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骸骨探偵は死の理由を求む 第15話
「ねっ! もうこれは幽霊に呪い殺されたとしかいえないでしょ!?」
一通り事件のあらましを語り終わった河原木の鼻息は荒い。
「うーん、確かにそれだけだと幽霊の仕業のように思えますね」
私はそう言いながらちらりと咼論の方を見た。咼論は黙ったまま、俯いている。
まだ何か考えているみたい。もう少し情報を聞き出した方がいいかな?
「その幽霊って、本物でした? マネキンを見間違えたとか?」
「そんなことないですよ! 上下にゆらゆら揺れていて、最後にはこっちに向かってきたんです!
白いワンピースの下は足もなかったし、あれは確実に幽霊ですよ!」
目をキラキラ輝かせて話す河原木は、幽霊に殺されたと信じて疑わないようだ。
もしかしたら、本当に幽霊がこの人を殺したの……?
そう信じかけたとき、ようやく咼論が顔を上げた。
「残念ながら、その幽霊は偽物だ」
その言葉に河原木の顔が曇る。
「いやいや、今までの話聞いたでしょ? 確実に幽霊ですって!」
河原木の声には軽くではあるが、怒りが籠もっているように聞こえた。
だが咼論は首を静かに振って、真っ直ぐ河原木を見つめ、いつもより凜とした声でしゃべり始めた。
最近気がついたのだが、これが“骸骨探偵”になるサインらしい。
不謹慎だけど、この姿を見るとなんだか胸がワクワクしてしまう。
「確か虫の羽音みたいなのが聞こえてきたって言ってたよな」
「ええ、不快な羽音がしてましたよ」
相変わらず不機嫌そうな声を出す河原木に、咼論はゆっくりと言った。
「その音の正体は……多分、プロペラ音だ」
「へっ、プロペラ?」
「そうだ。羽音のように聞こえていたのは、プロペラ音と仮定すれば、辻褄が合う。プロペラが回転して飛ぶようなもので幽霊を装ったんだ。
例えば……ドローンとかな」
咼論の言葉に、河原木は「はぁ?」と言った後、笑い出した。
「僕はね、一瞬だけですがハッキリと見ました!
幽霊は細身の女性で白いワンピースを着ていたので、もし体にドローンが入ってたら絶対見えちゃいますって!
もちろん、プロペラもついてませんでしたしね!
根拠もなしに当てずっぽうもいいところですよ!」
河原木はお腹を抱えて笑っている。
私も咼論の推理には正直ビックリした。さすがに突拍子がなさすぎる。
「そうだよ! ドローンがこっちに飛んできたら流石に誰だって分かるよ」
いつの間にか、私も反論に加わっていたが、咼論は気にも留めない。
「別に幽霊側にドローンをつける必要はないだろ」
「えっ」と呆気を取られる私達を尻目に、咼論は続ける。
「例えばドローンから釣り糸で人形を吊って操作するとかな。
地界でやってるハロウィンとかいう祭りで最近ある手法らしいぞ」
「人形を……ドローンに吊るす……ですって?」
先ほどまで爆笑していた河原木の笑顔が引きつりだす。
「お前が幽霊に遭遇したのは、吹き抜けのエントランスだったよな。
だとするなら、ドローン本体は天井付近を飛行していて、長めの釣り糸で幽霊らしき物を吊っていたんだろう。
室内が暗かったのなら、天井付近にいるドローンも釣り糸も肉眼で見つけるのは難しい。
ましてや、目の前に幽霊がいるならなおさらだ」
「冗談……ですよね……?」
「俺は、冗談は言わない。
幽霊が近づいてくるにつれて、羽音も大きくなったということは、ドローンが近づいてきたってことじゃないのか。」
「いや……まさか……そんな」
河原木はそう言って考え込んだ。そして、何かが浮かんだらしく、明るい顔でパッとこちらを見た。
「いや、まだ僕は諦めません!
ドローンなら、操縦した犯人がいるってことですよね? それって一体誰だったんですか?
それが分からないなら、僕はドローン幽霊説を認めませんよ!」
と胸を張っていった。
そんなことで胸を張られても……。
私は河原木の態度に呆れたが、ふと脳裏に過ぎるものがあった。
あれ、ドローン?
そう言えばさっき、さっきの河原木さんの話のどこかで……。
そのとき、私の脳にひらめきが舞い降りた。
「私、犯人分かっちゃったかもしれないです!」