セッションの時間管理を「シーンの着地点」から考える
はじめに、あるいは共有資源の話
TRPGにおいて、プレイヤーの共有する資源といえばなにがあるだろうか?
キャラクターの合計HP、神業や斬札やカルマカードなどヒーローポイントのたぐい、パーティーの本拠地や金銭などの財産、事件に関する情報などが挙げられるが、システムを問わず扱うものが一つある。
プレイ時間だ。
オフラインでプレイするにあたっては、公民館やプレイスペース、カラオケボックスなどの会場を借りるのであれば、利用可能な時間ははっきりと決まっている。
知己でのプレイではなく、一期一会のコンベンションでのプレイであれば、なおさら時間管理は大切だ。
オンラインセッションであっても、住環境の都合上、ネットカフェを利用してセッションに参加する人も存在する。そうでなくても、各員の食事や就寝のタイミングに合わせて決めたプレイ時間を守ることは重要だろう。
また、どちらのプレイ形態にせよプレイ時間が過度に長引けば比例してプレイヤーの集中力は消耗される。これは健全なプレイを妨げる要因となるだろう。これらのことから、適切な時間管理はプレイにおいて必要なファクターであることが分かる。
時間の喪失、あるいは脱線・迷走の話
さて、プレイ中の時間管理を意識したときに考えるべきことの一つに、時間を浪費・喪失してしまうことの予防が挙げられる。(プレイ時間を多く確保するための、素早い進行のための各種テクニックについては、他のテクストに任せるものとする)
時間の喪失の要因として考えられるものといえば、シナリオの本筋とは遠く離れた話題への脱線だろう。
PCのカウンセリングがはじまったり、依頼人を疑いすぎて身の上調査をしたり、君たちは酒場で出会ったと言われてパーティーを組む前に殴り合いをしたり……といったエピソードの聞き覚えや実体験があるプレイヤーは少なくないだろう。
もちろん、脱線によるやりとりや発言が、キャラクターやシナリオに深みや奥行きを与え、互いを理解する手だてや関係性を定める助けになることもおおいだろう。
特にキャンペーンプレイであれば、そういった脱線や横道が次のシナリオのフックとなることも少なくない。
こういった脱線させていくプレイもTRPGの一つの醍醐味である、本稿はそれらの横道を完全に否定するものではない。
しかし、シナリオ本編から大きく外れすぎた事柄に頓着してしまうことは、プレイヤーの貴重な共有財産であるプレイ時間を消費しているのは事実だ。その日そのときのプレイ予定時間は、予定されたゲームを進行するために計上されたものだろう。脱線を想定したある程度の猶予を与えられているとしても、その猶予以上に脱線が長引いてしまうならば、本来のプレイを損なうおそれがある。
また、まったく事前に用意されていない筋書きに発展することがあれば、新しい展開をその場で作らなければならないゲームマスターの負担になることも危惧される。
こういった観点から、やはり脱線や迷走を防ぐ、あるいはある程度コントロールする手段はあったほうが望ましいと考えることができる。
提案手法:シーンの着地点を意識する
本稿では、プレイ時間の喪失の原因の一つであるプレイの脱線・迷走を防ぐ対策として、「シーンの着地点」を提案する。
これは、プレイ中におけるその場面ややりとりが行き着くところ、すなわち『着地点』を意識したマスタリングやプレイングを行うことで、ロールプレイが過度に迷走したり、話題の主旨を見失うことを防げるだろうという考えである。
ロールプレイや脱線した展開をどこかで止める。という効能から考えれば、『着地点』はシーンに終了条件を与えると表現してもよいだろう。
たとえある程度の脱線をするにしても、脱線の発端となる目的やシナリオ全体の本来の筋書きを心に留めておき、最終的にそういった『着地点』に帰ってくるようなプレイができれば、道草が永遠に終わらないということは避けられるはずだ。
シーンという概念のないシステムも存在するが、ここでのシーンという言葉はセッション進行における一つの時間単位を指す意味合いが強い。
シーン制でないシステムでも、シナリオ内の一つの部屋、一つのイベント、一つの会話それぞれにおいて、その部屋で見るべきもの、そのイベントで起きるべきもの、その会話で提示されるべき情報といった『目的』は存在するはずだ。
たとえなにもない”はずれ“のポイントであっても、そこには「なにもないようだ」ということを伝えるという『目的』は存在する。
この『目的』を満たすことは、十分な『着地点』と呼ぶことができるだろう。
ルールに関する議論も脱線のひとつであるが、これはGMがゴールデンルールによって与えられた決定権で判断を下すなどの手法で解決できるとされている。GMによっては、公式に裁定が定まっていない問題について事前にレギュレーションを示すというやり方を採用している人もいるようだ。
こういった問題に関する脱線は、参加者が「ルールに関する疑問に解を出す」という着地点をもって行われているため、結論が決まりしだいセッションの本筋に戻ることができる。このことからも、『着地点』があることで脱線は完全な制御不能の事故ではなく、もとに戻ってくることの可能な横道にできると考えられるだろう。
各側面からとれる対策
さて、シーンごとに着地点を意識するとひとくちに言っても、それを誰が、あるいはどのような役割として意識するかによって具体的になすべきことは変わってくるだろう。
セッションにおける登場人物をゲームマスター(以下便宜上GMと略す)、プレイヤー(以下便宜上PLと略す場合がある)、シナリオの3つに分け、それぞれの観点から着地点の意識について具体的な手段を考えていく。
GM側からの対策
最初にマインドセットを行う
セッションを始める時、あるいは始める前に、「このセッションではGMが着地点を意識した時間管理をしていく」という宣言を行うことは、プレイヤーとの間に時間に対する意識のマインドセットを構築するうえで大切な第一歩になると考えられる。
予めシーンの時間管理の意識を宣言しておくことで、後述するようなセッションの最中に行う進行管理や発言の意義を互いに理解するたすけとなるはずだからだ。
シーン開始時、どのような目的のシーンであるか説明する
いわゆるシーン制と呼ばれる進行管理を行うシステムの話に限らないが、場面ごとの始めには「その場面の意図」と「シーン終了の目安」をはっきり説明しておくとよいだろう。これらは、これ以上無いほど直接的な『着地点』の明示である。
何をしたらいいシーンなのかというメタ的な情報は、プレイヤーとしても、完全に手探りの状態で行動を行わなければいけないような事態に陥らずに済むという点で、大きな恩恵となる。
もしあなたがサプライズ的な演出を望むならば、驚かせるべきはプレイヤーキャラクターでありプレイヤーそのものではないとしてこの先の演出について説明してしまうか、あるいは嘘はつかずに明かすことのできる範囲でどこまで行くと終わるシーンなのかを説明しておいたり、ある程度進むまではシーンの終了条件を伏せておきサプライズと同時に公開するのが良いだろう。
「明かすことのできる範囲」というのは例えば、廊下を進む途中で殺人鬼が壁をぶち破って登場し、引き返させることを想定するシーンであれば「廊下を抜け出したらシーン終了です」と説明するなどだ。入った側から出ているが、間違いなく廊下からは出ている。
時間管理と脱線を意識して進行する
抽象的かつ基本的なことがらになるが、セッション中余裕があればプレイ時間と進行度合いの割合を測ったり、会話がプレイと程遠い内容になっていないか気を配り、適宜プレイヤーなどに声をかけていくべきだろう。
大抵のシステムでは、GMには大きな裁量権と決定権が与えられている。円滑な進行のためであれば、こういった権限を行使することはなんの問題もないはずだ。
シーンやRPに時間制限をもうけるのも一つの手だが、プレイヤーごとの発言内容の推敲にかける時間や、テキストセッションにおいてはタイピング速度や回線状況などで格差が生まれてしまうおそれがある。プレイ形態やメンバーの習熟度合いに応じて導入を検討・調整するべきだろう。
必要ならば、軌道修正を試みる
掛け合いの着地点が行方不明のままフラフラしているなと感じた時、キャラクター間のやり取りが白熱し始めた時、謎解きや議論が煮詰まってきた時など、静観したままではシーンが終わらなくなるとGMが思ったならば、頃合いを見計らっての介入が必要なこともあるだろう。
直接の忠告や発言でなくても、NPCを動かして働きかけたり、休憩時間をとるといったやり方でクールダウンを促すのはよい手段であるはずだ。プレイヤーの側からであっても、これは軌道修正が必要だなと思ったらGMや他のプレイヤーに助けを求めるなど提案してもよいだろう。TRPGプレイヤーの協力は、なにもPCの協働に限らないと言える。
信用と誠実
簡単な戦闘を深読みして入念な準備をしはじめたり、用意された移動手段に罠がないか逐一調べて時間を食うなど、プレイヤーの猜疑心による行動が時間を食うケースは少なくない。
こういった停滞を防ぐならば、これに罠やトラブルは無いです、とゲームマスターから明確に言ってしまうのがよいだろう。いわゆる、『ぶっちゃけ』をしてしまおうという話である。もちろん、念入りな下準備や知恵比べがTRPGの醍醐味だとするならば、そういった過程はあるものとしてセッションの予定時間に組み込んでおくのも一つの選択だ。
また、日頃からのオープンで誠実なマスタリングはプレイヤーからの猜疑心を和らげ、不必要な調査による脱線は起きにくくなるはずだ。もし、そういった信用関係が構築された仲で罠や裏を出したくなったならば事前に「怪しい所があり、調べるのもよいでしょう」と警告しておくべきだろう。
プレイヤー側からの対策
行動の提案をする場合、どういった目的の行動であるか伝える
システムの都合により、プレイヤー主導でシーンを作るときがある。あなたがそのシーンを作る立場になったとき、あなたの提案するシーンにどのような目的と意図があるかを一緒に伝えるとよいだろう。
GMはあなたの目的をもとに、そのシーンで用意しておくべき演出やNPC、判定などを事前に準備しやすくなるし、あなたが作ったシーンの『着地点』を知ることで、GMもそこに向けて演出を進めることができるようになるからだ。
他のプレイヤーにとっては、そのシーンに登場するならばどのような行動と反応をするべきかの参考となることだろう。本題からは外れた一般論的な話だが、シーン中に行動を一つ取るとき、パーティーの行動指針を提案するときなど、プレイヤーとしてのあなたの意図が絡むアクションを行うときもまた、その意図と目的は伝えるとよい。連携の不備や、データ的処理の間違いを防ぐことができるだろう。
とるべき行動が分からなくなってきたら、GMに聞く
GM側でも似たようなことを述べたが、現在のシーンで何を目的に動くべきなのかが分からなくなってきたら、GMや他のプレイヤーに助けを求めることは間違った手段ではない。
先に説明されたシーンの目的や『着地点』を失念あるいは勘違いしてしまうこともままあるだろう、認識と情報を整理しなおすためのデフラグは、問題解決の一つのテクニックだ。
出番のない時間を有効活用する
シナリオやシステムの都合で、他のPCが登場している間に出番がなく手が空くこともあるだろう。そういったシーンで他のPCがなにかしている間、あなたの持ち時間をプレイに活用する余地があるはずだ。(もちろん、観客になっているあなたに観客としての役割があるならば、それを優先したほうがいい)
『着地点』を意識する、という観点からこういった間隙の時間の使い方を考えるならば、以後の展開でやりたいこと等を他の手が空いたプレイヤーや場合によってはGMと相談する、などが考えられるだろう。あるいは、シナリオ全体の『着地点』について1人で整理しておくのもいいかもしれない。
シナリオにおける対策
この小項目では、シナリオ執筆者を対象に、シナリオ自体が「シーンの着地点」についてどう対策することが可能かについて考える。
データは解釈をハッキリさせやすいように、読みやすく書く
シナリオに登場するエネミーやアイテム、シナリオ上のギミックのデータ的な記述は、多面的な解釈ができてしまわないように、明確に書いておくほうがよいだろう。解釈が複数に分かれるデータは、その取り扱い方で議論を産み小規模だが脱線のもととなる。
フレーバーテキストは、こういった解釈を一意に定め、シナリオの意図した挙動を助ける効果がある。ひとえに「ドアに仕掛けられた罠」と言っても、ドアノブに触れると電流が走るのかドアを開けると黒板消しが落ちてくるのかで、罠の作動後にドアが開いているのかは変わってくるだろう。
シーン制であるならば、各シーンの目的を明確に書く
GM編でも述べたことの繰り返しに近いが、それぞれのシーンを行い演出する意図はシナリオに明記しておくことが望ましい。これはGMがPLに向けて説明する部分に限ったことではなく、その時点でのPLには不可解なままのシーンであっても、GMが後々の展開との関係性を意識して演出などできるよう、GMに向けたものとして仔細に書いておくとよいだろう。
シーン制をとっていないシステムでも、各々の描写や配置された人物が何を意図したものか───それはたとえ雰囲気作りのための効果のないオブジェだとしても───説明が添えてあれば、GMも使いやすいはずだ。
ところで主にシーンごとの『着地点』について言及しているが、シーン単位だけでなく、シナリオ単位でも着地点を早めに提示すること(最終的にどの事件の解決にPCは挑むべきなのか、など)は、時間管理の面においても重要だと考えられる。
このあたりは今回予告や情報の出し方など、よく整理されたシナリオの書き方といった分野になっていく。先人がシナリオ執筆に関するテクストで示しているはずなので、細かくは割愛する。
むすびに、あるいは言い訳
本稿で考えられ、言及されていることは筆者の経験に依るところが多く、提示するテクニックや提案は既に先人が文献に残したものであるかもしれない。本稿が車輪の再発明でありよりよく練られた文献が既にあるならば、そちらを併読したほうがよいと考えている。
また、いろいろな手段や主張を書き連ねたが、これを読むプレイヤー個々人やプレイグループごとに独自のポリシーやルールがそれぞれ存在するだろう。もしも本稿で挙げた案がそういったものと相反したり、許せないものがあったりしたら、その部分だけ省いて導入したり、環境に合わせて独自のテクニックに置き換えてもよい。
よかったら、どんな改案なのかSNSやコメントで教えていただければ参考になり幸いである。
本稿が、誰かのよいセッションをつくる手助けになればよいなと思いつつ、筆をおく。
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