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【詩】最期
日が暮れて部屋の灯りがつくと
彼らはマンションの六階にある
我が家の窓を目がけ飛んでくる。
そして網戸に必死にしがみつき
力いっぱい声を張り上げている。
どうやらわずかに残った人生を
ここで過そうという魂胆らしい。
だけど老いさき短いセミたちよ
ここには君たちの残りの人生を
世話してやる介護士様がいない。
看取ってやるお医者様がいない。
引導をわたす大僧正様がいない。
君たちを葬ってやる施設もない。
だから悪いことは言わないから
かつてきみたちが羽化したあの
懐かしい公園の樹木に戻るんだ。
そして初めてお天道様を拝んだ
優しい優しい土の上に還るんだ。