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♯20 頼りになる優秀な指導者は元派遣社員

どの職場でも“業務の指導者がいない問題”って、実は深刻ではないだろうか?
「仕事が出来る人≠教えるのが上手な人」なのは明白であり、悩ましい問題である。

新しい就業先に行くと、どの会社でも必ず始めに仕事の説明を社員からしてもらうのだが、職場によって指導格差が激しいのである。
失礼だが、本当に何を言っているのかわからないレベルの人、ただマニュアルを渡すだけの人(★#12参照)、逆に派遣が入れ替わり過ぎる職場では簡易的な説明に慣れ過ぎていたりもする。

SVと言われるスーパーバイザーさんが数人いる職場などは、質問はしやすくてありがたいのだが、教える人によって説明が違っていて、
後から違うSVさんに「違う」と、指摘されたりして、困惑することがよくあった。

一番困ったのは、講師経験などがあって、自分が教えることが得意だと思いこんでいる上司がいた職場だ。
自信満々で説明して下さるのだが、肝心な説明が抜けていたり、筋立ってなかったりして、何を言ってるのか全く伝わってこないのだ。
でも、自分は完璧に説明ができたと思っているので、後から不足箇所を指摘して、質問をすると
「えっ?」
と、不機嫌になられたりした。

結局、仕事をやりつつ、注意されながら、マニュアルとにらめっこして自分で理解を深めていくというやり方で覚えていくしかない。

そのため、就業して説明がわかりやすい指導者に出会えると本当に感激する。

今まで、一度だけとても頼りになる指導者に出会ったことがある。
とある企業の契約社員のタケクマさん(仮名)だ。
とにかく頭の回転が速くて、どんな時も答えが正確で的確なのである。
こちらの頓珍漢な質問に対しても、
どういう答えを求めているのか?というのを即座にくみとって、
なおかつ、その先の困ると思われることまで予見して教えてくれるのである。
その会社では、上司が全然あてにならない人だったので、タケクマさんのおかげで私はだいぶん助けられたのである。

タケクマさんは派遣社員としてその企業に数年間派遣されていて、その後企業から誘われて契約社員に昇格したという人だった。
「この会社の社員は派遣社員の受け入れに慣れていないから。特にあなたの部署は」
ということで、定期的に私のことも気にかけお昼に連れ出してくれ、仕事への不安や進捗などを聞いてくれたりもした。
誰よりも派遣社員の気持ちが理解できる、最強の助っ人だったのだ。

パソコンにも精通していて、仕事が出来て、何よりもユーモアもある素敵な人なのだ。
私だけでなく、どの社員からもとても頼りにされている存在だった。
特に上層部の人もパソコンの調子が悪い時、書類の書き方がわからない時などはタケクマさんを捕まえては毎日の様に助けてもらっていたのだ。

私にとってこの企業は派遣社員生活で唯一自分の希望の業界での仕事であった。
今までの職場では出会えなかった話の合う人達に囲まれた、貴重で居心地のよい職場だった。
今でも親交が続いているのはこの職場の人だけである。

「この会社はあなたに合っているし、派遣社員から契約社員になれることもあるから、声がかかるかもね」
と、常々言ってくれていたのだ。

だが残念ながら、その時変わったばかりの社長が
「派遣社員なんて経費の無駄遣いな存在は年度末で全員切ってしまえ。社員を増やせ」
という経営方針を打ち出し、あえなく契約終了となった。
長く派遣されていて契約社員にしたいと言われていた別の人も同時に契約を終了されるという、最悪のタイミングでもあった。
それを聞いた時も、タケクマさんは誰よりも残念がってくれた。

そんな誰からも評価されているタケクマさんだったが、
後に正社員への昇格試験に上司から推薦されて挑まれたのだが、誰もが合格を確信していたのにも関わらず、最終面接で落とされたと聞いた。
こんなに優秀で社員も頼りにしているのに!どうして??
最終面接まで残して、上層部が放った不採用の理由は会社への貢献度などではなく、「年齢や将来性の問題」だということだった。
普段、業務のサポートを精一杯受けているのにである。
それを聞いて、私は心底、この会社の上層部は社員一人一人のことに目を向けていないのだな…と絶望した。

以前にタケクマさんは、正社員時代に精神的に辛い目に合い、派遣社員にならざるを得なかったと話をしてくれた。
優秀だけれど、一社目の巡り合わせが悪く社員を続けられなかった…
こんな優秀な人が企業に便利使いされるのではなく、きちんと評価される社会であって欲しいと私は強く思う。

長く派遣社員を続けていると、契約社員にならないか…と声をかけて下さる企業もあった。
周りに聞いてみると、意外とこれは派遣あるあるなのだ。
企業側も新たな派遣社員を育てたり、合わない人がくると面倒(★#19参照)なので、スムーズに働いてくれるスタッフは囲いたいのが本音であろう。人の定着の悪い企業などは特にである。
そのせいか、私の場合は自分では居心地が悪くていつ辞めようか…と思っていた会社に誘われていた。

しかし、派遣社員よりも少し待遇は上がるかもしれないが、契約の度に「次は契約されるのか?」と切られる心配があるのは変わらない。
会社都合で切られる恐怖も同じである。
契約社員になった派遣社員の人から聞く話だと、社員との待遇の違いで続けるか悩んでいるケースが多い様に思う。
もしかすると派遣社員よりも辞めにくくなり、辛いのではないだろうか。

待遇面だけで派遣社員→契約社員への昇格というルートは一見すごく魅力的ではあるが、会社に守られる正社員には程遠い世界でもあるのかもしれない。

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