美大卒じゃないデザイナーがアクリル絵の具で色彩構成すると
デッサンを始めて1年半ほど、鉛筆デッサンやコンテパステルでのデッサンをこなした数も増えて、ルーティン化しつつあった。
(詳しくは以下の記事を参照)
いつものデッサンと違う課題をしたいと思い、デッサン教室の先生に相談してみたところ、「アクリル絵の具での色彩構成の課題をしてみてはいかがですか?」と提案してくださり、やってみることになった。
色彩構成
美大受験などで出される課題のことで、受験者に対し作品やデザインで色の組み合わせ方や使い方を評価するためのものだ。この課題を通して、色の感覚や理論の理解があるかをはかるそうだ。
作品課題
今回初めての色彩構成ということで、基礎的な課題に取り組むことになった。
ケント紙に25cm四方の正方形を描き、縦横4本の線をランダムに引いて、画面を25分割する
一番大きな面に純色(絵の具のチューブからそのまま出した色)で着彩
ほかの面を純色、または純色をベースにトーンを変えた色で着彩
着彩にはアクリル絵の具を使う
「あ、これ色彩検定で勉強した内容だ!」とほくほくしながら、色彩の計画を立て始めた。
(過去に受検した色彩検定の以下の記事を参照)
塗り方
中学時代の美術の授業以来、しっかりとアクリル絵の具の塗り方を習った。
面は平筆を使って、一方向に動かして塗る
絵の具を混ぜる時はムラなく、大量に作る
ほどよいテクスチャー(固すぎず、ゆるすぎず)になるように絵の具に水を含ませる
主にこの3点が守れていれば基本はOKとのことだった。
アクリル絵の具は、絵の具・筆・パレット・定規・ガラス棒がセットになっているものを使っていたが、パレットは底が浅いとすぐに絵の具が乾いてしまうので、絵皿を使った。
完成にいたるまでの戦いの数々
「FigmaやIllustratorだったら5分くらいで出来そうな課題だな〜。」と思いながら手を動かし始めた。塗り方のコツも少ないため、すぐに完成するだろうと踏んでいたが、全然そんなことはなかった。ここからは完成にいたるまでの戦いの記録を書いていく。
塗りムラとの戦い
課題の最初から最後まで塗りムラに悩まされた。筆を一定方向に動かしても、絵の具の水分量が足りていないと、終端に向かうにつれて掠れてしまう。あとで、掠れた部分を塗り重ねるとムラになる。逆に水分量が多いと、絵の具が滲んでしまうので乾くとシミのようになってムラが生まれる。ムラをなくすためにモグラ叩きのようにエンドレスに絵の具を塗りたくっていた。
思い返すと普段のデザイン業務で「塗りムラ」という概念がない。色を選択すれば、ディスプレイ上に均一に色が塗られる。今まで、当たり前に使っていた「Fill」コマンドのありがたみを感じた。
境界線との戦い
溝引きという技法で面と面の境界線を引く。
溝引きはガラス棒と筆をお箸のように持ち、ガラス棒の球体部分を定規の溝に置いて滑らせることで直線を引く方法だ。
もっと細い線を引くには烏口(カラスグチ)と言われる道具を使う。先端がクチバシのようになっていて、クチバシの間に絵の具を挟んで、定規を使って細い直線を引く。
(↑溝引きと烏口の使い方はターナー色彩の動画がわかりやすかったので貼っておく)
最初は溝引きで線を引いていたが、小さい面の境界線を引くために烏口を使うようになった。特に、烏口に挟む絵の具のゆるさ加減が難しく、絵の具がゆるすぎると太い線になり、固すぎると線が描けなくなってしまう。筆で塗る時はちょうど良いテクスチャーの絵の具でも、烏口の時はそうでもないというケースが多く、苦戦を強いられた…。
はみ出す色との戦い
慣れない絵の具に翻弄されて、絵の具が面からはみ出すことがあった。烏口で挟んだ絵の具がゆるくて定規を伝ってはみ出したり、いつの間にか手についていた絵の具で紙を汚したりした。
はみ出した絵の具を消す方法は、乾いてからカッターナイフで紙ごと削り取るしかなかった。はみ出した絵の具をカリカリと削りとる度に、「次は汚さないぞ…!」と決意を固められていった。
配色の戦い
色彩検定の教材でも使うカラーカードを渡されて色を決める。
デジタルツールなら、色選択後に「この色微妙だな。」と思ったら変更したり、別の配色パターンを作って比較することができるが、一発勝負ゆえ最初から色を決めないといけない。しかしながら、色を塗る面の大小で、印象が当初の想定と変わったりするため、ある程度着彩が終わった途中で配色を調整が必要になる。また塗った直後と乾いた後で色の見え方が若干変わるのも考慮にいれるので頭がパンクしそうになった。
プレッシャーとの戦い
なんといってもやり直しがきかないプレッシャーがすごかった。心の中で何度もCommand + Zを押したくなった。
なかでも、一度混色で作った色を同じように混色して再現することができないので、混色で作った色で塗る面は作った絵の具の量分で塗り切らないといけないのが大変だった。ムラを直すために塗り重ねると、絵の具が足りなくなるので、なるべく手数少なく塗る必要があった。
カラーコードを入れれば、混色された絵の具が出てきたらいいのにと思いながら塗り進めた。
完成
こうして、いくつもの戦いを経てなんとか完成した!
取り組む前は「1週分の授業で完成してしまうかも?」と思っていたが、結局3週目までかかり大作になった。
シンプルな作品だが、デジタルと違って、絵の具で塗られていると色の重みや質感、風合いが感じられて面白かった!
さいごに
アクリル絵の具の色彩構成を通して、自分のような不器用な人間でもデザインできる今の環境、デジタルツールのありがたみをひしひしと感じることができた。
慣れない道具で失敗したり、限られた条件でリカバリー方法を考えたりするのも、楽しかった。
デッサンと同じように集中できたり、色と向き合ったりできるので、みなさんもぜひアクリル絵の具での色彩構成を試してみてはいかがでしょうか。