風に吹かれて~道を極めし二人の背中に心震える
年末に大相撲の一年を振り返るドキュメント番組を見ていた。
その中で2020年初場所後に引退を発表した元大関 豪栄道の引退会見の映像と共に、不意に聞き慣れたイントロが流れてきた。
その瞬間、私はゾクゾクと鳥肌が立った。
曲はエレファントカシマシの「風に吹かれて」(※)だった。
(※)番組中で使用されていたのは新録されたこちらのVer.
輝く太陽はオレのもので きらめく月は そう おまえのナミダ
歌謡曲のような印象的な歌い出しで始まるこの曲は、
今でもライブやフェスで頻繁に演奏されるエレカシを象徴するメロディアスな一曲だ。
1997年、エレカシが世に広く知られることとなった代表曲「今宵の月のように」と同じ年に発表された。
手を振って旅立とうぜ いつもの風に吹かれて
大事な人との別れと旅立ちを歌っているような歌詞だが、
その当時のエレカシを取り巻く状況を踏まえると、聴こえ方が変わる。
才能を期待され10代でデビューを果たしたエレカシは、荒々しい剥き出しの音楽と内省的な歌詞世界で、一部からは熱狂的な人気を誇っていた。
反面世間に迎合できず、メンバーが30歳目前に大手レコード会社からの契約を突如打ち切られる。
フロントマンの宮本浩次は自分達がやってきた音楽が否定され苦悩する。
だが、バンド仲間とこれからも共に音楽で生きて行くために、無駄なこだわりとプライドとの決別を心に決める。
その後、起死回生の一曲「悲しみの果て」を生み出し、世間に徐々に受け入れられるようになっていく。
そんな最中で発表されたこの「風に吹かれて」は、
“退路を断って前に進むしかない”と覚悟を決めた自分を鼓舞するために歌った曲のように私には聴こえるのだ。
一方、豪栄道も早くから才能を期待され、大関の地位まで着実に昇進する。
しかし、大関時代は怪我などの影響で思うような相撲が取れず、
一度は全勝優勝を果たすものの綱取りは果たせなかった。
何度もカド番を迎え、大関の器ではないと世間の厳しい批判に晒された。
それでも辛さや苦しさは内に秘め、言い訳は一切しなかった。
引退会見の時に
「一度でも大関を陥落したら引退すると心に決めて土俵に上がっていた」
と、その覚悟が初めて明かされた。
大関在位歴代10位となる33場所もの間、
不退転の覚悟で相撲を取り続けた“やせ我慢の美学”に改めて心打たれた。
そんな二人の人生を賭けた本気の覚悟が、偶然にも曲を通して私には重なったのだ。
逆風でも歩を進め続けた二人の強さは、私を明日へと奮い立たせてくれる。
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