マイナポイントを申し込む高齢者
※7月30日分
最近、マイナポイントの第二弾が始まった。マイナンバーカードをぜひとも作ろうという国のキャンペーンである。
私は担当ではないのだが、職場で私のすぐ横にマイナポイントのコールセンターが設置されている。そのためマイナポイントに関するやり取りは日常的に聞いている。また、コールセンターの電話回線が埋まっている時は私が一旦電話を取って、コールセンターから折り返しをしてもらうという形をとっているため、少しはその実情がわかる。
事実を言えば、コールセンターに電話をしてくるのは9割以上が高齢者だ。マイナポイントの手続き自体は個人でできるため、デジタルがわかる人やデジタルに慣れ親しむ若い人はわざわざ電話をしてこない。そして、もちろん個人差はあれど、そもそもその高齢者の多くはマイナポイント取得に必要な用語が理解できていない。
マイナポイントは簡単には、一定の条件を満たすとキャッシュレス決済サービスのポイント(これがマイナポイント)がもらえる仕組みのことだ。対象となるキャッシュレス決済サービスはWAONや PayPayなど数多く存在する。デジタルに慣れた人にとってはこれらの用語やサービスは聞きなれた、使い慣れたものであるが、電話をかけてくる高齢者の人の多くはこれらを理解していない。
まず、「キャッシュレス決済サービス」という意味がわかっていない人が多い。高齢者の人は圧倒的に現金で支払いをする場合が多いようで、キャッシュレス決済自体に慣れていないようだ。毎日毎日、コールセンターの人は手始めにキャッシュレス決済を説明する。
「キャッシュレス決済」の難しいところは単語レベルでの日本語の上手い言い換え・置き換えができないことにもある。例えば、「スマートフォン」は「携帯電話」と言い換えられるし、「チャージ」は「入金」と言うこともできる。しかし、「キャッシュレス」は一言でうまく言い換えができないので、「現金を使わない支払い方法」などと説明が長ったらしくなりがちである。その用語自体を説明するには、国語辞典のようにその用語以上の説明でもって理解してもらわざるを得ない。
長い説明を終えてキャッシュレス決済を理解してもらえると、次は「キャッシュレス決済サービス」を理解・取得してもらわねばならない。これは例えば、先述のWAONやPayPayのことであるが、これらはその会社やサービスごとでの申し込みや作成になるため、コールセンターでは詳細な回答ができない。慣れない人にとってはこれもとても難しく感じるようで、マイナポイントをもらうための下準備の部分でつまづいてしまう人が大勢いるようだ。
また、マイナポイントはポイントではなく現金をもらえると考えている人も多くいるため、そういった人がキャッシュレス決済サービスの話を聞くと忌避感を示す場合も多い。
何だろう、私はこのようなやり取りを毎日聞いていて強く思うのだが、高齢者を始めとするデジタルが苦手な人が、そこまでしてマイナポイントを申し込む必要があるのだろうか。もちろん、マイナポイント制度自体や「申し込もう」という個人の態度を否定するものではない。また、もらえるポイントの価値を否定するものでもない。
だが、普段から使わないサービスを取得して、慣れないキャッシュレス決済をして、仕組みや方法がわからないからと長々とコールセンターに電話をする。そこまで無理をしてたった5千円から2万円分のポイントをもらう必要があるのだろうか。
それをコスパ(今風に言うとタイパ?)や労力の面で考えたい。わからないからとコールセンターや決済サービス会社に長々と電話をして、多くの時間を使うことに見合うだけの対価になりうるのかということである。確かに、申し込みができればポイントがもらえるかもしれない。ただ、それをするためには多くの時間を使ったり、事前にチャージをする必要があったりする。
そうするとトータルで見た時に時間を使い過ぎてしまったり、反って無駄なお金を使ってしまったりする可能性がある。それはわかりやすく言えば、1円でも安いスーパーや1円でも安いガソリンスタンドのために、わざわざ時間をかけて移動するようなものである。
コールセンターに電話をしてくる人にはそういったコスパ意識が欠けているように感じられる。現金主義なら別にそれでいいではないか。わかろうとする気持ちや挑戦する姿勢は大切だが、無理にキャッシュレス決済を使用する必要などまったく無いのだから。
私が一度とったお電話の中で次のように訊いてきた高齢者の男性がいた。「マイナポイントって申し込みをしなければ損ですか?」という内容だ。私は担当でも何でもないので、答えをはぐらかしたが、結局は多くの人が「申し込みをしなければ損をするんじゃないか」というある種の強迫観念に駆られているのだと思う。
「損をしたくない」という気持ちは誰しもが持ち合わせるが、カタカナ語やデジタルサービスに疎い高齢者にとってもそれは同じだ。なので、彼ら彼女らは用語を知らないというゼロからのスタートでも申し込みをしようとするのだろう。幸い高齢者の人は、仕事をリタイアしている場合が多く、時間的な余裕が多くある。コールセンターに長々と電話をかけてもあまり影響が無いのだろう。
マイナポイントでも他のサービスでも、必要だと思えば申し込みをすればいい。するもしないも個人の自由だからである。だが、「損をしたくない」「損するんじゃないか」という思い込みに駆られて、訳も分からず申し込みを試みるのはよろしくないだろう。本当に自分に必要か、身の丈に合ったものかどうかくらいは考える余裕を持ちたい。
逆に言えば、マイナポイントにすら飛びついてしまうほど、高齢者の生活は苦しい、いや年金制度は崩壊しているのかもしれない。マイナポイントは国民のリアルを映しているのだろうか。
マイナンバーカード普及のために
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