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NY州はどのように経済を再開させようとしているか

3月からロックダウン状態にあったNY州は、総入院者数や一日の死者数の減少が続く下で、5月11日、経済再開に向けた指針を発表した。
内容はNY州政府のウェブサイトにて公表されているが、以下、個人的に捉えた同指針の4つの特徴を順々に追っていきたい。

(1)エリアの細分化と司令室の創設

まず、NY州は広大(日本の本州の半分以上)であり、地域によって人口密度などは様々である。従って、州全体で解除を一律に判断するのではなく、問題ない地域から段階的に再開する方針だ。具体的には、エリアを10に細分化(下図)した上で、エリアごと設置された司令室(公務員、病院や州の代表者等で構成)が、それぞれの地域ごとに再開の判断をしていくこととされている(最も有名なマンハッタン地区を含むNYCはピンクのエリアである。)。

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(2)データ主義と7指標のダッシュボード

クオモ州知事は会見で、経済再開は政治や直感ではなく、データ・サイエンスに基づいて判断するとの方針を繰り返し強調してきた。各エリアは、以下の7つの指標の基準を全て満たした場合に経済の一部を再開できる。

1. 感染率のモニタリング
指標① 総入院患者数
指標② 死者数
指標③ 新入院患者数
2. 病院のキャパシティ
指標④ 病院のベッドのキャパシティ
指標⑤ ICUベッドのキャパシティ
3. 検査と追跡のキャパシティ
指標⑥ 検査数
指標⑦ 追跡要員数

それぞれの指標に設けられた基準は以下のとおり。

1. 感染率のモニタリング:これにより感染率をコントロールすることで、感染数を抑え、医療崩壊を防ぐことが重要とされている。
総入院患者数が少なくとも14日間連続減少している(または1日の新たな入院患者の数が15人以下である)こと
1日の死者数が少なくとも14日間連続減少している(または1日の死者数が5人以下である)こと
新たな入院患者数が10万人当たり2人未満であること
(注)3日移動平均。

2. 病院のキャパシティ:病院が、潜在的な二次的爆発に対応しうるだけのキャパシティを保つことが重要とされている。
全ベッドの少なくとも30%が常に利用可能なこと。
ICUベッドの少なくとも30%が常に利用可能なこと。

3. 検査と追跡のキャパシティ:検査と追跡によって、ホットスポットが、迅速かつ効果的に隔離されることが重要とされている。
1か月で人口1000人当たり30人が検査を受けていること。
10万人当たり30名以上の追跡要員を有していること。

これに基づき、NY州政府は毎日、ウェブサイトでダッシュボートを公表し、視覚化・透明性を確保することとしている。

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(3)産業の優先順位付けと時間軸

NY州は、感染率と経済規模によるマトリックス(下図)を設けた上で、5月15日以降、感染リスクが小さく、経済的な規模が大きい産業(左上)から活動を再開させていく方針を示している。その後、感染リスクが小さく、経済規模が小さいもの(右上)、そして感染率が小さいが経済規模が大きいもの(左下)と続く。

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これに従って、それぞれの段階の対象となる産業は以下のとおり。
第1段階:建設業,製造業,卸売業,一部の小売業,農業,林業,水産業
第2段階:専門サービス,金融・保険業,小売業,事務職,不動産
第3段階:レストラン,飲食サービス,ホテル
第4段階:芸術,エンターテーメント,リクリエーション,教育

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また、各段階(各産業群の再開)の間には、14日の期間を開けることとされている。これは、州と司令室が、一部再開の影響を監視し、病床率や感染率が増加していないことを確認する期間とされている。
なお、再開となった後でも、多数の人が地域外から訪れてくるような事業や勧誘は禁止される。

(4)継続的モニタリングと「サーキットブレーカー」

一部再開がなされた後、各地域ごとに設けられた司令室が、上記の7つの指標などを注意深くモニタリングすることとされている。その上で、指標が悪化した場合には、司令室が再開プロセスを遅らせることや中断することが可能とされている。その意味で、同ガイドラインはこの仕組みをサーキットブレーカーになぞらえている。
また司令室は、事業者がガイドラインを遵守しているかをモニタリングし、必要に応じて法執行で遵守を強制することとされている。

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終わりに

以上、NY州の経済活動再開に向けた考え方とプロセスを概観してきた。ガイドラインはこのほか、再開にあたっての事業者の留意点、教育や医療など各分野のリーダーの責務、マスク着用義務などの個人の責務、過去に回帰するのではない新しいNY州作りへの見通しなどに言及している。
作成にあたっては、在ニューヨーク総領事館の情報も参考にした。正確な情報や詳細については、NY州政府のウェブサイトから確認できる。