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そういえば、いつからGNPって言わなくなった?(GDPとは何か、その7)

【「GDPとは何か」】前回までの記事
「お金を使うと景気は良くなる」は本当か
国の借金は景気を良くすることにつながるのか
「借金システム」がちゃんとしてないと、経済は回らない
投資なら国の力でどんどん伸ばせるのか?
GDPで景気の良し悪しがわかるのは、なぜ?
GDPだけで経済のすべてが分かるとは思うなよ?

おおむね40代以上の人には衝撃のお知らせ

ここまでGDPのお話を、延々としてきたわけですが、

「経済指標といえば、GDPじゃなくてGNPでしょ?」という人もいらっしゃるかもしれません。

GNP、日本語で「国民総生産」という指標ですが、これは今、あまり使われなくなっているのです。

その理由の1つに、経済のグローバル化があります。国境を越えた経済活動が当たり前になってくると、そうしたことを加味したGNPよりも、国内だけの経済活動を示したGDPのほうが、国内の景気を測るうえで正確な指標であると考えられるようになっているのです。

そして、もう1つの理由は……人によっては衝撃的なことかもしれません。

実は2000年以降、GNPという指標・概念は、正式な統計の場から消えているのです。

代わりに、GNI(国民総所得)という指標が使われています。理論的にはGNPと同じ数値なのですが、GNPという言葉自体、公式には使われなくなっています。

一定の年齢層の人たち(おそらく40代以上)にとって、「自分たちの若い頃と違う!」という衝撃が走ったかもしれません(笑)。いま、高校の「政治経済」では基本的にGNPそのものを教えていないのです(そういう概念もある、とは教えていたりもしますが)。

なぜでしょうか。

GDPに海外から入ってくる「所得」を加えたGN

GDPと他の指標との関係

GDPなど国民所得指標の算出方法(国民経済計算・SNA)は国際的に決められるものです。この改訂によって、2000年からGNPという言葉で統計をとらなくなったのです。

もともと、GNPというのは、GDPに「海外から入ってきた所得(「海外からの純要素所得)」を加えたものです。

こうした「所得」を加えたのが、「国民総『生産』」、というのは、いかがなものか……ということなどがあって、1993年に作成、2000年から導入された算出方法の改訂によって、国民総生産ではなく、国民総所得という言葉で統計をとることになったのです。

もちろん、この背景として、先程お話したように、以前ほどGNPという指標が使われなくなっていた、ということもあります。

とはいえ、今でもGNP、いやGNIを重視しているものもあります。その1つが、先進国による途上国に対する援助です。各国の援助を調整する開発援助委員会(DAC)は、加盟国に対し、GNIに対し0.7%のODA(政府開発援助)を行うよう求めています。

ちなみに、日本によるODAのGNIに対する比率は、2021年で0.34%です。年々上昇はしていますが、国際的な求めよりはかなり低水準です。

ちなみに、

近年の日本のGDPとGNIの推移

上のグラフをみると、近年の日本は、おおむねGNIがGDPより多い、つまり、海外から入ってくる所得が、出ていくほうより多い、ということがわかります。

機械の買い替えに備えた貯えも計算

また、NDP(国内純生産)という指標の概念もあります。

これは、GDPから「固定資本減耗」というものを差し引いたものです。

固定資本減耗とは何か、簡単な例でイメージしてもらいましょう。

ある企業が、100万円の機械を購入したとします。また、この機械の寿命が10年とわかっているとしましょう。そうした場合、当たり前ですが10年後に機械を買い直さなくてはなりません。

そのためには、単純計算して

100万円÷10年=10万円

を、1年づつ会社の貯蓄としてためておく必要があります。これが、固定資本減耗だと思ってくれればよいです。

上の例では、機械の価値が「1年間に10万円ずつ、すり減る」と考えることもできるので、固定資本減耗は「機械や設備などのすり減り分」と言ったりします。

このお金は貯蓄されるお金、とはいえ、「働いて生まれた価値」ではないため、付加価値に入れないほうがいいのではないか。そういうことから、これを差し引いた「純付加価値」の合計が、国内純生産つまりNDPなわけです。

もっとも、固定資本減耗はあくまで推計でしか知ることができないということ、その推計方法が実情に合っているのかという判断の難しさなどがあります。そのため、経済指標としてGDPほどには扱われていないということがあります。

統計情報を知ることが、経済状況をつかむ第一歩

こうした、GDPなどを算出するための統計は、内閣府が「国民経済計算」として公表しています。

とはいえ、かんたんに分かるのはGDPの速報だけです。後は、エクセル方式のデータが、内閣府のサイトから、たくさんダウンロードできるようになっています。

いや、これがお宝なのです。このデータを読み解くことで、今の日本の経済がどういう状況なのか、ざっくりではあっても、家でコンピュータを使うだけで、正確につかむことができるのです。

もちろん、そのために必要になってくるのが、固定資本減耗などの用語や概念についての知識になるわけです。いくらデータがたくさんあっても、その意味がわからないと、どうしようもないですからね。

こういうことをもっと知ると、例えばどういうことが分かるのでしょうか。

下のグラフを見てください。

日本の企業が受け取る海外からの所得の推移と内訳

GNIを算出するためにGDPに加える「海外からの純要素所得」といわれているもののうち、海外から企業に入ってくる所得(輸出以外の要因で受け取る所得です)の推移を、「国民経済計算」から調べてグラフにしました。

こうすると、ピンク色で示した「利子」が減少傾向である反面、薄い・濃い青色で示した部分、これは企業が海外の事業で儲けた所得であり、これが(長いスパンで見ると)増加傾向であることがわかります。

このことから、この20年以上の間、日本企業の海外での儲けが、その企業の本体の事業によって生み出される構造に変化してきていることを、うかがうことができます。特にその傾向は、2010年代から顕著です。

もう1つ、下のグラフを見てください。

分配された所得と、企業が保有する現預金の推移

グラフの青線で表示されている「雇用者報酬」というのは、ざっくりいうと賃金・給料のこと、

グラフの赤線で表示されている「営業余剰・混合所得」というのは、強引にまとめすぎかもしれませんが、企業に残る所得です。

これらも、「国民経済計算」で見ることができます。

グラフを見ると、意外と、賃金・給料が多いのだなあ、ということがわかりますね。GDPの7割くらいは、雇用者報酬です。

一方、緑の棒グラフは、一般企業が持つ現金・預金の総額を示しています。いわゆる「内部留保(企業が抱えるさまざまな貯え)」に近いものです。

(内部留保の総額は、財務省が発表する「法人企業統計」によると、2020年度末で約484兆円です。が、ここではGDPを算出するための統計資料である「国民経済計算」から見ることができるものでグラフを作ってみました。)

こうみると、
賃金は20年以上も増えていないのに、企業の現金・預金は倍増している
企業の利益が下降傾向なのに、企業の持つ現金・預金はむしろ増えている

ということがわかります。

なぜなのだろう……というところまでは、ここでは踏み込みませんが、こうしたことを知ることが、経済の状況を自らの力で知る第一歩だ、ということを、ぜひ理解してほしいと思います。

次回でGDPのお話は、いったん最後、ということにします。物価とGDPの関係についてお話する予定です。

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