスンを止めるんじゃないかと心配しました。もうあんな思いをするのは嫌だと。

ところがそうではなかった。
あの経験がその子を強く、一段階成長させたようです。

来月(2019年1月)、お店の中で行われる小さな発表会には、自ら出演を決めました。

「あの発表会から何か変わったようです。負けず嫌いに少し火が付いたかなと思いますね。やる気が出てきました。」とは親御さんの弁。

何かね、おじさん嬉しいよ。
立派に一つ、育ってくれたね。
ありがとう。

子供がピアノを習うというのは、単に音楽の勉強をするだけではないと思うのです。未知の曲や、未知の経験にチャレンジしていく姿勢もまた、大切なことだと考えています。その一歩を踏み出してくれたことは、絶対にその子の財産になる。

こういう体験は、教える仕事の醍醐味の一つだと思います。
幸せです。

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齋藤マシオ
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