骸骨探偵は死の理由を求む 第16話
私がそういうと皆の視線が集まった。もちろん骸骨探偵も。
ふふん! たまには助手だって謎を解いちゃうんだからね!
「犯人はずばり、科捜部の部員さんたちですよ!
確かドローン持ってるんですよね?」
「ええ、大学内で飛ばして怒られているところを見たことがあるので」
「それに、基本的にオカルト研究部を目の敵にしてたんですよね?」
「確かに彼らにはちょいちょい嫌がらせされていましたけど」
「ということは動機もあるし、ドローンも持っているんだから、この人たちが犯人で間違いないですよ。
どうですか、私の推理!」
私はフフンと自慢げに答えたが、
「仮に彼らが犯人だとして、どうやって河原木が廃病院に行くって知ってたんだ?」
と咼論から極めて冷静に且つ面倒くさそうに反論されてしまった。
な、なによ!
私に先に解かれて悔しいんじゃないの?
咼論の冷静な態度に若干不安を覚えつつも、
「それはきっと部活の話を聞いてたんじゃない? 向かいの部室にいるんだしね」
と平然を装いつつ、言った。
「いや、それは無理だよ。うちの部室は防音工事をしたって言ったでしょ」
「あっ、そう言えばそうでしたね。
でも、近づけば聞こえるんじゃないですか?」
「もちろん完全には防音できてはいないけど、部長が結構な費用を掛けてやっただけあって、ドアを閉め切ったままなら話している内容はほとんど分からないよ」
「じゃ、じゃあ、きっと河原木さんの後をついてきたとか?」
「白衣の3人がついてきたら、さすがの僕でも気がつくよ。
幽霊付きのドローンを持っていればなおさらね」
河原木の圧倒的正論に、私の言葉は詰まる。
頭の中でこれでもかと考えたが、反論は出てこなかった。
「じゃあ、ハズレかー」
いい推理だと思ったんだけどな~。
私はちょっとだけ肩を落としたが、咼論がぽんと肩を叩いた。
一緒に乾いた音が響く。
「いや、全てがハズレというわけじゃない」
「どういうこと?」
「恐らくドローンは、科捜部のもので間違いないだろう。
だが、ドローンは今彼らのもとにはない」
「持っていないってことですか?」
「ああ。確か彼らはお前に言っていただろ?
『イベントサークルと手を組むことになった』と」
「ああ、確かに言っていましたね」
「そして続けてこうも言っていた。
『壊されないか心配だ』とな」
「……イベントサークルにドローンを貸したということですか?」
「おそらくな。あとイベントサークルのウエダとかいう奴は、
『今回のイベントはお前も楽しめると思う』っていってたよな」
「河原木さんも楽しめるイベントって……。
あっ! もしかしてお化け屋敷とか?
それなら幽霊ドローンがあるのは頷けるね」
「うう、雲行きが……」
「じゃあ、幽霊ドローンはイベントサークルの催し物で使うものだったなら、サークルの人がやったってこと?
まったく動かしたことがない人だと厳しそうだけど」
「ウエダはこうも言ってたな。
『2年生は必ず練習しておけ』と。
多分それが幽霊ドローンで、2年生がその担当だったんだろう」
「……」
もう河原木は返事すらしない。じっと咼論の話に聞き入っている。
それはまるで裁判のドラマで見る被告人のようだ。
その姿に一瞥もくれずに、咼論は淡々と話を進めていく。
「そして後輩が練習したい『あれ』が無くて相談にきていたな。
ここで言う『あれ』は、つまりドローンで、誰かが既に持ち出していたわけだ。
イベントサークルのイベント内容は開催まで秘密だということは、情報漏洩にはかなり気を使っていたはずだ。
サークルメンバー以外ドローンに触れることは難しいだろう」
咼論は腕を組み直す。
「科捜部の人間も関係者だが、白衣を着た男が3人もいたら、明らかに目立つ。
勝手に入ってドローンを持って行くのは難しい。
従って……」
「サークル内の2年生の人間が1番怪しいという結論に達するわけだ」
と話し終わったところで、咼論がピッと人差し指を立てた。
「さて、ここでカワラギに問題を出そう。
お前に情報を与えたクラモチは、どこのサークルの何年生だ?」
いきなりクイズ!?
私はあっけにとられたが、河原木は真剣な表情で思い出しているようだ。
「確かイベントサークルの……2年……って
おい、嘘だろ。まさか彼女が?」
河原木の表情が見る見るうちに青白くなっていく。
「クラモチの情報で、お前は幽霊ドローンが操作しやすい吹き抜けのエントランスに誘導している。
しかも、プロペラ音を誤魔化すために羽音の情報までつけてな」
真っ白になった河原木に向かって、骸骨探偵が口を開いた。
「彼女が幽霊の本当の正体だ」
驚愕した表情の河原木の口から、小さく「なぜ彼女が……?」という言葉が漏れた。
それに返すかのように、咼論は
「それは、戻ってから聞いてみることだな」
と言った。
「えっ、戻る?」
私が聞き返すと同時に、河原木の体から少しずつ光が漏れ出した。
「僕……なんで光って……」
とまどう河原木を無視するかのように、光はまばゆさをじわじわと増して、河原木の体を容赦なく包みこんでいく。
そして、彼の声も少しずつくぐもって遠くなっていく。
「ちょ、ちょっと! これ、どういうこと?」
と私が取り乱すと、霊次がぼそりと呟いた。
「彼は帰るんだよ、現世に」
「現世にって……」
「3つのかたまりにもよろしくな」
咼論がそう言うと、何か言いたそうな河原木の全身を光が飲み込み、目も開けられない程に瞬いた。
目を開けたときには、もう河原には私達3人以外は誰もいなかった。
>>>第17話に続く