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「電気」ピアノと「電子」ピアノ

最近には珍しく3日連続の投稿です。

最近は生楽器のピアノよりも、電子ピアノ(デジタルピアノ)の方が出荷数が多いんだそうです。僕のレッスンを受けている生徒さんも大体6割くらいは電子ピアノで練習しているようです。

電子ピアノ、便利ですよね。
最近は音色もタッチもリアルになり、その上コンパクトで持ち運びにも(生ピアノ程は)苦労しない。音量の調節だって自由自在。更には多種多様な音色(ピアノ系に限らず、弦楽器なども)に加えてメトロノームや録音機能まで搭載しています。

生のピアノは、その美しい音色と幅広い音域、伴奏から独奏まで何でもこなせる器用さで大きな存在感を持っていましたが、大変なのはその大きさと重さ。更には調律すら簡単にはできない複雑さ・繊細さが大きなマイナスでした。大きさを解決しようと小型のグランドピアノやアップライトピアノも作られましたが、それでもまだまだ大きくて重い。これは家庭への導入でも大きな障害になっていました。

そこで、1960年代には電気ピアノが発売されました。詳しい歴史について興味がおありの方は是非Wikipedia先生をご覧ください。
「電子」ピアノではなくて「電気」ピアノという理由ですが、これらのピアノは音の作り方に於いてエレキギターやエレキベースなどに近く、物理的に鳴っている「振動」をピックアップで拾って電気的に増幅するからです。これらは「電気楽器」であり、電子回路を用いて音を発振・再生する「電子楽器」とは異なります。

代表的なものにはフェンダー・ローズ。音叉型の発音体をハンマーでたたき、その振動をピックアップで拾うことで音を出します。

ローズでも年代によって色々とモデルがあり、音色も様々ですが、代表的な一例として。

あとは、ウーリッツァー。金属片を叩くことによって振動させ、それをやはりピックアップで拾います。

ローズよりもアタックがよりはっきりした音が特徴ですね。

1970年代には日本のヤマハから、グランドピアノと同様、弦を叩く「エレクトリック・グランドピアノ」CPシリーズが出て、世界中で大ヒットしました。エレアコギターによく利用される圧電素子(ピエゾ)ピックアップによって、よりリアルなグランドピアノに近い音が出せます。実際に使うときにはふたで覆われています。

エレキギターが生まれて電気的に音を増幅した演奏が主流になってくると、生ピアノは音の出方が「点」でなくて「面」あることからマイクで拾いにくく、他の楽器の大きな音に干渉されやすいところもまた大きな問題でした。電気を使わなければ自然に音が拡がって行く長所が、逆に短所になってしまったのです。
上に挙げた電気ピアノは電気で音を増幅して使うため(生音を増幅するようにはできていないため、電気をつながない状態では使えないものがほとんどです)、他の電気楽器とも共存が容易であり、そのためポピュラー音楽にも多く用いられました。(ヤマハのCPは家庭の利用ではなく、最初からステージで用いられるために作られていました。)

今の基準で聴いてみるとどうでしょう、お世辞にもリアルなピアノ音色とは呼べないものばかりですよね。そのなかでもCPはかなり似てはいますが、やはり違います。(生ピアノでは中音域以上では一音につき弦3本のところ、CPは一音につき弦2本ですし、ハンマーは生ピアノではフェルト製のところ、CPでは耐久性を考えてゴム製となっており、独特のクセがあります)

90年代に入り、電子工学の発展と共にシンセサイザーがデジタル化して小型化・軽量化し、実物の音をリアルに再現できるPCM方式が主流になると、これらの電気ピアノは中々用いられなくなります。生グランドピアノより小型とは言え、まだまだ大きくて重く、複雑で繊細であったからです。

それと入れ替わるように販売数を伸ばしてきたのが電子ピアノです。70年代から既に電子発振式のピアノはありましたが、PCM化で一気にリアル感が増したことで、その存在感を大きくしました。中身は基本的にシンセサイザーと一緒であり、鍵盤を生ピアノに似せて重くし、ピアノ系の音色に特化したのが現在の電子ピアノです。実際の生ピアノの音を録音したものをベースにしているため、非常にリアルであり、技術の進歩に伴って表現力も増してきました。

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「音のアタックがハッキリしていて、長く伸びる減衰音である」ことくらいしか生ピアノとは共通点が無かった電気ピアノ。生ピアノの代用品として開発された出自とは裏腹に、その個性的で表現力豊かな音色は独特の「エレピ」というカテゴリーを作り、今でも世界中で愛され続けています。今売っているシンセサイザーのどれにもエレピの音は収録されており、使用頻度が非常に高い音色群です。

翻って、現在隆盛を誇る電子ピアノ

非常にリアルです。

しかし、特定のモデルが電気ピアノの様に愛されるか・・・というと残念ながらそうではない。

電子式でもRoland RD-1000の様に個性がハッキリしているものはその音色が愛されたりもしますが、殆どのものは、より新しいものの方がリアリティが高いため、どんどん更新されていきます。

そう、リアルな電子ピアノには「替えの効かない個性」がない。

あまりにも「代用品」として完成されて来てしまったのです。
しかしコピーは本物を超えることができない。
ホンモノを超える何かを獲得したら、それはもう別物
なんです。

だから、生ピアノが使える状況では生ピアノが用いられます。

そして電気を通してなる音と、空気の中でリアルに生まれる音の違いはいかんともしがたいものがあります。

リアルな音色ではなく、重たく手もかかるが末永く愛される楽器と、重宝はされるが、新モデルが出れば更新されてしまう楽器。

僕も電子ピアノを利用する一人です。その恩恵にはどっぷりと浴しています。だから、否定はしませんし、できません。その進歩には期待もしています。

しかし。

どちらが「楽器」として幸せなんでしょう。

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齋藤マシオ
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