異世界SE_脚本(シナリオ)
※1話読み切りの漫画用の脚本(シナリオ)です。
※横読み漫画で50p前後の尺になるかと思います。
※こちらの企画書・プロット、小説も投稿しています。
■タイトル
「社畜SEですが、異世界で機械人形たちのメンテナンス係やってます!」
■登場人物
栄田充央(26) システムエンジニア
エリザ(18) 機械人形
エカラ(18) 機械人形・エリザの双子の妹
ヒナ(6) 村人
■脚本(シナリオ)
○現代日本・IT企業のオフィス(夜)
社屋外観。
人気のない暗いオフィス、壁時計の針が午後十時を回っている。
栄田充央(26)が自席でひとり、残業をしている。
電話が鳴り、充央、受話器を取る。
上司の声「この無能―――!!」
受話器越しに上司の大きな怒鳴り声。
上司の声「顧客要望なんだよ! 言われた通りの期日までに、なんとしてもやれ!」
充央、ため息をついて、
充央「ですから、今回のご要望は仕様変更にあたりますので、納期の見直しと追加の料金が……」
上司の声「顧客にそんなこと言えるわけないだろ! いいからやれ!」
ガチャンと一方的に切れる電話。
充央、受話器を置き、再びパソコン画面に向かう。
充央「……疲れた」
げっそりと痩せこけた充央の顔。
震える指でキーボードを叩きながら、
充央M(モノローグ)「今日で何連勤目だ? 家に帰りたい……こんな生活もう嫌だ……」
充央、うつらうつらと前後に揺れ、モニターに額をぶつける。
額から流血。
しかし、過労で痛覚が鈍くなっている充央、流血に気付かない。
充央M「そもそも、なんで俺SEになろうと思ったんだっけ?」
パソコンから、エラーを知らせる警告音が鳴り響く。
充央M「思い出せない……眠い……」
限界を迎え、デスクに倒れ込む充央。
○表紙(タイトルページ)
○アセンブリ帝国・村近くの荒野
――で、うつ伏せになっている充央、目を覚ます。
充央「はっ!?」
充央の前方には黒く汚染された大地。石垣を挟んで、後方には小さな村が見える。
充央、石垣に手をつき、
充央「どこだ、ここ……」
途方に暮れていると、汚染された大地からモンスターが湧き、充央に襲い掛かってくる。
充央「うわああああ!!!」
と、後方からエリザとエカラが走ってきて、
エリザ「伏せろ!」
充央「!?」
大きな剣を持ったエリザ、石垣を蹴って空へ舞い上がり、
エリザ「これでとどめだ!」
巨大なモンスターに斬りかかる。
モンスターA「ぎゃああああああ!!」
断末魔を上げ、霧散するモンスター。
しかし、新しいモンスターが次から次へと別の場所に湧き出てくる。
エカラ、エリザの前に躍り出て、
エカラ「姉さま、ここは私が!」
エリザ「ああ!」
エリザ、エカラにその場を任せ、新しいモンスターたちと戦い始める。
充央「な、な、何なんだ、一体……!?」
充央、パニックになっていると、服の裾を誰かに引っ張られる。
振り返ると、村人らしき少女・ヒナがいて、
ヒナ「騎士様たちの邪魔しちゃだめだよ、お兄ちゃん! こっち、こっち!」
ヒナの手招きに従い、石垣に身を隠す充央。
充央「騎士様?」
ヒナ「そうだよ。私たちの村を守ってくださってるの」
圧倒的な実力で、次々と敵を倒していくエカラ。
一方、モンスター達を相手に苦戦するエリザ。
その様子を石垣から恐る恐る覗き見ていた充央、
充央「だ、大丈夫なのか?」
ヒナ「大丈夫! 騎士様は私たちとは違う。とっても強いゴーレムなんだから!」
充央「ゴーレム?」
目を輝かせる充央。
充央M「それロボットってことだよな? 人間みたいに見えるのに。すげー!」
興奮した充央、エリザとエカラの様子をもっとよく見ようと石垣から 身を乗り出す。
モンスターが目をぎょろりと充央に向ける。
エリザ「……っ! 馬鹿! 隠れてろ!」
エリザ、全速力で充央の元へ走って向かい、モンスターの襲撃から充央を庇う。
エリザ「ぐっ!」
エリザの左腕が吹き飛ぶ。
ヒナ「騎士様!」
悲鳴をあげるヒナ。
顔面蒼白で震える充央。
エカラ「貴様! 姉さまによくも!」
エカラ、怒った顔で走ってきて、モンスターを倒す。
だが、モンスターはさらに湧いてきて。
エカラ「ちっ、キリがない……」
エリザ「一気に片を付けるぞ。援護を頼む」
エカラ「了解」
エカラ、右手しか使えないエリザを支えながら、一緒に地面に剣を突き立て、
エリザ「汚染状況、確認。レベル3。インターロック限定解除。これより敵を一掃する」
エリザとエカラ、剣を構え、同時に技を放つ。
エリザ&エカラ「喰らえ! ファイアーアバスト!」
充央「……!」
辺り一帯、炎に包まれる。
モンスター達が霧散し、地面の色が元に戻る。
エリザ「――浄化作業完了」
エリザ、剣を鞘に納める。
充央M「す、すごい……あんなにいた敵が一瞬で……」
ヒナ「騎士様!」
ヒナ、笑顔でエリザに駆け寄っていく。
エリザ「怪我はないか? そこの客人も」
ヒナの頭を撫で、充央に視線を向けるエリザ。
充央「いや、それはこっちの台詞! 君の方こそ! 血! 血が!」
エリザを指さし、狼狽する充央。
エリザ、流血している左腕を庇いながら、涼しい顔で、
エリザ「問題ない。すぐに治療する」
エカラ、頷いて、石垣の陰に置いていた荷物の中から旧式のパソコン一式を取り出す。
充央、怪訝な顔をして、
充央「パソコン?」
エリザ「知らないのか?」
充央「いや、知ってるけど。そんなことより、怪我なら早く病院に行った方が……って、ええっー!?」
驚く充央を無視し、エカラ、パソコンのケーブルをエリザの背中に接続する。
エリザ「私はゴーレムだからな。病院など必要ない。プログラムを書き換えれば、いくらでも修復可能だ」
充央「そんな馬鹿な……」
充央、半信半疑でエリザを見つめる。
エリザ、荷物の中から古文書を取り出し、該当ページを見ながら、
エリザ「public static void main……」
エリザ、一本指打法でキーボードをのろのろと押す。
充央、驚いて、
充央M「そんな馬鹿なー!(2回目)」
見かねた充央、エリザのそばに駆け寄って、パソコンを奪い、
充央「貸せ! なんだかよくわからないけど、このプログラムを打てばいいんだな!?」
古文書の記述を頼りに、プログラムを高速で打ち始める充央。
エリザ、困惑して、
エリザ「何だ貴様、その指さばき……もしや魔導士……うっ!」
エリザ、痛みに呻く。
充央「喋るな! 俺はどこにでもいる、普通のSEだよ!」
充央、真剣な表情でプログラムを打ち込み、最後に華麗にエンターキーを押す。
エリザの体が光で包まれ、瞬く間に左腕が修復されていく。
充央「本当に治った……!」
腕だけでなく、破れていたエリザの服や装備も綺麗に治る。
ヒナ、興奮した面持ちで、
ヒナ「お兄ちゃん、すごい! 魔導士様なんて初めて見たよ!」
充央「だから俺は魔導士なんかじゃ……栄田充央っていう普通の名前があってね……」
少女「私はヒナ! 騎士様たちは……」
言い淀み、エリザとエカラをちらっと見るヒナ。
エリザ、淡々とした表情で、
エリザ「私たちには名前がない」
充央「え……」
エリザ「私が姉で、こっちが妹だ。好きに呼んでくれて構わない」
充央に向かってお辞儀するエカラ。
エリザ、正面から充央を見つめ、握手を求める。
エリザ「改めて礼を言おう、魔導士どの。……いや、ミツオどの」
充央「ミツオでいいよ。こっちこそ、さっきは庇ってくれてありがとう」
エリザと握手する充央。
○同・村の広場(夜)
村人総出で、充央を迎える宴が開かれている。
村人A「ささ、飲んでください、魔導士様」
村人B「騎士様を助けてくださって、本当にありがとうございました」
村人から注がれた酒をありがたく飲む充央。
村人A「騎士様は村の守りの要です。最近は『穢土(えど)』から発生するモンスターの数が増えて、騎士様おふたりの力だけでは心許なく……」
村人B、拳を握りしめて、
村人B「ですが、魔導士様が来てくださったからには、我が村は安心安全! 末永く安泰です!」
充央「あの、俺……ずっとここにいるって決めたわけじゃ……」
村人A「なんですってー!?」
大きく目を見開き、仰け反る村人A。
村人B「決めてください! 今すぐ!」
村人A「逃しませんよ!」
村人Aと村人Bに両側から腕を掴まれ、困惑する充央。
夜空に焚火の火の粉が舞い上がる。
○同・村の宿屋・2階(夜)
充央、部屋に入ってくる。
ベッドに腰かけていたエリザ、充央を見て、
エリザ「遅かったな、ミツオ」
充央「えっと……」
エリザかエカラか一瞬見分けがつかず、戸惑う充央。
エリザ「私は姉の方だ。妹は今、隣村へ調査に行っている」
充央「調査?」
エリザ「なんでも新手のウイルスが流行っているとか……。隣村の騎士から救援要請が来てな」
充央「え? それ、君は行かなくていいの?」
エリザ、寂しそうに目を伏せ、
エリザ「私が行っても足手まといになるだけだ。今は他にやるべきことがある」
エリザ、充央をじっと見つめ、
エリザ「ミツオにしか頼めないことだ」
充央「!?」
困惑する充央。
エリザ、おもむろに服を脱ぎ始め、
充央「わー! 何してんの!?」
エリザ「服は邪魔だろう」
充央「じゃ、邪魔って……!?」
突然のラブコメ展開に、童貞らしく赤面する充央。
エリザ「悪いが、事は一刻を争う」
充央「そんな……っ!」
充夫M「俺まだ心の準備が!」
きょろきょろする充央。
エリザ、下着の肩ひもを外し、悩ましい表情で、
エリザ「ミツオ……」
と名を呼び、さらに充央の耳元で、
エリザ「私の……体を……」
充央「……!」
エリザ「メンテナンスしてくれないか?」
すっころぶ充央。
充央M「期待したー! 俺の馬鹿―!」
心の中で泣く充央。
エリザ、首を傾げ、
エリザ「どうだ? するのか? しないのか?」
充央「するよ! しますよ! 俺にできることならね!(号泣)」
エリザ「助かる」
エリザ、充央に古文書(マニュアル)を差し出す。
エリザ「昼間、治してもらったばかりで悪いが、長年酷使したせいで、体中にガタがきていてな」
充央、マニュアルを受け取り、エリザの背中にパソコンのケーブルを接続する。
充央「具体的にどこが悪いの?」
エリザ、振り向いて、自分の胸の谷間を指さし、
エリザ「ここだ」
充央「胸……?」
エリザ「私のコアが入っている」
充央「えっ!? うわっ!」
エリザ、充央の手をとり、強引に自分の胸に触らせる。
エリザ「わかるか?」
充央、赤面しながらも、指先の感覚に集中する。
しばらくして、異変に気付き、
充央「鼓動が……遅い?」
エリザ「そうだ。日に日に稼働効率が落ちている」
エリザ、悲しそうに目を伏せて、
エリザ「今まで自分なりに古文書を読み解き、メンテナンスしてきたつもりだが……」
エリザの話を聞きつつ、パソコンを起動した充央、
充央「うわ、なんだ、このソースコード! ぐちゃぐちゃ!」
パソコンに表示された画面を見て、頭を抱える充央。
充央「ああ、もうわかったから! 君はそこでじっとしてて」
エリザ「私は治りそうだろうか?」
充央「治る治らないじゃなくて、治すんだよ! まずはバグを一つずつ見つけていくから」
エリザ「感謝する。頼もしいな、ミツオは」
充央「……っ!」
照れる充央。頬を掻きながら、
充央「別に……技術者として当たり前のことをするだけだよ」
○充夫視点ダイジェスト・村の宿屋・2階
充央M「それから本格的に彼女のメンテナンスが始まった」
USBケーブルを接続したまま、ベッドに寝ているエリザ。
パソコンに向かって作業をする充央。
充央M「彼女の体は複数の旧式言語でプログラムされており、よく今まで動いていたなと感心するほど、ひどい状態だった」
古文書(マニュアル)を読み込む充央。
充央M「従って、1回のアップデートで済むわけもなく……古文書を読み解き、テスト環境を作ってみたりと、試行錯誤の毎日だ」
エリザのテストボディを作るため、ドライバーを片手に工作を試みる充央。
失敗し、テストボディが爆発。
充央M「失敗することもあるけれど、俺の技術が必要とされていると思うと、自然とやる気が湧いてくる」
充央、パソコンの前で目の下にクマを作りつつ、充実した表情で、
充央M「そうだ、俺がSEになろうと思ったきっかけは……」
充央、窓の外の朝日を見つめる。
◯村の宿屋・2階(朝)
朝日を見つめる充夫のもとに、エリザがマグカップ(コーヒー)を持ってやってきて、
エリザ「はかどっているようだな、ミツオ」
エリザ、マグカップを充央の机に置く。
エリザ「まるでお前の方がゴーレムに見えるぞ」
充央「え?」
エリザ「人間というのは毎日8時間ほど睡眠が必要なのだろう?」
充央「つい集中しちゃって……」
充央、照れ笑い。
充央「君こそ、体の調子はどう?」
エリザ「上々だ。おかげさまでな」
充央「よかった。でも、無茶はすんなよ。君の体は今、継ぎ接ぎだらけなんだから」
エリザ「修正パッチというやつだろう? わかってる」
充央「できたら実戦の前にテストをしたいところだけど……」
と、部屋に村人Aが駆け込んできて、
村人A「騎士様、大変だ! 妹君が! ……ぐああっ!」
村人A、背後から斬り倒される。
村人Aの体を踏みつけて、ゾンビ化したエカラが現れる。
エリザ「お前……!?」
充央「隣の村に行ってたはずじゃ……」
エカラ「ヴォ~~~ヴグォ~~」
エカラ、充央とエリザに襲い掛かってくる。
エリザ「危ない!」
エリザ、咄嗟に充央を背中に庇い、エカラの一撃を剣の鞘で受け止める。
その衝撃で床に亀裂が走る。
充央「部屋が……」
天井からパラパラと降ってくる壁紙。
崩壊寸前の建物。
エリザ「外へ出るぞ! ミツオ」
エリザ、2階の部屋の窓から外に飛び降りる。
充央、一瞬迷ったあと、パソコン道具一式を持って、一緒に飛び降りる。
〇宿屋の外(朝)
激しく斬り合っているエリザとエカラ。
と、少し離れた場所からそれをはらはらと見つめる充央。手にはパソコン道具。
エリザ「……っく、やめろ! 一体どうしたんだ!?」
エリザ、エカラの攻撃を必死に受け流す。
エカラ「ヴガァ~~グォ~~」
エリザ「私の声が聞こえないのか!?」
悲壮な顔で叫ぶエリザ。
充央M「完全に正気を失ってる。たしか隣の村では……」
充央、エリザが言っていたことを思い出し、
充央「妹さんは新手のウイルスにかかったのかもしれない」
エリザ「ウイルスに?」
充央「隣村で流行ってるって言ってたろ」
エリザ「馬鹿な! 私たちはゴーレムだぞ!?」
充央「コンピューターウイルスって言って、機械でもかかる病気があるんだよ!」
エリザ、納得して頷き、
エリザ「なるほど。それなら話は早い」
エリザ、一度エカラから間合いをとり、充央のそばにやってくる。
エリザ「ミツオ、あの子のウイルスを除去できるか?」
充央「!?」
充央、はっと顔を上げる。
エリザ「あの子は私の後継機だ。普通に戦えば負けてしまう」
体をありえない方向にボキボキと曲げるエカラ。
エリザ「私が足止めしている隙に、ミツオはあの子を正気に戻してくれ」
充央「そ、そんな……」
充央M「できるわけない!」
充央、悲壮な表情でエリザを見遣り、
充央M「でも俺がここで諦めたら、彼女が死んでしまう。ただでさえ、メンテナンス中でボロボロの状態なのに……」
充央、ぐっと拳を握りしめて、
充央M「勇気を出せ、俺! できない理由より、できる方法を探すんだ!」
エカラ「ヴォ~~~オオオ!!」
エカラ、全力で襲い掛かってくる。
充央、エカラの体を素早く観察し、
充央M「あの子もゴーレムだ。体の造りが彼女と同じだとすれば、恐らく……」
エリザ、エカラの攻撃を必死に受け止めながら、
エリザ「行くぞ、ミツオ!」
充央、やる気に満ちた表情で頷き、
充央「ああ……!」
エリザ、ふっと微笑み、エカラの剣の前に躍り出る。
エカラの剣が、エリザの胸を正面から貫通。
充央「……っ!? 何やって……!」
目を見開く充央。
エリザ、荒い呼吸をしながら、
エリザ「……足止めだ。長くは、もたん、ぞ……」
充央「馬鹿! そんな無茶しろなんて言ってない!」
エリザ「いいから早く……今のうちに……」
充央「わかってるよ!」
充央、素早くエカラの背に回り込み、USBケーブルを接続する。
エカラ「ヴ……ア……?」
エカラ、エリザに刺さったままの剣を抜こうともがく。
エリザ、剣身をしっかりと両手で掴み、エカラに抜かれるのを防ぐ。
エリザ「いい子だから……大人しく、メンテナンスを、受けるんだ……」
エカラ「ア……ア……」
充央、高速でキーボードを叩き、
充央M「全ディレクトリ、タスクマネージャー、異常なし。隠しファイルもない。なら、あとはレジストリに……あった! これだ!」
充央「ウイルススキャン完了! アンインストール開始!」
エカラ「ウガァー! ヴオオ!」
うめき声をあげるエカラ。
充央「20%完了!」
充央、PC画面を見ながら進捗を報告する。
地面にぼたぼたとエリザの血が垂れる。
エリザ「痛いか……? でも、私も、痛いぞ……。一緒に……我慢しような」
エカラに慈愛の表情を向けるエリザ。
充央「50%完了! もう少し耐えてくれ!」
肌の色が半分、元に戻ったエカラ、
エカラ「ヴ……ヴ……っ!」
充央「80%完了! あと少しだ」
エカラ「ア、グ……ヴ! ヴガアアアア!!」
エカラ、苦しそうに叫ぶ。
充央「98……99……100!」
エカラ「アアアアアアアアアアアアア!」
エカラ、全身から力が抜け、剣を手放す。
充央「成功……したのか?」
エカラの肌の色がすべて元通りに。エリザに瓜二つの容姿。
正気を取り戻したエカラ、エリザを見て、
エカラ「ネエ、サマ……?」
エリザ「やっと気が付いたか……馬鹿者……ごふっ」
エリザ、吐血し、その場に膝をつく。
充央、慌ててエカラの背中からPC道具一式を取り外し、エリザの元へ走る。
充央「……!? 待ってろ! すぐにお前のメンテナンスも」
エリザ「無駄だ……コアがやられている」
エリザ、静かに首を横に振る。
エカラ「ごめんなさい、姉さま。私……私のせいで……」
エカラ、青ざめた顔で、恐る恐るエリザの胸に刺さったままの剣を抜く。
途端に大量に噴き出す血。
充央「無駄かどうかなんて、やってみないとわからないだろ!?」
充央、エリザの背中にケーブルを接続しようとするが、接続口が分断されていることに気付く。(コアを貫通したときに一緒に壊れた)
充央「嘘だろ!? これじゃ何もできない!」
エリザ、後ろを振り向き、充央の頬に手を添える。
充央「他にないのか!? 接続口は!? 内部システムに干渉する方法は……?」
エリザ「気持ちだけで充分だ、ミツオ……。妹を助けてくれて……あり、が……」
充央、地面に倒れ込むエリザの体を慌てて支える。
充央「……~~っ!」
エカラ「姉さま!!」
充央M「こんなときに呼ぶ名前もないなんて!」
充央、仰向けになったエリザの顔を膝に乗せながら、
充央「エリザっていうのはどう?」
エリザ「……?」
充央「君の名前。俺、昔からロボットが好きで……俺がSEを目指すきっかけになったAIの名前がエリザっていうんだけど……」
エリザ「エリザ……」
エリザ、きょとんとした表情で何度か瞬きをし、
エリザ「それが私の名か。良いな」
ふわりと微笑む。
エリザ「ありがとう、ミツオ」
充央「……!」
充央、思いがけず見たエリザの初めての笑みに、ときめく。
エリザ、充央の頬に手を伸ばし、
エリザ「最期に、最高の……贈り物を……もら……え、たな……」
目を閉じるエリザ。
○同・宿屋・2階(昼)
T(テロップ)「1年後――」
充央がパソコンに向かっている。
机には膨大な量の古文書。
充央M「俺は仕事が嫌いだった。度重なる残業、顧客からのクレーム――仕事が嫌いな自分も嫌いだった」
部屋の外にはヒナや村人たちがいて、充央に手を振ったり、応援したりしている。(かつてエカラに斬られた村人Aも生きている)
充央M「でも今は違う。仕事を通じて人の役に立つことができる。そんな自分が少しだけ好きだ」
ベッドに寝かせたテストボディの横に、神妙な面持ちで控えているエカラ。
充央M「だけど、そこに君がいなきゃ意味がない」
充央、パソコンを持って、テストボディにケーブルを接続し、キーを叩く。
充央「ついに完成だ」
エカラ「本当に大丈夫なのか? ミツオ」
充央「エカラは心配症だな」
苦笑する充央。
充央「大丈夫だ。きっと成功する。こんなときのためにテストボディを用意しておいたんだからな」
充央、さらにキーボードを叩く。
固唾を飲んで見守る充央とエカラ。
テストボディ、ゆっくりと目を開ける。
充央、微笑んで、
充央「おはよう、エリザ」
エリザ、眩しそうに何度か瞬きしたあと、にっこりと笑う。
エリザ「おはよう、ミツオ」
《終》
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