じつは、日本にも「内閣総理大臣の選挙」がある?(日本の政治制度、その2)
前回の記事「リーダーを直接選ぶか、そうでないか、どちらが優れている?」
内閣総理大臣を決めるのは国会
日本は、前回もお話した議院内閣制の国です。したがって、内閣総理大臣(首相)を決める国民の選挙はありません。
日本では、国会によって内閣総理大臣が指名されることになっています。衆議院と参議院が、それぞれ首相指名選挙を行い、国会として、ひとりの人を首相として指名します。
実際の手続きとして、天皇が国会によって内閣総理大臣に指名された人を任命するというものがあるのですが、これは形だけのもの(「国事行為」といいます)なので、国会が指名した段階で、内閣総理大臣は決定します。
そして、内閣総理大臣が、国務大臣を任命します。内閣総理大臣は、国務大臣をやめさせる(罷免させる)こともできます。国務大臣の任命は、天皇が認証することになっています。
また憲法のきまりで、内閣総理大臣は必ず国会議員であること、また、国務大臣の過半数は国会議員であること、とされています。ということなので、国会議員でない国務大臣も、国務大臣の半数を超えない限りで許されることになります。ここ数年、そういう大臣はほとんどいませんが、かつては、1内閣に1民間大臣というのが普通だった時期もありました。
いずれにせよ、内閣総理大臣は、自分の好きなように国務大臣を選ぶことができるわけで、大きな権力を持っているといえます。
もっとも、ほんとうに自分の好きなように選べるかどうかは、内閣総理大臣の「本当の実力」にかかっているともいえますが……その話は、また別のところで。
さて、
国会が内閣総理大臣を指名するといいましたが、国会の衆議院と参議院が、別の人を首相として指名したら、どうなるのでしょうか。
衆議院総選挙は、事実上の首相決定選挙?
首相指名が混乱しないように、憲法は、つぎのような決まりを設けています。
まず、衆議院と参議院の指名選挙で別の人物が選ばれた場合、ただちに各院の代表が集まって協議する両院協議会というものが開催されることになっています。
この協議会で「この人を指名しよう」というような妥協案ができれば、もう1回、衆議院と参議院で指名選挙をやり直し、同じ人が当選するようにします。
ただ、そうなる可能性は低く、実際、そうした例もありません。
両院協議会で結論がまとまらなかったとき、実際の例をみると、こうなっています。
衆議院の本会議で、協議会に参加した議員が「両院協議会で案をまとめることができませんでした」というように報告します。
それを受けて議長は、「憲法により、衆議院の議決が国会の議決となりました」というふうに宣言します。この時点で、内閣総理大臣として指名される人が決定します。
つまり、
結局は、衆議院によって指名する人が内閣総理大臣となるのですね。
そう考えると、
衆議院総選挙こそ、内閣総理大臣を、間接的ですが選ぶことのできる選挙、といえます。国民による、それぞれの政党の候補者への一票は、その政党の党首を内閣総理大臣とするための一票と、ほとんど変わらなくなるわけです。
もちろん、政党によっては、別の政党の党首を、一緒に内閣総理大臣候補にすることもあります。ただ、いずれにせよ、衆議院総選挙に、内閣総理大臣決定選挙の意味合いがある、ということは、覚えておきたいところです。
なぜ内閣総理大臣を国民が選べないのか
とはいえ、やはり、アメリカのように、国のリーダーである内閣総理大臣を、国民が直接選ぶほうがいい、と思う人も少なくないでしょう。
首相を国民が直接選ぶ制度を「首相公選制」といいます。もっとも、実際にそれを行っている国はほぼありません。しかし日本では、かつて内閣総理大臣を長く努めた人が唱えたこともあって、それを望む声は、いまも根強くあります。
特に、
戦後、ほとんどの内閣総理大臣は、自民党の総裁でした。いまの岸田総理もそうですね。いまの制度にも、首相公選制にも、それぞれ問題がある
ということは、内閣総理大臣を決めるのは、自民党ではないか。自民党の党員だけで決まっているのではないか。そんな気がしたりするわけです。実際、「自民党総裁選挙イコール内閣総理大臣決定選挙」になることが、むしろ普通だったりするわけです。
(自民党総裁になったものの内閣総理大臣になれなかった人は、26人中2人しかいません。また、自民党総裁選挙で総裁に選ばれてもすぐに内閣総理大臣になれず、その後行われた衆議院議員総選挙に勝利して内閣総理大臣になった人は、1人(安倍晋三氏)しかいません。)
そのため、「自民党の党員になれば、内閣総理大臣を決める権利を持つ」とも言われます(党員勧誘のときによく言われているみたいです)。とはいえ、実際の総裁選では一般党員の票よりも国会議員の票の価値が高く(党員の票は都道府県票として3票のなかに反映、国会議員は1人1票)、自民党の国会議員のなかだけで内閣総理大臣を決めている、という印象がどうしても持たれてしまいます。
(自民党の国会議員だけで総裁が選ばれることもあります。また、決選投票になった場合の投票権は自民党の国会議員だけにあります)
そう考えると、そんなのやめて、内閣総理大臣を国民が直接選べるようにしてほしい、という人は、もっと増えるかもしれませんね。
しかし、
自民党の国会議員(野党も同じですが)は、誰に政治を行う力があるか、一般国民よりも、よく知っています(はずです)。そういう、政治に精通した人たちが内閣総理大臣を決めるほうが、実力のある人を選ぶという点で、いいような気もします。
また、
国民が直接に内閣総理大臣を選ぶようになると、アメリカや他の国のように、キャラがいいとか、そんな人気投票で、一国のリーダーが決まってしまうのではないか、そんな心配もあります。
さらに、
国会の選挙と、内閣総理大臣の選挙を別々に行うことで、国会の多数党と、内閣総理大臣の政党が異なってしまい、国会と内閣の対立が生まれ、決めるべきことが決まらないような状態になってしまうかもしれません。
他にも、首相公選制のメリットとデメリットは考えられるのですが、いまの日本は、安定した政治をする実力のある人物に、内閣総理大臣になってもらうシステムになっているのですね。
だからこそ、そうやって選ばれた実力のあるはずの内閣総理大臣が、短い間に辞めてしまうことになると、国民の失望感も強くなってしまうわけですが……そのあたりを、次回からもう少し突っ込んでお話していきたいと思います。
(回答はTwitter @masayuki_tsuji でも)