豪華!柳町監督二本立て(2)「さらば愛しき大地」
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「ゴッド・スピード・ユー!」のなんとも言えない魅力にやられて、柳町監督の劇映画も観てしまいました。「さらば愛しき大地」!1982年の映画です。
冒頭、「巨人の星」の星一徹が(・・・って観た事はないんですが)ちゃぶ台をひっくり返したようにグチャグチャになってる家を「暗い顔で」掃除する家族、一族。これ以上の乱行をしないように柱に縛り付けられた男は根津甚八!いかにこの男が短絡的で粗暴かを、直接的な暴力を映す事無く見事に短時間で描写。この省略の妙が映画だよなー、と感心してましたが・・・。
あっという間に淡々と愛息2人が溺死という悲劇、そしてボコボコにされる妻の山口美也子さん・・・姿かたちは置いといてなんかその薄幸さというか不美人感(いや、撮り方によっては美人になると思う、となぜか必死でフォロー)、なんかイヤーなものを観始めちゃったのかな、という予感がしてきます。
亡き愛息の戒名かなにかをいきなり入れ墨する根津甚八、なかなか直情径行型の男がサマになっていて素晴らしい!けど、絶対身近に居てほしくない人物ですな。。。そして、秋吉久美子サマの登場!この「どうしようもない田舎にもいそう感」とそれに矛盾するかのような華のあるスタアのオーラと業の深そうな感じ・・・。彼女がいるのといないのとではこの映画の出来が何割も違っていたハズ。
暴走族映画で世に出た柳町監督、やはり根っからの乗り物好きらしくこの映画でフィーチャーされるのはダンプ。農業だけでは食っていけないのかダンプトラッカーが大挙して登場します。平和な農村風景に対する黒光りするダンプの一群。変質してしまった日本の農村に異議申し立てをしてるような、しかし風景を一変させてしまうダンプの力強さを称賛してるような絵がとても印象的。そして、ぽろっと秋吉さんから「デカい車に乗っていると自分がデカくなったように<錯覚>するんだよね」との一言。乗り物好き、バイクや車がアイデンティティーの大きな部分を占めてる人には禁句のような一言!「それを言っちゃあおしめえよ」・・・は寅さんですが柳町監督の容赦ない姿勢が窺い知れて、先行きが不安になりました笑
その流れのままにデキてしまう根津甚八と秋吉さん・・・そんな2人の間に割り込んでくる矢吹治郎さん!根津さんの弟で秋吉さんの元カレ、という微妙な立場でありますね。そもそも、根津さんが粗暴になってしまったのも両親がデキの良い(=世間に認められる能力に長けた)治郎さんをかわいがっていて・・・っていう事情はこの映画に通奏低音のように流れていて。まあ誰が見たって根津さんより治郎さんを可愛がるだろっていう演出は細かくなされてて。治郎さんもそんな気まずさを感じてか東京に行ってたんだけど帰って来るっていう絶妙な設定。実世界では毒も華も運動神経もよく分からないオーラも全て兼ね備えた偉大過ぎる実兄「千葉真一」を兄に持ってしまったが故に苦しんだ面もあっただろう治郎さんをこの役にキャスティングするサディスティックな柳町監督!しかし、この映画上の設定を意気に感じた千葉次朗さんは生涯ベストバウトじゃないか、というくらい愚兄賢弟を地で行く存在感を発揮していました。
矢吹治郎さんの話で血圧が上がりましたが、愚兄の根津甚八さんは公然と秋吉さんとくっついていて、それを「自分がイヤだから」「奥さんが悲しがっているから」ではなく「世間体が悪いから」っていうロジック無き論理で辞めろ辞めろと迫る日本の農村の大人たち。こういうのは自分にも幼少期から真綿にくるまれるように迫られたイヤな感覚です。こういうのがイヤだから東京に脱出してきたんだな、と改めて眼前に突き付けられた感じ。裏返すと「世間体」さえ良ければどんな事でも平気でできちゃうっていう恐ろしさ。
そういうプレッシャーがあったのか、生来単にキモチイイ事が好きなのか、いつの間にかシャブにハマってゆく根津甚八。。。さっきまで如才なく有力者に矢吹治郎さんを紹介していたのに・・・。こういう「善」であった部分をキッチリ描くからこそ悲劇性が高まりますよね。
ここから先は根津さんの転落劇でシャブを教えられた蟹江敬三さんが「シャブをやるとドモリが治るんじゃ」と怪しげな効能を説いたりシャブ中特有の被害妄想が描かれたりどんどん救いがない展開に。溝口敦さんの「薬物とセックス」を最近読みましたが、
やはりシャブはカップルでセックスのために使うケースが多いらしく、映画の中では必死に秋吉さんがシャブの使用をやめさせようとしてましたが、現実では内縁の夫婦もろともシャブ地獄に堕ちてたんだろうなー、と。柳町監督のせめてもの優しさというか・・・。
根津さんがシャブ中になってい様子を見ていると、いかにもな日本的な風景しか出てこないのに反して、どんどんUKかどこかの外国のどうしようもない出口のない田舎の映画を観ている錯覚に陥りました。田舎・ドラッグ・肉体労働の悪いパターンってたぶん世界共通なのかもしれません。
と、最初の歯切れのよい演出はナリを潜めて、最後は「どっから出てきたんや!」と観客みんなが思う小林稔侍と山口美也子さんの豚小屋前ファックシーン。70年代に東映実録路線でいかにも短絡的思考で突っ走るチンピラ稔侍と「お父さんにしたいタレントランキング」?で上位を占めるようになった小林稔侍さんとのミッシングリンクですね。それにしても不快感しか与えないこのファックシーン!逆にスゴイです・・・。
と、長く語ってきましたがラストシーンではやはり美しい日本の自然が前面に出てきて切ない気分になりました。人間の営みは醜いけど、自然は美しい。都会の人にはピンと来ないかもしれないけど、田舎モンには観てほしい映画かも(体調の良い時に限ります)。