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【連載4話】妖怪コハクとAIマキナ Call Sign

あらすじ
妖怪とアンドロイド、正反対の二人が最強の相棒となり、悪を蹴散らす旅が始まる。
ジャンル・SFファンタジーバトル

【第4話 旅路】

「琥珀ー、用意出来たか?」
「待ってー……これでよし、大丈夫」

 タケに返事をしつつ風呂敷に梅婆がくれた、おにぎりを包んで背中に背負った琥珀は、岩影に作っていた自分の小さな家に別れを告げて立ち去った。

「出発だ──外へ」

 桜の妖怪ヨシノが木々が拓けたところで待っており、近所の妖怪は15名全員で見送りに来ていた。

「気をつけるんだよ」
「琥珀、気をつけるんだぞ」
「ちょっと外出るだけだよ。梅婆もみんなもありがとう。いってきます!」
「「「いってらっしゃい」」」

 また帰ってくるから心配しないで、と元気に手を振り返し、ヨシノとタケと共に最小限の荷物を背負って村を去って行った。

 ヨシノは古株の桜妖怪で妖力が強く、地面から足を少し浮かせて飛んで移動している。琥珀はタケ達の軽快な会話を聞きながら暫く森を歩くと、マキナと待ち合わせしている場所へ着いた。

「あれ、この辺だけど──」

 人影が見えず戸惑っていると、バサバサと鴉が妖怪の気配で飛び立つ。その音に木を見上げると……

「マキナさん!?」

 目を閉じたマキナが枝に座って居た。

ピピっ──

「はい。おはようございます」
「わっ、おはよう。なんでそんなところに……」

 機械音と共に目をパッと開き、枝から飛び降りたマキナの急な動きに驚いて後ずさる。

「土の上は動物が多く危険ですから。このままスリープ状態にすれば皆さんの言う"寝ること"ができ省エネです」
「そ、そうなんだ」
「ショウエネ? よく分からんが、寝なくていいってことか?」

 僕もよく分からないけど……タケは興味深いのか続けて質問している。

「はい、理解が早くて助かります」
「へ~どうも」
「あ、そうだ。マキナさんは荷造り良かったの?」

 頷きつつ、タケとマキナの会話に背伸びして入ってみる。僕より後で知り合ったのに……なんだろう大人ってずるい。

「ええ。私の荷物はバッテリーと水くらいなので」
「ばってりー?」
「このバッテリーはアンドロイドにとって食料のようなものです。あ、食べれませんよ? 機械です」
「は、はい」

 腰についた小さな鞄から黒く四角い箱を取り出し、マキナは丁寧に説明した。

「はいはい。ほら、もう行くわよ。仕事仕事~」

 琥珀の押され気味な様子を伺っていたヨシノは、マキナの背中から肩に手を置いて押して歩きだした。



 ここは琥珀たちの住む向かい側の山。

 退治屋について周辺の山でも情報がないか調査するために来ている。途中でお昼ご飯を挟んで、夕方まで聞き込み調査をした4人。

「悪くない話だな、協力しよう。ところで……そっちのは人間じゃないよな?」
「あ、こちらはアンドロイドのマキナさん」
「人間じゃないのでご安心ください」

 ヨシノ様と妖怪たちに話を聞いて、この何度目か分からないやり取りをした。マキナさんは妖力が無いし、その見た目から人間かと間違われる。

「この方が噂の、退治屋を狩りまくってるというアンドロイドか……」
「あ、あれ違うよ? なんか話が大きくなってるんだけど」

 どうやらマキナさんは僕との関わりから、退治屋を撃退したアンドロイドとして噂になっているらしい。

「俺たちも退治屋に困ってたんだ。ここ1、2年ほど多過ぎてな」
「やっぱり最近なんだ……他の人間に変化は?」
「うーん、人間も昔と違って少なくなったからな……余所者は見てない。あ、山に若い退治屋が来てたぞ」

 この日は妖怪の聞き取りで終わってしまったけど、どこも状況は似たような感じだと分かった。

 陽が完全に落ちる前に、僕とマキナさんは寝床の確保、ヨシノ様とタケは食料の調達へ。

 すぐ山菜を集めたタケとヨシノは琥珀が見つけた岩影に身を寄せた。

「……寒くないですか?」
「大丈夫、焚き火で温かいよ」
「そうですか」

 横で木の実や山菜を食べる琥珀たちを気遣ったのか、火に木の枝をくべ始めたマキナに、琥珀が止めた。

 パチパチと音が響き、陽が落ちて暗闇を照らす焚き火は美しい。

「そういえば、退治屋との戦いのとき『テミスの教えを忘れた者に、心置きなく……』って言ってたけどテミスって何?」

 昨日のことで気になってたことをマキナさんに聞いてみた。

「テミスとは、人間が作りし掟と正義の女神のことを指します。公平な裁判を下す教えがあるのですよ」
「へー! 知らなかった」
「ギリシャの神々ですね。日本では裁判所に像が多いです。ただ、日本の神様ではないので浸透していないかもしれませんね」
「けど勉強になったよ。世界って広いんだね」

 世界は色んな国があるみたいだ。僕は梅婆たちからの情報しかないから、新鮮。マキナさんのことも……知りたい。

「あ、そうだ干し柿食べよう! マキナさんは──柿は好き?」
「美味しい食べ物だと聞いてますが、アンドロイドは食べる機能を持っていないので……すみません」

 食べ物で何が好きか聞いて、仲良くなれるかと思ったらマキナさんは食べられないらしい。アンドロイドって難しい。

「そっか……あれ? じゃあ何でフライパン」

 マキナの背中にフライパンの柄が見えて、何でフライパン持ってるんだろうと聞いてみた。料理必要ないんじゃ……?

「これは……貴方がオムライスについて話していたので、食べるかと思って──買っておいたんです」
「え。作ってくれるんですか!? 食べたいです」
「では明日、作りましょう」

 僕の話、覚えてくれてたんだ。オムライスってどんな味だろう、楽しみだ。

「やだ、微笑ましいわ〜キュンよ」
「おい叩くなヨシノ。マキナさんは琥珀には優しいな」

 ヨシノが隣のタケの肩を叩き、タケは嫌そうに手で静止した。

「元々育児アンドロイドだったので。つい子供を見るとその機能が発動するのかもしれません」
「育児機能……」

 タケの疑問に答えたマキナの返答に、少し戸惑う琥珀。

 フライパンが嬉しかったけど複雑な気持ちになった──僕のことに感心があったわけじゃないんだ。機能が発動しただけなんだと。

 人間とは違うけど僕らとも違う、価値観……

「私たちは人間に姿が似ていますが、感情というものは持たないので擬似的な機能として備わっています」
「へぇ、よくわからんなアンドロイドってのは」
「……まあ、あまり細かいことはお気になさらず」

 琥珀はタケとのやり取りを聞いて、仲良くなれるか少しだけ不安に顔を曇らすが、それを悟られないように焚き火に枝をくべて気を紛らわした。

「そうよ、細かいことは気にせず! 今日はもう寝ましょ」
「そうだな。俺は少し川に行ってから寝る」

 タイミングよくヨシノは手を軽く叩いて話を締めた。タケも頷き、各自寝る体制に……

 森から見る星は輝きを増していく──

 琥珀は焚き火の側で仰向けになり、星空を見つめながら今日あったことを思い出す。

 "ここ1、2年"と"若い退治屋"。今のところ共通点が見つかった……けど何で悪い妖怪じゃないのに退治するんだろう。人間とも仲良くなりたいのに──

 お腹に片手を置いて、ゆっくり目を瞑る琥珀はそのまま眠った。

 隣で座るマキナはスリープ状態から一時目を開き、眠る琥珀に大きな葉を掛けて、もう一度目を閉じてスリープへ。

 一方その頃、タケは川で明日の山菜を洗い終え森へ戻ろうとしていた。

「タケ。……あの子が心配なのは分かるけど、好奇心は誰にも止められないわ」

 様子を見ていたのか、木の影からヨシノが姿を現し立ち止まるタケ。

「妖怪は妖怪のことだけ考えてりゃいい。……世界の広さを知ってどうする」
「どうもしない。それで良いじゃない、過保護ねタケは」
「──何で琥珀だった? 土地に詳しいのはお前も同じだ、つまり他でも良かっただろ。何企んでる」
「……ひどーい。信用なさすぎじゃない?」
「日頃の行いのせいだろ」

 こうやってタケとヨシノは言い合いながら、琥珀たちのところまで歩いて戻っていく。

「マキナも居たし丁度良かったの! もぅ、疑い深いんだから。ほら早く戻って寝る! 明日のご飯でも考えましょ」
「ご飯作らないくせによく言う」
「あらぁ、だって野宿初めてなんだもの〜」

 そう言ってタケの手から山菜が入った籠を奪って浮いて逃げるヨシノ。

 そんな自由人な彼女に、ため息を吐きながら夜空の星を見つめて帰っていった。

 夜は更けていく。


──つづく。

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