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「幽囚の心得」番外編                                矯正指導日・2019年8月(課題作文)                                     「私のターニングポイント(1)」

[施設内で作成した作文]
 私は、2005年9月、自らの経営する事務所を法人化し、弁護士法人法律事務所Active  Innovation(アクティブイノベーション)を設立すると共に、税理士法人、社会保険労務士法人、行政書士法人を合した綜合リーガルサービス・アクティブイノべショーングループを創設しました。翌年には、司法書士法人が参画、その後、併設している土地家屋調査士事務所の法人化により、同一の商号を掲げた6法人によるアクティブイノベーション・グループのかたちを完成したのでした。そして、2008年から2009年のほぼ1年余で、アクティブイノベーション・グループは東京・大阪・名古屋・札幌・仙台・福岡・広島・横浜等に事務所を設置し全国展開を実現していきました。

 司法界、弁護士業界の改革の実現には果断なる展開を要すると考えたことからですが(初めての試みに理不尽な横槍が入ることが十分予想されたのです)、急速な事業展開は組織構造上の軋みを露呈しました。弁護士業界をはじめ司法界は今もそうですが、極めて保守的で、頑迷固陋、因循姑息な体質があり、私たちの組織の全国展開は全国の各地方単位会との間で誤解を偏見に基づく様々な軋轢を生みました。その中には、全く理由に乏しい理不尽な我々の活動に対する妨害とも言うべき所為も存したのです。

 私たちはひとり私たちの事務所のみの成功を目指していたわけではありません。私たちは司法制度改革の趣旨を具現化する実践者となることを企図して、このAI(アクティブイノベーション)事業を推進してきたものであり、業界全体の変革を目指していたのです。私たちの事務所だけが成功しても、世の中全体が変わらねば意味は薄いのだという思いで、業界全体の意識の覚醒を至純に求めていたのです。

 当時、弁護士と司法書士の協働による債務整理事案で両法人合わせ数十億円の年間売上を上げていましたが、この協働の形態が弁護士法に反しないかというあらぬ疑いが弁護士会、司法書士会において策謀される中、私は全国をテレビ会議システムで結んだ所内の弁護士及び司法書士全体会議において、所員の皆に呼びかけました。
「債務整理事案は主に全国展開実現の原資をつくるべく行ってきたものだが、既に我々グループの事務所は全国に設置された。今、債務整理事案の弁護士と司法書士の協働が疑義ありとされているが(本来は、司法書士単独の事務所より余程、法律上の職域を守っていける体制のはずなのですが)、このようなことで、私たちの志向するワンストップ・リーガルサービスの完成への道を頓挫させるわけにはいかない。むしろ、この機に債務整理事案の一切の広報を止めよう。私たちは、債務整理を請け負うためにこの事務所を創ったのではない。本来的業務をする為に、そして、究極のワンストップ・リーガルサービスという最高の価値を完成させるためにこの組織を創ったはずだ。」

 アディーレ法律事務所代表の石丸幸人弁護士からかつて言われたことがあります。
「菅谷先生は理念の人ですね。」
 確かに、私のアクティブイノベーションの理念実現に向けての情熱は至純なものでしたが、経営者としての狡猾さには如何にも足らぬ自分でありました。石丸さんも少し揶揄い気味にその趣旨も含み言ったのでしょう。
 若い弁護士による若い組織は当然と言えばそうなのですが、その時点では私の望む実力には達しておらず、債務整理事案の減少は直に法人売上げの半減という事態を招来しました。若い弁護士は私の計算するとおりには他の一般民事事案をこなし、顧客を獲得する実力までには至っていませんでした。「これくらいはできるだろう。」私は軽信していました。そして、理念実現に向けた熱情も彼らと私の間では大きな差があることに気づかされることになったのです。

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