【第0回】クリミア・タタール語の文法を勉強しよう
せっかくnoteを始めたのでネタの一つとして新しいテュルク語を皆さんと一緒に勉強しようかと思い始めました。何語かというと、クリミア・タタール語です。新しい言語、テュルク語を学びたいなと思っている方、一緒に始めましょう。少しずつ文法事項に沿って記事を書いていく予定です。私自身もこれから学んでいきますので、至らない点もあるかと思いますが、ご容赦ください。質問などはコメントかツイッターでいただけると可能な限りお答えします。
でも数あるテュルク語の中でどうして今私がクリミア・タタール語を選んだかというと、それにはいくつかの明確な理由があります。
最も大きな理由としてはクリミア・タタール語がテュルク諸語の中でも北西語群(キプチャク語群)というグループに分類されている言語であるということです。私はこれまで語学として学んだテュルク語は、トルコ語、トルクメン語(しっかり)、ウズベク語(会話ができるくらい)、その他は文法をかじったり、部分的に論文を読んだことがあるくらいです。かねてからキプチャクをやらねばと思っていたところ、気になっていたクリミア・タタール語に目をつけました。カザフ語、キルギス語、(カザン・)タタール語でもいいんじゃないの?と思いましたが、日本語や英語の参考書など比較的簡単に参考にできるものがあるので、自分でやらなくてもいいかなと思ったのもあります。
クリミア・タタール語がオスマン語の影響が強いというところも私にとっては魅力的で、オスマン語の後継であるトルコ語を比較的詳しく知る私にとってはキプチャクの中のオグズ的要素がより分かりやすいのではないかと期待しています。
その他の理由としては、手元にロシア語だけでなくトルコ語やクリミア・タタール語で書かれた文法概説があることも理由に挙げられます。ロシア語を読むのは私にとって大変なので、テュルク語で書かれているものがあると気が楽になります。楽しくやりたいのであまり気張らず、手持ちの参考文献をいくつか参考にやっていこうと思います。
あとは、まぁ日本に研究している人がいなくて、まとまったときに書籍化できたらなぁとかいう下心もあったりなかったり。
ともあれ、早速クリミア・タタール語の周辺事情を見ていきましょう。
【概観】
クリミア・タタール語(Qırımtatar tili、 Qırımtatarca)は、クリミア・タタール人によって話される言語で、キプチャク語群に分類されるテュルク系言語の1つ。キプチャク語群の中でも特にカラチャイ・バルカル語やクムク語、ノガイ語に近いとされる。オスマン帝国との歴史的な関係から、オスマン語からの影響が見られる。そのため、オスマン語の後継であるトルコ語が分類されているオグズ語群とキプチャク語群の中間として分類する場合もある。
クリミア・タタール人はクリミア半島、ウズベキスタン等の中央アジア諸国、トルコ、ルーマニア、ブルガリアにも話者が存在する。
【方言】
社会・政治的理由からか、地理的に北方のノガイ方言(noğay)、南方沿岸のヤルボイル方言(yalıboylu)、両者の特徴を併せ持ち、現在の書き言葉として用いられているタト方言(tat)の3方言に分けられることが多いが、言語学大辞典のクリム・タタール語の章、林(1988: 1523)によると、
クリミア半島には10世紀にキプチャク系のチュルク民族が住んでいた。その後、15世紀から16世紀にかけて、南からアナトリアのトルコ人による、主に、南部の黒海沿岸地域への移住がみられ、さらにその後、北部の草原地帯に遊牧民のノガイが侵入した。
とあり、歴史的に見てもノガイ方言はノガイ語、ヤルボイル方言はトルコ語の方言と考えた方がよさそうである。
また、クリミアのユダヤ教徒の間で話されるクリムチャク語、キリスト教徒の間で話されるウルム語は、クリミア・タタール語に近いと言われている。
【今後の参考文献】
なお、文法は以下の手持ちの資料を参照する予定。
Abibulla Seit-Celil (2020) Qırımtatar tili Ögretici kitap. Halkiv: Folio(ウクライナで出版された新しい学習書。さすが、表現や例の多さは現地の出版といったところ。自学向きでないことがネック。でも、見てて楽しい本。今回のメインの参考書。)
Акъмоллаев, Э. (1989) Кърымтатар тилининъ амелияты. Ташкент: Ўқитувчи(タシケントで書かれた「クリミア・タタール語演習」。クリミア・タタール語で書かれているが、クリミア半島のものと異なるかもしれず、使いにくいかもしれない。)
Усейнов, С., Миреев, В., Сахаджиев, В. (2005) Изучайте крымскотатарскиы язык. Симферополь: Оджакъ(クリミア半島で出版された「クリミア・タタール語を勉強しましょう」という学習書。文法ごとに並んでいないことと、ロシア語で書かれていることが私にとってはネック。)
Yüksel, Zühal (2007) Kırım- Tatar Türkçesi. In: Erçilasun, Ahmet (eds.) Türk Lehçeleri Grameri, 811-882. Ankara: Akçağ(トルコで出版された「テュルク諸語文法」所収のクリミア・タタール語文法の概説1340ページもあって重い。違う意味で使いにくいが、文法ごとにまとまっているので使いやすい。)
楽しく学習していきましょう!
【追記】
なんと、この記事を準備している間に、親しくしていただいているうぎゃーさんが以下の記事を出されました。一緒にキプチャクを始めようとか打合せをしたわけでは全くありませんが、なんと新しく始めようと思った理由も一緒ということで運命を感じました。言語的にもクリミア・タタール語とノガイ語は近いので、勉強になると期待しています。