
小説「獄中の元弁護士」(21) 強盗殺人罪の共同正犯
「実は先輩の北山さんに同じように頼まれたことがもう1件あったんです。」
新庄は申し訳なさそうに話し出した。
「同じように車を出したんですか?」
「はい。でもその時に運んだのはそんなに大荷物ではなかったし、捕まった事件とは全く違うと思っていたので言わなかったんですが…。」
「今、また調べられると聞いて、その件かなと思うわけですか?」
「そうですね。それくらいしか、思い浮かばないし…。」
「整理しましょう。それは、今、刑に服している件の前ですか?それとも後にあったことですか?」
「後ですね。」
「また、その時も北山さんという先輩に車を出してくれと要請された。」
「はい。そうです。」
「今回も新庄さんが自分で運転されたのですか?」
「そうですね。」
「同じ2トントラックですか?」
「そうです。この時は特に指定はなかったのですが、普段使いの軽自動車が修理中だったものですから、同じトラックの方でもいいかと聞いたら、構わないという話でしたから。」
「運転して着いた場所で、同じように待機しているように北山さんに指示された。」
「はい。」
「北山さんは車を出てどこかに向かった。」
「はい。」
「北山さんが行ったのは、運転席に座る新庄さんから見える場所でしょうか?」
「いや、見えません。多分、角を曲がったと思うのですが見えなくなりました。実際の現場が僕には分からないというのは2件とも同じです。」
「その時、北山さんは一人で向かったのですか?」
「いや、違うんですよ。その日もその場所に向かう途中で2人若い子を拾ってその子たちを荷台に乗せて移動したのです。」
「そして、その子たちを含めた3人が車から降りて行ったと。」
「そうです。そうです。」
「現場には何時くらいに着いたのですか?」
「夜の8時くらいでしょうか。」
「どのくらいの時間、待機していたんですか?」
「30分以上は待ったと思います。」
「それは30分に近い感覚ですか?それとも40分に近い感覚ですか?あるいはそれ以上?」
「そう聞かれると40分を超えていたかもしれない。」
「その間、新庄さんはどうしていたんですか?」
「ラジオを聞いていましたよ。あぁ、そう言えば、一つの1時間の番組を丸々に近いくらい聞いていましたね。」
「そうするとそのくらいの時間、そうですね。4、50分、車の中で待っていたことになりそうですね。長いな、おかしいなと思いませんでしたか?」
「思いました!そうです。何やってんだろうなぁと当然思いましたよ。でも…。」
「でも何ですか?」
「北山さんから報酬を日当の計算で3万円払うと言われていたので。こちらからしたら待つのも仕事だという感覚でいました。」
「なるほど。因みに前の事件、ここにいる理由となっている事件ですが、この時も報酬を貰っているのですか?」
「そうですね。同じ条件で。日当3万円ですね。」
「今回の後の方の件ですが、この時の若い子2人というのは前の事件の時に会ったのと同じ人ですか?」
「違いますね。前の時はもう少し年上だったと思います。」
「やはり北山さん以外は知らない人でしたか?」
「そうです。一回目も二回目も北山さん以外は皆知らない人でした。」
「北山さんたちが帰って来たとき、変わった様子はなかったですか?」
「走って息を切らせながら帰って来ましたよ。だから、おかしいと思ったのはよく覚えていますよ。もういい早く行ってくれとか急かすし。菅田さん、ちょっといいですか?僕のうっすらとした考えというか、懸念についてお話ししても。」
「勿論、どうぞ。聞かせて下さい。」
「その後の方の不可解な北山さんたちの行動があった数日後なんですが、私が待機していた練馬区豊玉上当りでその日に強盗殺人事件が起こったという報道があったんです。」
「えっ!?本当ですか?」
「それで恐くなって、それ以降、北山さんからの連絡があっても無視するようにしたんです。」
「北山さんがその事件に関係していると思ったからですか?」
「いや、そこまでは確証は全くなかったです。まさかとは思いましたが、何か分からないところで関与するのも気持ち悪いなあと感じるようになったんです。」
「元々、北山さんは新庄さんの何の先輩に当たるんですか?」
「いやぁ、学校は違うし、単に友達に紹介された地元の先輩としか言えないんですが…。」
「新庄さんが若い時に、北山さんと一緒に何か悪さをしたことがあるとか、そういうことはないんですか?」
「それはないですよ!僕はいわゆる不良ではなかったですから。」
「北山さんはどうですか?不良だった?」
「そうですね。悪い印象はあまりないですけど。どちらかというと悪ぶっている感じですよね。でも後輩に対する面倒見はいいんですよ。」
「新庄さんが住んでいたのは、埼玉県の比企郡でしたか?」
「はい。そうです。」
「失礼ながら、それくらいの少し地方になると地元の知り合いのしがらみというか、そういう多少煩わしい関係がどうしても続いていきますよね。これも失礼かと思うのですが、新庄さんは見るからに人が良さそうで、上手く使われてしまうところがあるのでしょうね。」
「だと思います…。反省しないと。」
「いや、それは都合のいいことを考える相手が悪いですよ。しかし、自己防衛のためにも付き合う人間は選んだ方がよいですね。ところで、強盗殺人事件について、もう少し詳細を教えて下さい。新庄さんが報道で聞いてご存知の限りで結構ですので。」
「近所の方が被害者宅の窓ガラスが割れているのを見て、警察に通報したようです。被害者は老夫婦。二人暮らしだったとのことでした。」
「ご夫婦はお二人とも亡くなっているのですか?」
「一人は絞殺、もう一人は鈍器のようなもので頭を殴られたと記憶しています。発見された時には、お二人とも亡くなっていたといいます。」
「よく詳細に覚えていらしゃいますね。報道による情報だけということでよろしんですよね。本当に。」
菅田は訝し気に新庄を見た。