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エースの「大瀬良くん」~2020年開幕戦~

 「大瀬良くん」。
 彼には本当にこの呼び方がよく似合う。大瀬良投手/選手でもなく、大瀬良ー! でもなく、かといって「大地くん」でもなく、「大瀬良くん」。同級生の人気者をほんのりとした好意と憧れとともに呼ぶみたいな、「大瀬良くん」。後輩のすごくいい子を呼ぶみたいな「大瀬良くん」。どちらにしても、来年には早くも30歳になるというのに、なぜか彼のことはこう呼んでしまう。「大瀬良くん」。「くん」はあくまでひらがな。ここポイント。

 田村スカウトが赤いパンツをはいてくじ引きを当てたのを満面の笑みで見てくれたあのときから、思えばいろんなことがあった。期待どおり見事に新人王をとったり、開幕から全然勝てずそのうえ守備に足を引っ張られてついには中継ぎに配置転換されたり。CSを逃してワンワン泣いてマエケンが苦笑いしたり。
 でも、多くのカープファンは彼が入団したときからずっと信じていたと思う。遠くない将来メジャーに行ってしまうマエケンに代わるエースは大瀬良くんだ、と。
 そしてまあいろいろあったけれど、ちゃんと大瀬良くんはエースになった。2年連続で開幕投手になって、去年は8回無失点、今年は1失点完投。どちらも見事勝ち投手。相手投手だって菅野と今永。誰がどう見てもカープのエース。

 うん、今日の開幕戦のピッチングはエースらしかったと思う。去年までよりも一段階上に上がった気がした。何が? 淡々感(なんじゃそりゃ)が。
 だって先制HRを打たれたときも、序盤~中盤にかけて素晴らしいピッチングをしているときも、終盤塁を埋められたときも。最終回にソトに17球も粘られても、挙げ句四球を出しても、全然顔色を変えず、しんどそうな素振りも見せず、淡々と投げ続けた。それはまさに北別府~佐々岡~黒田と続いてきた(マエケンはちょっとタイプが違う)「カープのエース」らしい姿だった。他のチームはまた別かもしれないけれど、私たちの知ってる「カープのエース」はこういう感じ。来年も再来年も開幕投手は大瀬良くん、そんなピッチングだったと思う(FA? なにそれおいしいの?)。

 想像だけれど、黒田と緒方それぞれに「勝負の場面では厳しくいかないと」と言われたことを彼なりにうまく消化できたのではないかな、と思う。インタビューなどを読むかぎり、黒田にだけ言われていたころはまだ今一つ腑に落ちていないような感じがしたけれど、2018年、藤浪の四球に絡んで緒方から再び同じようなアドバイスを受けて、それを咀嚼して、自分のものにしたというか。黒田や緒方のような上の世代とはまた違った形で「厳しさ」を我が物にしたように映った。

 その意味で言うと、「大瀬良くん」のままでエースにのし上がった姿はマエケンと重なる。マエケンもやっぱり「マエケン」のままエースになった。黒田がエースになっていったときのような悲壮感はなく、これまでの自分の延長線上、自然体のままエースになった。だからマエケンはいまだにマウンドで喜怒哀楽を見せるし、ヒーローインタビューで「マエケンです! ブログやります!」と言っちゃうような小僧感がある。相変わらず柔らかい顔で人なつこく笑って、きちっとした言葉遣いでインタビューに答える大瀬良くんの姿は、そんなマエケンと似ているように思うのだ。

 マエケンのように自然体で、でも黒田の厳しさも身につけて。
 あれ? やばくない? 黒田とマエケンのハイブリッドとかすごくない? すごすぎない?

 ……とまあ妄想が広がる開幕戦。待ちに待った開幕戦。とりあえずカープは勝ちました。広輔が躍動したことも、三好のビッグプレーも素晴らしかった。「大瀬良くんが投げる浜スタ」というケガしたときと同じシチュエーションで果敢な外野守備を見せた誠也もかっこよかった。
 何よりこの難しい調整経ての雨中の開幕戦、両チームともに誰もケガしなくてよかった。明日もいいゲームが見られますように。

 2020-6-19(セ・リーグ開幕戦) De vs C 1回戦 1-5勝ち。

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