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かわらないことへの執着

臨床家なら誰しも、自身の臨床観や独自のスタイルを意識的か無意識的か抱いているだろう。先達の知識からも刺激を受けるが、その数多くの理論のなかでどのオリエンテーションを選ぶかについても、実際のところは臨床家自身の体験が選ばせているのではないだろうか。
臨床場面の着目点は、おそらく理論やルール以前に自身のこれまでの人生経験が影響しているように考える。

僕は面接に入る前に、まず面接室で「いつもとかわらない」ことを確認する。
机や椅子の場所、ティッシュやカレンダーの位置がかわっていないか。
それを確認し終えると、クライエントを部屋に呼び入れ、お互いに定位置に座る。この一連の間も「かわらない」を徹底しようとする。終わりも同じ。

面接ではいろんな作法があるが、僕は自分の所作に「かわらない」を多く盛り込もうと努める。
言い方を変えると「恒常性」へのこだわりが強いのだと思う。
クライエントにとって、いつ来てもかわらないのがカウンセリングの場であると保障したい思いがある。
心に触れる対話を重ね、周囲も自分も移り変わってしまう中で、かわらないという現象は、人を安心させる要素があるように思う。
それは物理的な環境だけではなく、対人についてもそうだと思う。

日々刻々とかわっていく世の中で、どれだけ自分はかわらずに相手の前にいられるだろうか。

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