07牡蠣小屋

[ 言葉の繊維 ]7.牡蠣小屋

冬の漁港には、牡蠣小屋が並んでいた。

数えると、10はある。

店舗という雰囲気ではない。

100人規模の大きなビニールハウスである。

牡蠣小屋を開いている漁師さんの漁船の名前なのか
「◯◯丸」などの看板が目立つ。

中では、牡蠣が運ばれている。炭が運ばれている。

牡蠣小屋中が、炭の煙でモクモク。

煙から身を守るために用意された
ジャンパーを着たお客さんたち。

低めの椅子に腰掛けて、
牡蠣をガシガシと炭火の網にのせている。

まるで、全員同じツアー客のような一体感。

「これ、せっかく糸島に来たら入らなきゃでしょ!」

そう思った。

牡蠣1kg 1,000円。

単位が違う。

漁師さんの頼み方のようで嬉しい。

一人で1kgも食べられないのではと思い、
半分にしてもらった。

100円ショップなどで売っていそうな
A4の厚みのあるプラスチックケースに、
大きな牡蠣が5、6個ゴツゴツぶつかりあうようにつまっている。

紙皿。割り箸。殻を開けるナイフ。トング。

持つだけでテンションがあがる道具が揃っている。

殻はバケツに捨てるらしい。

次は、仲間と一緒に来たい。

牡蠣は上下で平なほうをまず下にして焼く。

殻の隙間から汁がグツグツ。

その後ひっくり返して2、3分で焼きあがる。

教えてもらった焼き方だ。

旨味と香りが口の中に広がる。

うまっ。

そのとき。

「パンッ!!」

隣のテーブルから爆発するような音。

熱っ!!

牡蠣の熱水が飛んで来たのだ。

そして、自分の牡蠣も「パンッ!!」。

実は、ここに入る前に少しだけ心配していたことがあった。

炭火と牡蠣の香りをまといながら、
この後のエキストラ出演は申し訳なさすぎる。

そう思ってはいたが誘惑に負けてしまったのだ。

ごめんなさい。

 もともとエキストラ出演にあたり、服装の指定があった。

「夏のシーンなので夏服でお願いします」という。

どんな服で行ったらいいか。

描かれる世界は「骨太の人間ドラマ」という。

「きれいな海岸線、心落ち着く緑の山畑、懐かしき古い町並みも
 ある糸島。この地に、古くから住まう人、移住してきた人の
 ドラマを一本の糸で繋いでみたい」

まだ見ぬプロデューサーさんの言葉で僕はここまで来た。

エキストラとはいえ世界観を壊すようなことはしたくない。

ブランドやデザインの主張のある服装は避けよう。

もともと、服をそんなに持っていないので着ていく服がない。

ショップに行くと「海外にお住みの方なのですか」と聞かれる。

ないのだ。

結局購入できず、白いワイシャツと、チノパンで行くことにした。

そんなことがあったうえで、牡蠣大爆発。

着替えもない。

このトラブルで、服と頭は牡蠣の香りに。

体まるごとファブリーズした。

右往左往しながら向かう撮影現場である「稲富公民館」。

畑が広がる道を車で走りながら探す。

ここかな。

木造の平屋から、歴史を感じた。

少し早く着いたこともあり、まだ誰もいない。

しばらくいると、ご近所の方が一人、ゆっくりと歩いていった。

#映画糸 #糸島   #牡蠣小屋


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