DH制における選手起用の柔軟性
セパ共に120試合を無事消化し、CSのないセリーグからは巨人、パリーグからはCSでロッテを叩きのめしたソフトバンクが、これから日本シリーズに入るという段階で一つのニュースが飛び込んできました。今年の日本シリーズは「全試合DH制あり」で試合をするというものです。「通常のシーズンとは疲労度が違うので、投手故障のリスクを抑えるために」などを理由にソフトバンク側が巨人に提案し、それを巨人が承諾した形で決定されたようです。当然普段からDH制を敷いているソフトバンクが有利になると思われますが、結果はいかに。
それはさておき、今回全試合DH制を提案した理由を見ればわかる通り、「DH制がないと投手の故障リスクは高まる」という考えを球団側が持っているということがわかりました。昨年の日本シリーズで巨人がソフトバンクに惨敗してからというもの、セリーグでもDHを導入すべきかという議論が幾度となく野球関係者や野球ファンの間で交わされてきました。そして今回、「DH制を普段から敷いているチームはそうでないチームに比べて有利な部分がある(投手故障リスク)」というのを球団が発信したことで、セリーグDH制導入へ一歩前進した感があります。なんせ巨人の原監督はセリーグDH導入派筆頭ですし、そういう事も考えに入れて今回の話を承諾した可能性も0ではないと思います。
私自身阪神ファンであり、セリーグのDH導入に関しては賛成派です。
今シーズン「あぁ、セリーグにもDH制があれば…!」と思ったことは1度は2度ではありません。
今回、DHについての考えを纏めるいい機会だと思い、「DH制においての選手の起用しやすさ」を私なりに整理してみました。
DH制において起用しやすくなる選手
1.守備難の選手
これは一番わかりやすい例です。打力は高いが守備に難があり起用しづらい選手は、DH制によって起用しやすくなります。(例:デスパイネ)
セリーグで言うと、広島の松山選手が一番恩恵を受けると思います。
松山は勝負強い打撃で広島打線を支える一方、守備面で大きく足を引っ張り、WAR(そのポジションの代替可能選手に比べてどれだけ勝利数を上積みしたか表す指標)においては-1.9とかなり低い数値をたたき出しています。
DHさえあれば松山をDHに置けるのに…と思った広島ファンは少なくないはずです。
2.ケガしがちな選手
打力はあるがケガにより守備につかせづらい、守備時に全力プレーをすることができない選手もDH制により起用しやすくなります。(例:ロメロ)
セリーグであれば阪神の糸井、横浜のオースティンが恩恵を受けそうです。
糸井は足に不安があるためにケガをしないような安全なプレー、悪く言うならば緩慢な守備をする姿が見られます。
オースティンはその逆で、守備でハッスルプレーを見せるため、その際にケガをしてシーズン中に何度か離脱しています。
こういった選手をDHに置くことで、ケガのリスクを減らしつつ打線の厚みを保つことができます。
3.レギュラー選手の休養枠
DHの選手は守備につかないため、試合時間の多くをベンチで過ごします。ということは当然、疲労は守備について1試合をこなす時に比べ、かなり軽減されます。
レギュラーシーズンを戦っていく中で、疲労により調子を落とす選手は珍しくありません。なので全選手にある程度の休養を与えながら143試合を戦い抜くのが理想です。普段から複数選手を併用しているポジションであればレギュラー選手をスタメンから外し休養を挟んでもそれほど影響はありませんが、チームの核であり打線に欠かせない不動のレギュラー選手のポジションの場合は、打線としてのパワーをかなり落としてしまいます。
しかしDH制があれば、その核となる選手をDHに入れることで、打線のパワーを保ちつつ、レギュラー選手の疲労を軽減することができます。
また細かい点で言えばスタメン出場やフルイニング出場に関する記録を達成しやすくなる面もあります。(実際セリーグにDH制があれば金本選手の連続フルイニング出場記録はもっと伸びていた可能性は高いと思います)
4.守備型選手のスタメン起用
ここでは「投手が打席に立たないこと」に着目します。
セリーグの試合では投手が打席に立ちますが、その多くは打撃を得意としていません。2020シーズンでは、10回以上打席に立った投手で打率が2割を超えたのは梅津(.333)ガンケル(.273)大瀬良(.263)田口(.214)福谷(.207)高梨(.207)の6選手だけです。
つまりセリーグのチームは、いわゆる「自動アウト」を1人抱えたスタメンを組まざるを得ません。その上で、守備が良いが打撃は不得手な「自動アウト」選手をスタメン起用すると、8番や7番まで「自動アウト」になってしまい、相手からすれば中軸を避けて下位打線で勝負すれば良くなるので、打線としての怖さがありません。また、大量得点というのは下位打線がランナーを貯めて上位打線に回すパターンがよくありますが、守備型選手を起用するとその機会も少なくなります。
DH制があれば投手が打席に立たないため、1人くらい守備型の選手をスタメンに据えても打線の怖さをある程度保つことができます。
5.同ポジションに不動のレギュラーがいる選手
ファームでいい成績を残しているのに、1軍の同じポジションに不動のレギュラーがいるために、1軍での出場機会が得られない選手が生まれることがあります。最近では皆複数ポジションを守れて当たり前になってきているので、こういう事は減ったと思いますが、本職のポジションで出られなかったり、代打で出場機会を得るにしても1試合に1打席しか立てません。しかしDH制があれば、レギュラー選手をDHに置くことで打線の核を変えることなくサブ選手を本職の守備位置で使えますし、サブ選手をDHに置けば代打で出場させるよりも多くの打席を与えることができます。
また、補強の際に守備位置度外視で打力の高い選手を獲得する、ということもDH制が無い場合に比べて容易になります。
DH制において起用しづらくなる選手
1.代打
先日、真弓明信さんが記事で語っていた内容を一部抜粋します。
指名打者が入ることで選手の活躍の場が広がるという意見もあるが、逆ではないか。投手が打席に立つことで、代打が複数人、必要になり、継投の機会も増える。DH制では投手、野手ともにそれほど多くの選手を必要とする試合は減るだろう。打つだけの選手が救われて、選手起用の幅が広がるというのは疑問だ。
実際、2020年の代打打席数はセリーグが1408打席、パリーグは664打席となっており、代打で起用された選手の数もセリーグが150人、パリーグが119人とセリーグの方が多くなっています。確かにセリーグの方が多くの選手が起用される面もありますが、そもそも投手が打席に立つ関係で野手の打席数がパリーグよりおよそ280打席ほど少ないという面もあります。見方を変えれば、セリーグのサブ選手はパリーグより少ない打席数をパリーグより多い人数で分け合っているとも言えます。育成面において、代打で多くの選手を出せるのと、スタメンで使える野手が一人増えるのではどちらが有利なのかは一概に言えませんが。
2.中継ぎ
セリーグでは、先発投手が好投していても、打順の巡りによって代打を送られるケースがあります。例えば、7回無失点で好投を続けているが、自チームも無得点により0-0。その裏に1死満塁のチャンスで投手に打席が回ってしまった場合、セリーグ監督の多くはここが勝負と見て代打を送るでしょう。
投手に代打を使う分、より多くの投手の登板機会がある、というのが真弓さんの考えです。
しかし現代野球においては中継ぎの登板過多が問題視されることも多く、細かく投手交代をする場面というのは大抵接戦であり、出てくる投手は勝ちパターンの限られた投手です。
また、セリーグでは「走者ありで投手に打席が回れば代打を出すけど、走者なしなら続投」のような場面もあります。すると、その後に控える中継ぎ投手は準備したのに登板しなかったり、または急いで肩を作ったり…と、DHありに比べ余計な疲労を貯めやすい環境にあります。このnoteの最初に述べた「投手故障のリスクを抑えるために」はこのあたりに関わってくると思われます。
つまり、DH制により使われる中継ぎは減るかもしれないが、それ自体を一概に悪いと言えるかは疑問、だと思います。
最後に
ここまで色々と書きましたが、私自身の結論としては「DH制は編成面においても起用面においても、ない場合に比べて柔軟性がかなり増す。出場選手の幅が狭まる可能性もあるが、それ以上にメリットが大きい」となります。
もちろん、投手の打席が見たいという意見や、セリーグとパリーグで違いがあるから面白いんだという意見もわかりますし、それらを頭ごなしに否定する理由もありません。しかし、1度変えたルールを戻すのは難しいですし、DHのあるなしでチーム編成が変わることもあるので、議論は慎重に進めるべきだとは思います。が、個人としては「DH制がある方がケガのリスクが低いことを承知してるなら選手のためにも導入すれば良いのに」とも思うわけです。
日本シリーズが終わった後の原監督の動向に注目したいですね。
自分の考えを纏めるために書いたnoteではありますが、もし目を通していたただいた方がいるのであれば、ここまで読んでいただきありがとうございました。