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小説「獄中の元弁護士」(24) 「取調べ」
「菅田さん。今日、刑事が来て取調べがありました。」
刑務作業を終えて共同室に帰った新庄はそう話し出した。
「途中、連行されていましたね。結構、長い時間掛かりましたよね。どうでしたか?」
「やはり豊玉上の件を聞かれました。近くに住む人の目撃証言で僕の2トントラックが長い時間駐車していたことの証言があったようです。」
「目撃証言がね。でも、だとすると新庄さんが車で待機していたことも証言してくれたのではないですか?」
「そこまでははっきりと見ていなかったようなんです。おそらくそういうことだと思います。刑事の言い方からすると。」
「住宅街のその正に駐車して待機していたところは防犯カメラに写ってはいなかったんでしょうかね?」
「分かりませんがないのではと思いました。あったら、刑事の発言ももう少しハキハキしたものになっていたように思えますし。近くのもう少し大きな道路を行き来していたのは映像で把握していると言っていました。僕は行ったのは事実なのでそこを隠すつもりはないので正直に答えました。」
「問題は新庄さんと北山さんの関係性を如何に理解させるかだと思うんです。要は新庄さんは北山さんにうまく使われてはいても、北山さんの方からは新庄さんについて、悪さを一緒にやろうと言われても乗ってこないだろうと思われていたと思うのです。」
「それはそうだと思います。僕は大胆なことができる性格ではないんです。何でもすぐ不安に感じてしまうタイプですから。」
「新庄さんはそんな感じですよね。しかし、それも新庄さん、少し変えていった方がいいですよ。まだ、起こってもいないことをあまり不安に思い過ぎても仕方がありませんからね。」
「『こころのトレーニング』に不安をどうやって解消するかといったテーマが設定されていましたね。」
「まあ、今回の場合はその新庄さんのその性格を強調すべきですけどね。北山さんとの関係を示す過去のエピソードとかあれば教えていただければと思いますね。」
「関係といってもそれほど深い付き合いでないので難しいところです。何かあるかなあ…。」
「まあ、少し考えておいて下さい。ところで、新庄さんは身柄の引受人は決まっているんですか?」
「本来なら父親なのですが、病弱で…。母親はもう亡くしているので、更生保護会に申請を出しているところです。」
「そうですか。お父様、お悪いのですか?」
「ステージ4の末期癌でして、場合によっては出所が間に合わないかもしれないと思っています…。」
「それが一番辛いですね。我々は自分だけだったら、結局、自分のやっことの報いであるから仕方ないことではあるけれども、親に顔を見せられないというのは本当に親に申し訳ないことですよね。新庄さんはまして、本来、ここにいなくてもいい人ですから尚更ですよね。」
「自分が考え方がしっかりしていない面があったからこうなったと思っています…。」
「あまり自分を追い詰める必要はありませんが、今後どうあるかということの材料にしないといけないということはありますね。新庄さんは周りにおく人を気を付けたらいいですよ。それだけだと思いますよ。」
「はい。本当に今回のことで懲りました。」
「これ以上、おかしなことにならないように手を尽くしていきましょう。今日は他に、特に捜査員が新庄さんのこんな発言に引っ掛かっていたとかいうことはありましたか?」
「菅田さんに言われたとおり、おかしいなとか変だなとか思ったところは、特になかったと言い続けました。結構、いいように昔から使われている立場なので、何だか分からないけどまた言われて断れなかったなというようなことを繰り返しておきました。僕からしたら車を出すバイトの感覚ですよと伝えておきました。」
「まずはそれでいいですよ。あくまでタクシーの運転手さんのような位置付けが正しいんですから。少しでも疑いを持つことは新庄さんの故意と結び付けられる可能性がありますからね。これから1、2か月が勝負だと思います。私もできる限りのことをしますよ。」