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ビジネス領域のメタバース開発、なぜドット絵?世界観を重視する「MetaLife」のプロダクト作り。CTO矢野氏インタビュー
「メタバース」
バズワードとして各所で取り上げられ、最近ではニュースで見かけない日がないほどです。
メタバースとは、アバターを利用して社会生活を送れる、インターネット上の仮想世界を指します。
この2年半ほどで、新型コロナによって世界は大きく変わり、あらゆるコミュニケーションの場がオンライン化していきました。
面と向かって会うよりも、SNSのアイコンやゲームのキャラクターを顔代わりにして人と接する現代の人々は、社会生活の拠点を徐々にメタバースへと移しつつあります。
その流れは当たり前にビジネスの場でも進み、バーチャルオフィスと呼ばれるサービスが複数、登場しています。例えば、国内でシェアの大きいoVice(オヴィス)や、海外製サービスであるGather(ギャザー)などです。
そんななか、今年8月に学研グループ傘下の株式会社ベンドから、新しく「MetaLife」(メタライフ)がリリースされました。
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同社は2019年3月、当時まだ学生だった創業者2名によって立ち上げられ、教育やキャリアに関連するWebメディア2つを運営。
創業からわずか2年半ほどで学研グループにM&Aされた、新進気鋭の企業です。
また、役員を除いて正社員はおらず、約30人の学生インターンによって成り立っているという組織体制も特徴的です。
そんな会社が、老舗企業である学研グループ傘下で、なぜ、どのように、バーチャルオフィスのサービスを作ったのか?
デザインカンパニーであるMaslowは、同サービスのLP作成をお手伝いしたご縁で、今とても気になる企業であるベンド社CTOの矢野雄己氏にインタビューを実施しました。
主にベンチャー企業の経営者やプロダクト開発に関わる人たちにとって参考になる一事例として、話をお聞きしました。
他社サービスを利用し、ニーズを確信
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ーー今日はよろしくお願いします。まず、なぜ今、バーチャルオフィスのサービスを作っているのでしょうか?
矢野:ビジネス領域だと、「メタバース」はバズワードになっていますよね。
数年前は、ただ言葉だけが盛り上がっている印象でしたが、自分たちが他社のバーチャルオフィスのサービスを利用してみて、組織に浸透していく感覚が得られたとき、これから本当にその流れが来ると確信しました。
流れを振り返ると、今年1月から、自社の組織体制をよりリモートワークに適したものに変化させていくなかで、特に大きな不満はない一方、少しコミュニケーションが物足りない感覚がありました。
もともとオフィスで働くメンバーもリモートで働くメンバーもいたんですが、バーチャルオフィスを使ってみようという話になり、いくつかのサービスを並行して利用しながら、1ヶ月ほどオフィスへの出社を全社で取り止めにしてみたんです。
その間どうだったかというと、生産性が落ちることはまったくなく、むしろ良いことばかりで、今後リモートワークがより広がっていくなかで、バーチャルオフィスは必要なものだと感じました。
それまで社内でコミュニケーションを取れていなかったメンバーとの距離も近くなり、これは革新的なサービスだなと。
一方で、それらのサービスを使っていくなかで、「もっとこうなったらいいのに」と思うポイントも増えていきました。
いずれも素晴らしいサービスだと思いますが、日本の働き方を根底から変えられるほどには見えないし、自分たちならもっと良いサービスが作れるのではないかと考えるようになったんです。
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ーーリモートワークを実現するのに、SlackやZoomといった既存のツールでは足りないと考えていらっしゃるのでしょうか?
矢野:そう認識しています。私たちの場合は、バーチャルオフィスの存在によって、メンバー同士のコミュニケーションの質が明確に変わりました。
やっぱり音や映像込みだと、伝わる情報量が全然違うなと思います。
Slackでのチャットだけだと、どうしても相手から冷たい印象を受けてしまったり、寂しさを感じてしまったりしますよね。
そういった面でリモートワークが最適化されているかと言えば、まだまだだと考えています。
よく言われていることだと思うんですけど、オフィスだと気軽にできた上司への相談などが、やりにくくなっている面はあるじゃないですか。
そういった形で、ツールの進化が追いついていないことが要因で、コミュニケーションの断絶が起こり、メンバーの作業効率が落ちているのは課題だと捉えています。
ーー働くメンバーがどれだけリモートワークに慣れているかにもよると思いますが、特に組織に入りたてのメンバーなどは、そういった事態に陥りやすそうだなと思います。
矢野:そういった課題を抱えた企業が、オフィスへの出社を再開する流れもあります。
せっかく、より少ない労力で、どこでも誰とでも働けるという合理的な方向に社会が進んだのに、リモートワークを最適な形で実現できないことで、社会が元の形に戻っていくのは嫌だし、悔しいんです。
だから、それを支えるツールが必要だと考えているし、まだそれを達成できているサービスがないから、自分たちで作りたいんです。
教育系Webメディアを運営、創業から約2年でM&A
ーーMetaLifeの開発以前に、ベンド社は学研グループ入りしていますが、そもそもどういった事業を、どのような体制で運営してきたのでしょうか?
矢野:ベンドは、私と代表の近藤(潔)が大学2年生だった2019年3月に共同創業した会社です。
それ以来、正社員は一人もおらず、現在は役員2名と約30人の学生インターンで成り立っています。
事業としては、「資格Times」と「学びTimes」という2つのWebメディアを運営し、約2年間駆け抜け、去年の夏に学研グループにM&Aされました。
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ーー学生時代の起業からM&Aされるまでのスピードにも目を見張るものがありますし、ほとんどのメンバーが学生インターンという組織体制も珍しいですね。
矢野:教育系メディアという自社事業の性質上、やはり大事なのはコンテンツです。
その点、学びTimesでは、主に東大や早慶に通う、勉強を得意とするインターン生たちに記事を作成してもらうことで、サービスを成長させてきました。
みんな、数学や物理について解説する記事を、まるで自己表現のように書けるんです。
また、資格Timesにおいても、制度についてしっかり取材した上で、弁護士や社労士といった専門家に監修してもらいつつ、質の高い記事を発信してきました。
ベンド社が急成長できたのは、創業者である私と近藤を含めて、「勉強が得意なメンバーが集まっている」という組織の強みをしっかり活かしてきたからだと捉えています。
ーー学生が多い組織なのは、事業の性質によるものでもあるんですね。しかし、そこからメタバースのサービスを作るとなると、社内はもちろん、親会社である学研グループの人たちからも、驚かれたのではないでしょうか。
矢野:そうですね、とても驚かれました。
学研くらいの老舗企業だと、会社としてのアイデンティティが確立しているため、その事業で利益が出る見込みがあることはもちろん、「なぜ学研がやるのか?」という整合性が求められます。
その点、バーチャル空間でのコミュニケーションツールは、学研グループが取り組んでいる教育分野での活用や、グループ全体で推進しようとしているリモートワークでの活用が期待されているサービスです。
また学研グループの理念でも触れられている「すべての人が心豊かに生きる」という文脈でも、MetaLifeの提供価値は相応しいものです。
グループのトップにそういった意見を伝え、議論を行っていくなかで、グループとして事業理解が進み、開発を進めることになりました。
ーー実際にサービスを開発するまで、どのような流れだったのでしょうか?
矢野:ここは、すごいスピード感で進みましたね。
先ほどお話ししたように、今年の初めにベンド社でいくつかのバーチャルオフィスを導入しました。
バーチャルオフィスの導入を1ヶ月ほど体験した後、ベンド社の中で検討・整理をし、学研グループに話を持ち込みました。
それからわずか数ヶ月でプロトタイプを開発、改善を繰り返し、今年8月にはサービスをリリースしたという流れです。
ーー確かに、かなりのスピード感ですね。
矢野:自分たちのスタンスとして、プロダクトがない状態でうまくいくかどうかを議論しても仕方ないと考えていて。
もちろん、市場規模や競合企業についての基本的なリサーチは行いますが、それだけをやっていても事業は前に進みません。
とりあえずプロダクトを作ってみた後に、技術的なハードルがあると分かって頓挫としたとしても、それはプロダクトを作らないと分からなかった新情報ですよね。
とにかくプロダクトを作りながら、情報を集めていって、アウトプットを元に判断するのが大事だと考えています。
ーースタートアップやベンチャー企業だと、そういった理屈が通りやすいのも分かりますが、学研という老舗企業のグループ内で、そのスピード感を実現できた理由が気になります。
矢野:もちろん、組織の規模も大きいので、何もかもがこんなスピードで進むわけではありません。
今回に関しては、「プロダクトを作る上で事業計画に支障が出るほどのコストはかからないし、とにかくプロトタイプを作ってみるから、それを見て判断して欲しい」と伝え、プロジェクトを前に進めました。
もちろん、既存事業を計画通り成長させていくことが前提なわけですが、資格Timesと学びTimesはほとんど僕たち創業者の手を離れていて、インターン生だけで回せている状態なんです。
正しく権限移譲ができており、むしろ僕たち創業者が手を動かすよりも高いレベルで仕事を進められるメンバーがいるし、インターン生がインターン生をマネジメントするという形で組織も運営できています。
とはいえ、やはりそういった話を前向きに捉えてくれるのは、親会社と良好な関係を築けているからこそかもしれません。
老舗企業であり、経営層の年齢も上がっていく傾向にあるなかで、新しい風を入れたいという考えを大切にしてくれているのかなと。
自分たちは、グループの中でそういったポジションだと認識しています。
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このnoteを運営するMaslowは、企業の潜在価値を引き出すコーチングデザインカンパニーです。
その一環として、デザインに関わる人たちの参考になるような記事を発信しています。
企業向けには、デザインとコーチングで、企業が本来持っている価値や魅力を最大化させ、中長期的なブランディングを作っていくための支援を、ベンチャーから上場企業まで幅広いお客様に提供しております。
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それでは引き続き、記事をお楽しみください!
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後発で勝つために必要な「デザイン」
ーーサービスを公開してみての手応えはいかがですか?
矢野:リリース直後の反応としては、とても良いなと感じています。
複数のメディアから取材をご依頼いただき、注目していただけているみたいです。
ユーザーの方々にも、25名までは完全無料でご利用いただけることもあり、気軽に導入いただけているように思います。
自分たちが特に手応えを感じているポイントとしては、サービスの使い方についてのお問い合わせが少ないことです。
使いにくいポイントがあれば、もっとたくさんのお問い合わせが集まるものなのですが、担当者が必要なほどの数は来ていません。
そこは、プロダクトにおいて、多くの人が自然な流れで利用できるユーザー体験を実現できたのだろうなと考えています。
ーーそれを実現できた要因は、何だと思いますか?
矢野:バーチャルオフィスを体験したことがない人でも迷いなくMetaLifeを使い始められるデザインを重視し、力を入れたからだと思います。
バーチャルオフィスを後発で開発している私たちが、このサービスを成功させるために最も大切なのはデザインだと捉えています。
バーチャルオフィスは、そこに人が集まって、留まり続けてもらう必要があるサービスです。
誰か一人がその空間にいるだけでは意味がなく、そこで活動したいという人が自然に集まっていき、サービスが組織に定着することで初めて価値が生まれます。
そのためには、ずっとこのサービスを開いていたいと思わせるような何かが必要です。
そういった意図から、MetaLifeは「とにかく一度触ってみよう」と思えるように、ドット絵のキャラクターになって十字キーで動くというレトロゲームのようなUIにしました。
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矢野:デザインが大事だというのは、他社のサービスをいくつか触ってみるなかで生まれた気づきでもあります。
バーチャルオフィスでの社員同士のコミュニケーションを見ていると、UIに面白みがあるサービスの方が、会話が活発だったんです。
ここは、他社のサービスを参考にしつつ、自分たちならより面白いものを作れると感じたポイントでもあります。
同じ機能は作れても、世界観は真似できない
ーーデザインに重きを置いたということですが、開発チームはどのような体制なのでしょう?
矢野:私を中心に、あとはインターンと、業務委託で手伝ってくれている知人を含めた、10人未満のチームです。
実は専門のデザイナーはおらず、サービス画面のデザインなどは私が見ています。
ーー事業を成功させるために大事なのはデザインだと判断した上で、専門のデザイナーがいないまま、優れたユーザー体験を実現できたというのは面白い話ですね。
矢野:LPもドット絵も、プロに外注することでスピード感を維持しつつ、プロダクトをリリースできました。
デザインを大事にしたい一方で、それらを自社の力だけでゼロから作っていてはリリースまでのスピード感が損なわれてしまいます。
LPはサービスの開発が決まった初期の段階からMaslowさんにお願いし、方向性について議論しながら進め、ドット絵は複数の業者に作成してもらったアウトプットを見比べた上で、どこにお願いするかを決めました。
サービスの世界観については、チーム内で十分な時間をかけて議論しました。
とはいえデザインの専門家はいないので、適宜プロの力を借りながら、自分たちはシステム開発の方にリソースを充てることで、納得のいくデザインとスピード感を両立できたわけです。
結果として、LP・サービスともに期待通りの仕上がりで、社内の士気も上がったので、これはプロダクトを作る工程のなかで成功したポイントだったなと思います。
ーーMetaLifeで大切にされている世界観というのは、実際にサービス内のどういったところに現れているのでしょう?
矢野:僕たちが重視しているのは、とにかくワクワクするような楽しい場所であること。
それも、世界で戦えるようなコンテンツの数々が生まれている国である、日本発のサービスならではの面白さを実現することを目指しました。
例えば、MetaLifeはオフィス内の目的の場所へ瞬間移動できるのですが、ただアイコンが消えて別の場所へ現れるだけではなく、まるでゲーム内の忍者のようにドロンと煙のエフェクトが出ます。
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矢野:些細なことだと思われるかもしれませんが、こういった小さな楽しさこそが、サービスの明暗を分けると考えています。
それに、瞬間移動するという便利な機能だけなら、他社でも作れるかもしれませんが、こういったゲームライクなエフェクトによって成り立つ世界観まで真似することは難しいだろうなと。
サービスの初期から世界観を大切にし、しっかりと作り込んでいることが、この先の競合優位性につながっていくはずだと考えています。
ーーそういった世界観は、チーム内でどのように作られていったのでしょうか。
矢野:例えばドット絵に関しては、Google検索して世界中のドット絵を200個くらい並べて、良いと思うもの、思わないものに振り分けていくというドット絵合宿を実施しました。
一口にドット絵と言っても、ドットの粒度や色合い、3頭身なのか2頭身なのかなど、細かい要素によって見え方が大きく変わります。
そういった点を議論していくなかで、MetaLifeの世界観についての共通認識が生まれていきました。
同世代のメンバーが集まっているチームのため、それぞれが幼い頃から触れてきたコンテンツが共通しており、クリエイティビティに対する価値観が近く、議論はスムーズに進んだと記憶しています。
そういった流れで、若いメンバーの手で作り込んでいったからこそ、プロトタイプの段階で、周りの同世代の友だちには良い反応をもらえる反面、より上の世代の大人の方たちに使ってもらえるかが不安ではありました。
しかしサービスをリリースしてみると、40〜50代くらいのドラクエ世代の社会人にもMetaLifeの世界観は刺さったようで、これは嬉しい誤算でした。
メタバースの進化とともに変化していく
ーーサービスとしての滑り出しは好調ということですが、人々の働き方を大きく変えるようなサービスに成長できるかは、今後の取り組み次第かと思います。この先のMetaLifeの展開についてはどのようにお考えでしょうか。
矢野:まず、これからメタバースの市場はまだまだ伸びていくはずです。
メタバースという概念は、奥行きのある3D空間としての形、あるいはそこにNFTやDAOといったWeb3の文脈が加わる形で進化していくと私は予測しています。
一方で、VRゴーグルを通じることで体験できるメタバースの世界においては、多くの人がそこに長く留まりたいと思えるものとして成立しているかと言えば、まだそうとは言えないでしょう。
VRゴーグルはそれ自体が重いので、付けているだけで首が疲れますし、表示される映像を見る目も、それを処理する脳も疲れるので、私の場合、装着し続けるのは2時間が限界です。
その点、今求められているのは、多くの人がすでに日常的に触れているハードウェアで無理なく使用でき、ゆるく長く人とつながっていられるサービスのはずです。
だからMetaLifeは、今のような形で実装したわけですが、今後人びとがメタバースをどう捉えるか、そしてそれを実現するためのハードウェアがどう変わっていくかという時代背景に呼応する形で、MetaLifeというソフトウェアも進化させていきたいと考えています。
ーーレトロゲームのようなUIも、あくまで今実現できるメタバースの形を模索した結果のものであり、技術の進歩に合わせて変化させていくつもりだということですね。
矢野:その通りです。とは言いつつ、直近で気になるのは日々の数字です。
まだサービスをリリースしたばかりなので、今は、ユーザーの方々にどういった使われ方をしているのか調査し、理解を深めながら、顧客満足度を高めるための施策に取り組んでいます。
サービスを拡大していく上で理想なのは、ユーザーの方々の口コミで自然に広がっていくような形です。
Twitterを見ていると「こういうふうに使っています」という投稿が少しずつ増えてきているので、そういった声を大切にしていきたいなと考えています。
今後もユーザーの方々により楽しんで使っていただけるようなサービスを目指し、開発を進めていきます。
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さいごに
このnoteを運営するMaslowは企業の潜在価値を引き出すコーチングデザインカンパニーです。
デザインとコーチングで、企業が本来持っている価値や魅力を最大化させ、中長期的なブランディングを作っていくための支援を、ベンチャーから上場企業まで幅広いお客様に提供しております。
▼お問い合わせはこちらまでどうぞ!
▼制作実績
合同会社DMM.com、参議院議員・赤松健さま、参議院議員・山田太郎さま、株式会社WonderSpace、株式会社SAITEKI、その他多数の制作実績あり。
▼会社資料
Maslowがお客さまとプロジェクトを進行する際のプロセスや、所属するメンバー等について記載しております。
話を聞いた人
矢野 雄己(やの ゆうき)
株式会社ベンド取締役CTO。大学2年生時にベンチャー企業でインターンを経験し、若くして活躍する同世代の起業家に影響を受け、ベンドを創業。同社で資格情報メディア「資格Times」と教育情報メディア「学びTimes」を運営し、主にシステム開発を手がける。2021年8月、同社を学研ホールディングスにM&Aし、グループイン。現在はエンジニアとしてバーチャルコミュニケーションツール「MetaLife」の開発を牽引する。
Twitterアカウント:https://twitter.com/yanolii