経済安保(経済安全保障)
経済安保という言葉は、1990年代ごろから言われ始めた食料安保という言葉に似ています。
安全保障(安保)というのは、主に武力攻撃による危機から自国を守ることを言います。
しかし、攻撃されていなくても、なにかの原因(小麦の輸入がストップするなど)で食料の確保ができなかったりすれば、国民生活は武力攻撃を受けたときとはまた別の、深刻な打撃をこうむります。
実際、1990年代から日本の食料自給率は急速に落ち込み、現在はカロリーベースで40%を切っています(先進国最低水準です)。そのため、食料自給率を伸ばし、食料を確保して国民生活を守ろう、というのが食料安保という考え方です。
経済安保も、同じような発想です。工業製品の原材料が日本に輸入できなくなるなどすることで、日本経済に再起不可能なダメージがもたらされるかもしれません。それを防ごうとする考えです。
実際、今の日本は、実に多くの製品の原材料を海外に依存しています。鉄鋼や原油だけではありません。多くの電化製品に欠かせない半導体のような「半製品」も、輸入に頼っています(中国の「ゼロコロナ政策」にともなう工場閉鎖によって半導体不足が起こり、その結果生活に欠かせない家電製品が品薄とか、聞きませんか?)で。これらが輸入されなくなっても(極力)困らないように、半導体など、重要部品をなるべく日本で「自給」することが、「経済安保」という概念の内容の一つです。
今年(2022年)5月11日、国会で経済安保推進法が成立しました。半導体やレアアース(ハイテク製品に欠かせない天然物質)、蓄電池や衣料品などを「特定重要物資」に指定し、安定供給のため、国に調査権限が与えられることになりました。また、サイバー攻撃からインフラを守るための規定、軍事技術に関わる特許の非公開を可能にする制度も盛り込まれました。2023年から段階的に施行されていくことになります。
もちろん、これですべてが安心というわけではありません。例えば、予想もしなかった出来事によって、世界の半導体製造が難しくなる事情が生じれば、たとえ半導体の国内生産を増やしていたとしても、国内の「経済安保」は大きく損なわれます。国境というボーダーで一応の区切りがある軍事的な安全保障と、国境を超えたグローバル化の進む経済分野での安全保障の違いは、これまで以上に意識されなくてはならないように思います。