庵野秀明展感想文「創作の海を泳ぎ続ける巨人に我々はどう立ち向かうのか」
気が付いたら3時間も一人の男の半生に魅入られていた。
今や日本を代表する映像クリエイター、庵野秀明。
彼のルーツを探り、これからの創作を「展示」という形で見る事が出来る庵野秀明展が今大阪で開催されている。
僕はパチンコと映画のエヴァンゲリオンとシンゴジラ、シンウルトラマンでしか庵野秀明を知らないミーハ―な人間だ。
また、創作活動もこのノートで下ネタやサウナの話を書きなぐる程度だ。
行ってしまえば巨人、庵野秀明とは縁もゆかりもない。
それでも、感想を書かずにはいられなかった。書き殴らずには脳みそがパンクしそうだった。
一部の資料を除き基本的に写真撮影は可能な展覧会だったのだが、ほとんどまともな写真は撮れなかった。人が多かったからではない、流れ込む情報と溢れる情緒がスマートフォンの操作を許さなかった。
「こんな面白いものを巨大テック企業のクラウドストレージに収めてたまるか、俺の、俺だけの代替テキストと共に脳みそに刻み人に伝える」
そう思いながら順路を進んだ。
今でこそ巨人は日本、いや世界に名を馳せるクリエイターだがそのルーツは僕らと変わらない。
ウルトラマンや仮面ライダーに憧れ、自分オリジナルの戦闘機やメカを思い描く少年だった。
展覧会序盤はそんな少年が感銘を受けた特撮ヒーローに関する資料を見る事が出来る。実際に使われたウルトラマンのスーツや、戦闘機、当時刊行されていた漫画雑誌などの資料が展示されている。
実際に撮影に使われていたものだけあって焦げ付きやピアノ線を通す穴など細部から「リアル」が伝わった。
正直なところ、この時点では何の感動もなかった。普通に面白い展覧会だなぁという程度だ。
壁一面に当時放映されていたアニメが流れる展示は圧巻であったが、物理スケールに圧されただけだ。
そんな感情は次のエリアで吹き飛んだ。
庵野秀明が作ったものを展示するエリアに入った瞬間空気が変わった。
重なっていた心が離れた、そんな気がした。先ほどまでこちら側だった人間が大きくなりそして向かい合ってくるような、そんな感覚。
高校生の庵野秀明が撮ったという特撮映像がその最たるものだ。
あんなものを同級生に作られたら創作をやっている人間は筆を握れなくなったに違いない。
ちなみに僕は同年代の時に主にチンコを握っていた。
彼の作った映像はよちよち歩きの少年の母親の手をえらく煩わせていた。
「もう一回だけ!もう一回だけ見たい!」
高校生が、昭和の機材で作った映像が令和の未来の後ろ髪を引いていたのだ。
当時、彼がノートに書いた漫画やイラストなども展示されている。
自分が中高生時代に書いたイラストの展示で金を稼げるのは庵野秀明がやしろあずきぐらいだろう。
そして、大学生になった彼は自主製作特撮としてウルトラマンを作った。
彼自身がジャージでウルトラマンを演じた短編フィルムだ。
正直なところ「ウルトラマン」としてのクオリティはとても低い、ジャージを着た陰キャの大学生がウルトラマンごっこをしているだけの映像だ。
しかし作品として見るとなんというか、狂気を感じるレベルでクオリティが高い。
爪楊枝のケースで作ったというカラータイマーは見事にウルトラマンを記号化し、忠実な動きとカット割りで特撮として成立してしまっている。
あの映像に写っていたのは間違いなく光の巨人であった。
その後、巨人としての産声を上げた庵野秀明は風の谷のナウシカや超時空要塞マクロスといったアニメに携わり、創作の幅を拡げていく。
この間に「トップを狙え」や「ふしぎの海のナディア」などのアニメーションを制作するのだがキャラデザインから一つの事が読み取れる。
巨人、庵野秀明はことフェチズムに関しては一般男性と何ら変わりがないと。
女性の鼠径部へのこだわりが尋常ではない。
ネタでもなんでもなく僕は庵野秀明が撮影したアダルトビデオを見たいと思っている。
僕のエントリープラグからLCLを放出させてくれると信じている。
アニメーションづくりの技法を学びんだ庵野秀明は新世紀エヴァンゲリオンを作り上げた。
この写真を見るだけで心拍数が上がるギャンブラーも少なくないのではないだろうか。
庵野秀明を創作の巨人へと押し上げた作品で間違いないと思う。
思春期の少年、碇シンジを取り巻くリアリスティックな人間関係と特撮要素であるエヴァンゲリオンや使途をうまく融合させ、社会現象を巻き起こした作品だ。
僕はまだよちよち歩きだったので知らないが、それはもうとんでもないブームだったらしい。
成人した僕がエヴァンゲリオンのパチンコで遊戯したことを親戚の集まりで伝えると両親、叔父、叔母が口をそろえて「アニメも見ろ」と言っていた。
父は「今のエバは出るんか⁉」と目を輝かせていた。
アニメ本編のみならずそれを再編成した劇場版までヒットを記録したエヴァンゲリオンだが、庵野は一度アニメ制作から手を引き、実写映画を作成する。
僕もこの展覧会で初めて知ったのだが実写版キューティハニーは庵野秀明が監督だった。
当時は「倖田來未がキューティハニーを歌ってんなぁ~」としか思わなかった。多分庵野秀明はサトエリでシコったと思う。僕ならシコる。
これは完全な僕の想像だが実写映画を何本か作った庵野秀明はこう思った
「ウルトラマン作りてぇ~~~~~~~~」
「でも金がねぇ~~~~~~~~~~~」
「そういやエヴァとかあったな、アレはまだ出汁が出そうだ」
そんなこんなで制作されたのがヱヴァンゲリヲン新劇場版なのだが、この作品が庵野を苦しめる使途となる。
唐突だが皆さんは若かりしころの消したい記憶というものは無いだろうか?
それは自作の小説かもしれないし、恋愛関係かもしれない、あるいは飲み過ぎた日の言動かもしれない。
もしその過去を、日本中から「もう一回発表して!」「アレどういう事?」とほじくり返されたらどうだろうか?
庵野秀明にとってエヴァンゲリオンをヱヴァンゲリヲンに再構築するとはそういう作業なのではないだろうか、もちろん黒歴史などではなく、誇るべき立派な歴史なのだけれども性質は似ているように思う。
大ヒットしたアニメ、しかも単純なヒットではなく様々な考察や論争を巻き起こし、社会現象となった作品を再構築する。
リメイクではなくリビルドだ、過去の自分が作った作品に出てきた要素を使い、なおかつ物語の概要は変えずに、より面白いものを作る作業だ。
なおかつ、この作品をヒットさせなければ特撮映画作成にも出資は集まらない。
民衆の期待、不安、そして資本主義。
庵野秀明はそんな使途との戦いに一度は敗北しそうになり、精神を病んでしまった。
新劇場版3作目と4作目の間の事だ。庵野秀明はこの間に後述するシンゴジラに携わる。
3作目のヱヴァンゲリヲン新劇場Qを見た観客は一様にこう思った。
「説明を!しろよ!」
先ほどリメイクではなくリビルドと言ったが、その振れ幅がとんでもなかった。
主人公である碇シンジは10年以上眠っていたという設定の下、アニメ版や旧劇場版とは全くことなるストーリーが展開される。
新劇場版の1作目と2作目を見た我々は「カレーをスープカレーにしました」ぐらいの再編成だと思っていた。
まさか具材取り出して肉じゃが作られるとは思わなかった。
先ほども述べたように、主人公である碇シンジ君は我々観客と同じ立場だ。
10年ぶりに目が覚めて「そういや昨日のカレーまだ残ってるかな~」と思ったら鍋の中身が肉じゃがだったのだ。
そして周りの大人たちはなぜカレーが肉じゃがになったのか一切説明してくれない。これには怒り心頭である。
主人公と観客の心は一つになったが、監督である庵野秀明への不信感は募ってしまった。
また、そんな作品を発表しておきながらエヴァを完結させず、特撮映画「シンゴジラ」を作成したのもファンをイラつかせた。
「早くエヴァ作れよ」
僕もそう思ってしまった。
そんな世間の声や高まる期待、興行収入へのプレッシャーから庵野は一度心を病んでしまった。
そんな庵野を支えたのは自らを形作った原点である特撮ヒーローたちだった。
ウルトラマン、仮面ライダー・・・・そんなヒーローたちを好きなように動かす。
シン・ウルトラマンとシン・仮面ライダーの制作は間違いなく庵野の心のよりどころになったはずだ。
おっきいヒーローとちっちゃいヒーローに支えられながらシン・エヴァンゲリオンを完成させ。エヴァンゲリオンとヱヴァンゲリヲンの両方を(割と強引に)終わらせた庵野は本格的に特撮映画を作り始める。
今まで自分を形作り、支えてくれた大好きなヒーローを。
庵野秀明の数十年に及ぶ知識のアウトプットが、大爆発が始まる。
まずはシンエヴァンゲリオンと並行して制作していたシンゴジラだ。
ゴジラは国境どころか次元を超え何度も映像化されている。
数十年前から手を変え品を変えエンタメの素材となっているゴジラさんだが庵野秀明はゴジラを素材ではなく出汁として使った。
シンゴジラは数年前に公開され、各種定額課金サービスでも配信されているので多少のネタバレは許されると思うがシンゴジラはゴジラの話ではない。
ゴジラと戦う人間、というか日本人が主役である。
現代日本にゴジラが上陸した場合に内閣、自衛隊といった政府が現行の法律に基づいた超法規的措置による対応を行ったり生物学者を始めとする各分野のエキスパートが知恵を絞るストーリー展開は非常に面白かった。
で、シンウルトラマンである。
少年期の庵野秀明が見続けて
青年期の庵野秀明が演じ続けて
壮年期の庵野秀明がやっと作ることになった
ウルトラマンである。
まだ公開中の映画なのでネタバレは控えるが、「ラーメン屋でラーメン頼んだらチャーシュー麺に味玉ついて来た」という感想が的を得ていると思った。
まだ見ていない人がいるならマジで今すぐ映画館に行って欲しい。
その手に持ってるスマートフォンを質に入れてでも見に行け。
頼む、マジで、いやホントに、お前に言ってるんだ。
監督は樋口真嗣だけどもう随所に庵野秀明が漏れ出てる。
多分庵野秀明というウルトラマンを止める為にアサインされた樋口監督の姿が目に浮かぶ。
最終的にはウルトラマンごっこをするおっさん二人が出来上がっただけなんだけど。
ウルトラマン見たか?文体が変わった?知らん知らん、ウルトラマンはそのくらいの衝撃なんだ。見ろ。
そして来年に公開を控えているシン・仮面ライダーを紹介するコーナーに入る。
もうこれが全てだ、最高だ、ありがとう庵野秀明、マジでありがとう。
やっぱ仮面ライダーってね、カッコいいんだよ。
等身大のヒーローとでも言うべきだろうか。
変身、バイク、昆虫
エンタメのお子様セットなのよ。
心から楽しみにしております。
最後は庵野が作ってきた、そして作る予定の一体と一匹と一人が見送ってくれる。ここにエヴァがいないのが「庵野秀明展」らしくてよかった。
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