ブラジリアン・トップチームでのトレーニング 〜MMA編〜
ブラジリアン・トップチームでは、月曜日と水曜日、金曜日の朝11時過ぎからMMAのプロ選手たちによるトレーニングがあった。2002年に行った時も、2006年に行った時も変わりなく。
参加していたのはノゲイラ兄弟、ブス先生(ムリーロ・ブスタマンチ)、カーロス・バへット、ホアン・ジュカオン、ミルトン・ヴィエイラ、ファビオ・メロ、ルイス・ブスカペらPRIDEで活躍する選手を中心に、アレックス・パス、ファビアノ・カポアニ、トッキーニョ、マルガリーダ、ダニーロ・インディオ、マルセロ・フェレイラ、タルタルーガ・ニンジャらそれを目指すプロ選手たち。クラスをコーチングするのは、同じくPRIDEファイターのマリオ・スペーヒー。
マリオはみんなから「ゼ」と呼ばれていた。本名のジョゼから来ているのだが、「ゼ・マリオ」とか「禅マシーン」という愛称もあった。それが縮まって、ただ単に「ゼ」と一文字で呼ばれていた。
この合同練習で見かけない、BTTのトップ選手はアローナとパウロ・フィリョ。
アローナは、リオとグアナバラ湾を隔てた隣街、ニテロイに住んでいた。リオ市内と違って自然が残り、美しいビーチのある街なのだが、トップチームの道場に通うには少し離れて過ぎており、この朝のクラスで見かける事はなかった。主にニテロイにある自分の道場でトレーニングを行なっている様子。
パウロ・フィリョも主にコパカバーナにある自分のプライベート道場でトレーニングしており、この合同トレーニングに顔を出す事は少なかった。
ノゲイラ兄弟が道場に顔を出すのは、だいたいクラスが始まってから30分から1時間ほど経ってから。彼らもリオ市内から少し離れたバーハ地区に住んでおり、移動には渋滞も含めるとかなり時間のかかる場所であった。練習に来るのは遅いものの、その分はクラスの時間が終わってもトレーニングを続けて補っていた。
私は最初、このMMAのクラスには全く参加せず、脇から眺めているだけだった。何せ参加している選手たちのレベルが桁違い。みんな柔術世界選手権の王者であったりブラジル選手権の王者であったり、柔術黒帯は当たり前でそれを遥かに超越するレベル。
さらにフィジカルには大きな差があった。プロ選手たちは圧倒するような筋肉が発達していて、フィジカルでもとても太刀打ちできないように思われた。
MMAのクラスでも、やはり中心となるのは寝技の攻防。もともとは柔術のアカデミーと言うこともあり、選手たちは積極的にサブミッションレスリングのスパーリングをし、技の研鑽に励んでいた。
柔術黒帯の選手たちに、特に毎回ポジションが指導される事はなかったが、時折重要なポジションの確認はあった。例えば前回柔術編でも書いた、バーリトゥード用のオープンカードの使い方など。このオープンカードから三角絞めやオモプラッタ、キムラ、スイープ、バックテイクなど様々な形に変化する。
マリオの役目は時間を区切ったり、フィジカルトレーニングやスパーリングの指示をしたりということであった。もちろん自分自身のトレーニングも一緒に行いながら。
試合が近い選手は、オープンフィンガーグローブを着用の上、ボクシンググローブをつけた打撃中心の選手からテイクダウンを取る練習や、寝技で相手が上の状態でボクシンググローブでパウンドを打ち込み、その選手の攻撃を防御しながらサブミッションを取る練習を行っていた。
日本でプロ練習というと、午後から夕方のイメージがあるが、ここブラジルでは朝から。柔術の道場も多くが朝早くからクラスを行なっていた。朝一番、脳がリフレッシュな時間帯にその日に一番重要なトレーニングができることは、非常に効率が良い。その意味で、柔術の当時のトップ選手達も、コンペティションクラスのある朝にトレーニングを行なっていた。MMAのプロ選手達は、この合同練習以外にも、各々が必要なトレーニング(ボクシングやキックボクシング、柔術、フィジカルなど)を個人的に行なっていた。
2002年の時は4ヶ月ぐらい経過してから、そして2006年の時は1ヵ月ほど経過してから、このMMAのプロ練習に参加するチャンスが得られた。いつものように柔術の練習が終わった後、このプロ練習を見学していたところ、マリオかムリーロから「なんだ参加しないのか?」と言われたことがきっかけだったと思う。
プロ練習だったのでレベル的に遠慮していたのだけれども、やはりリオのトップチームまで来た目的は、世界最強のMMAを学ぶこと。「私は周りにいるプロファイターと同じ。何も臆することはない。」と自分自身のマインドを書き換えて、練習を目一杯楽しむことにした。
プロ練習に参加出来るようになった時期というのは、ブラジルの気候や食べ物にも慣れて、コンスタントに朝から夜まで6時間から8時間の練習が出来るようになった時期とも重なる。身体もプロ練習についていけることが、周りにも目に見えていたのだろう。
高いスキルやフィジカルの選手たちに囲まれて練習をすると、不思議なことにしばらくすると身体はその高いレベルに慣れてくる。永遠にこの時間が続けば、試合に出ることも可能だと思えるほどに。
ブラジルの滞在期限はビザを延長しても6ヶ月が限度だった。その期限が本当に恨めしかった。
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