デザイン思考は魔法の杖じゃない
0.デザイン思考について聞こえてくる幻想
これまで、デザイナー採用担当として、デザイナー向けの転職サービスのディレクターとして、「デザイナー」や「デザイン」の話題に耳を傾けたとき、私の周囲のいろんな人のデザイン思考について言及している声を聞いてきた。
なかには、よくわからない幻想みたいなものや、過激な声も。
・デザイナーはデザイン思考を身につけなければいけない
・デザイン思考の実務経験のないデザイナーは遅れている
・今後のビジネスはデザイン思考で考えなくてはならない
いや…えっと、ちょっと、待って💦
「デザイン思考」のプロセスをきっちり踏まずにデザインのアウトプットをしているデザイナーが、スキルが低いとか、遅れているとか。
そんなはずはない。そんなことじゃない。
デザイン思考は、全てのシチュエーションで使える、魔法の杖なんかじゃないんじゃないの?と。
なんだかすごく、違和感があったけど、その違和感の理由や、デザイン思考の弱点はなんなのか、なかなか言葉にできずにいた。
1.イノベーション・スキルセットでのデザイン思考
ひとつめの気づきは、今年2019年の8月に書かれた、Takram代表取締役の田川さんのイノベーション・スキルセット。
このなかでは、デザイン思考についてこう書かれている。
デザイン思考は万能ではありません
一般の方々がデザインに期待する「センス」や「スタイル」のようなものはデザイン思考は一切提供しない
デザイン思考は「ブランドやスタイルをつくるデザイン」の手法ではない
すごく、はっきりと、「デザイン思考は万能ではない」「従来のデザイナーに期待されていたセンスやスタイルを提供するものではない」ことを明言してくれている。
2.ナターシャ・ジェンの講演でのデザイン思考
「まさよふさん、この記事、知ってますか?」
ふたつめは、とある新卒のメンバーが見せてくれたペンタグラムのナターシャ・ジェン(Natasha Jen)の記事。
2017年のアドビ主催のカンファレンス「99U」でのショッキングなタイトルの講演の内容だった。
英語版の動画はこちら。
AXISのWebマガジンでは、日本語で丁寧に解説されている。
正直、不勉強すぎて、この記事の存在を初めて知ったんだけども。
この日本語記事から、独断と偏見で一部抜粋すると、
・デザイン思考の単純明快さと万能性に疑問
・公式から生まれるデザインは標準的なものしか導かない
・プロのデザイナーはプロトタイプ前に、自らの案を分析・批評するステップを踏む
・現在のデザイン思考には、それがまるごと抜けている
・デザイン思考は、本来、デザインというものに対して自信のない人たちが対象
・実例をもって、デザイン思考の有効性を私に証明してください
こんな風に、デザイン思考に対する疑問を投げかけ、議論を提案している。
ここでも、デザイン思考が、現在デザイナーとして活躍している人にとって必須のものではないことをはっきりと言ってくれている。
3.直感と論理をつなぐ思考法におけるデザイン思考
最近、リブセンスの社内デザイナーでよく話題に上がっている、直感と論理をつなぐ思考法では、デザイン思考を含む4つの思考法について言及されている。
[1]カイゼン思考
[2]戦略思考
[3]デザイン思考
[4]ビジョン思考
ここでは、デザイン思考を、
・「カイゼン思考」と同様に、外的な問題・課題(イシュー)によって突き動かすもの
であり、
・「ビジョン思考」と同様に感性優位の「0→1」の創出が目指されているもの
と定義している。
4.デザイン思考を問い直そう
イノベーション・スキルセットと
ナターシャ・ジェンと
直感と論理をつなぐ思考法。
いずれにも共通しているのは、
デザイン思考は、すでにデザイナーとして活躍している人にとって、必ずしも身につけなければならないような、そんな登竜門のような、足枷のようなものではない、ということ。
デザインのプロセスをわかりやすくする、マインドセットのひとつの「型」として、デザイン思考は価値がある。デザイン思考そのものを、否定したいわけじゃない。
だけど、いくら、デザイン思考に価値を感じたとしても、そのプロセスを用いてないデザイナーを低く評価するべきではない。
デザイン思考をうまく活用することが最適な状況ももちろんある。だけど、いつ何時も、全ての人を助けるような、そんな魔法の杖ではないと、気づいてくれたらいいな、と。
もうちょっと書きたいけど、ひとまずこのへんでUPしておきます。
このnoteが、あなたにとって、デザイン思考を、改めて問いなおすための、ひとつのきっかけになれば幸いです🎶