その夜はどこか夢見心地で自分の登場する映画を観ているような夜だった

晴れた夏休み。僕はライオンズのキャップを目深に被り車の後部座席に乗っている。

今日僕は人生で初めて映画館へ行くんだ。駐車場へ着いてからは両親の背中についていく。姉や弟は一緒だったろうか。覚えていない。干上がった用水路に架かってる小さな橋を渡るときどぶ臭いにおいが鼻を突いた。映画館はゲームセンターも併設しているような商業施設の三階にある。高校生くらいのカップルや家族連れがメダルゲームやクレーンゲームを興じていた。音が洪水のように押し寄せるフロアを抜けてエスカレータがある場所を目指す。長いエスカレーターに乗って上の階にある映画館を目指す。壁には公開中の映画のポスターが貼ってある。映画館の入り口が近づくと甘いキャラメルのポップコーンの匂いがした。

今でも映画館へ行きポップコーンの匂いを嗅ぐと当時のことを思い出す。

人生を遡って一番最初に観た映画は、「マタギ」という映画が一本目だったと記憶している。

今年の夏もたくさんの映画を観てる。観返した作品も多くて最近は「スモーク」「スワロウテイル」を観た。「スモーク」がセリフをメインで作られる会話劇なら「スワロウテイル」は美しい映像と美術で架空都市を作り出し壮大なスケールで見せる詩情溢れるファンタジーだ。
どちらも高校三年くらいの時に観た作品で今もなお自分の人生に影響を与えている。
「スワロウテイル」で三上博史が演じる移民のフェイホンが不法滞在で拘留されて釈放されたときの路上を飛び上がりながら走るシーンはまさに「汚れた血」のレオスカラックスの作品からの影響だった。当時は分からなかったオマージュを見つけるのも時を経て映画を観返す楽しみかもしれない。

以前、TOKUZOという名古屋にあるライブハウスで曽我部恵一さんとツーマンした時も、お会いしたばかりなのに映画についていろいろな話をした。(こちらから沢山質問してたと言う方が合ってるかな。)

曽我部さんの話で印象的だったのが「俺じつはマーベルとかのSFも好きなんだ。ホラーが大好きだしさ。でも世間的なイメージではそうじゃないらしい。(笑)」

ライブのアンコールで曽我部さんと一緒に二曲歌った。一曲は森田童子の「ぼくたちの失敗」で、もう一曲はサニーデイサービスの「サマーソルジャー」だ。

その夜はどこか夢見心地で自分の登場する映画を観ているような素敵な夜だった。

人はいつも好きなことについて話すときは無防備だ。できるだけ好きなことを好きなように話しながらこの先も生きていきたい。

今夜も映画館へ行く。スクリーンの向こうにいる本当の自分を探しに行く。

筆者撮影。街頭に照らされた夜の向日葵。

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