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【Aぇ! group】グレショー第14回公演『美しい人』

 

THE GREATEST SHOW-NENの第14回公演「美しい人」がついに完結ということで(衝撃すぎて全然バリバリ混乱しています)いろいろ紐解きながら感想とちょっとした考察を書きだしていこうと思います。ただのいちファンのまとまりのない拙い文章ですが、よかったらどうぞ……!

<あらすじ>

舞台は不況で失業者が増加した架空の日本。不況からの脱出・失業者の食い止めのために政府は新しい”経済改革”として美術館を改装し、ホームレスたちを人間園『美しい人』に収容。人間としての尊厳を失われた人々と暴走する政府との対立を描き、人間の本質に迫るミュージカル。

アイドルのミュージカルというと、きらびやかで華やかなイメージがどうしても先に出てしまいますが、ハードルの高い社会派な物語に挑戦するあたりが気概を感じます。それでもって、これをこの時代に放つことがなんだか「今の世界でも実際に起こりうるな……」とただエンタメとして消費して流すことができない、超・ずっしりくる作品だと思わされました。作品自体は劇団とっても便利さんが20年程前に作られているものですが、円安、戦争、宗教問題……さまざまな事柄が世を振るわす今、あまりにも内容がタイムリーすぎて、若干の恐怖すら感じました。

<政府>

通して見るに政府がなんとなくナチスに通ずるところがあると思ったのは私だけでしょうか……?人間を強制収容しているという点もそうですが、実際にこじけんは演出の大野さんにチャップリンの傑作、『独裁者』を観るように勧められていましたし、演技や役・設定の節々からその雰囲気を感じたところが多くあったので、印象的だったものをピックアップし、結びつけながら取り上げていこうと思います。

・総理大臣

こじけん演じる総理大臣。ヒトラーは演説が巧みだったことはよく知られていると思います。ヒトラーはオペラ歌手に発声を学び、人々を陶酔させる心理術のテクニックも駆使していました。その中の一つに「単純接触効果」というものがあります。これは何度も何度も同じフレーズを伝えることで、もとは興味がなくともいつの間にか好印象を与えることができてしまう、という心理術です。

劇中で強烈に頭に残る!と反応が多かった「改革ソング」こそ、これです。総理が改革!改革!とアピールした後、正門くん演じる内川が「あの…ところで……改革って何ですか?」という、超シンプルかつ核に迫る質問をしますが、総理大臣は動揺。「…前に、進めるのだ!」「……痛みに耐えるのだ!」と答えじゃない答えを返し内川に突っ込まれると今度は佐藤に答えさせますが、佐藤も答えられず。結局総理に戻ってきて出てきた結論は「まさに、改革を断行し必要な政策を躊躇なく行うよう前向きに検討しよう!」という全くわけのわからない言葉。でもこれに内川は「そうか!!わかりました!!」と満面の笑みで納得。この時点で内川は総理の思想に染まりかけたといえます。(染まりかけた、という表記にしているのはその後の改革ソングで思いっきり洗脳されてる上パートではなく、ジュウロウと同じ「もし私がこの施設に入れられたらどうしよう」と歌うまだ正気保ってるであろう下パートを歌ってるためです)

また、もう一つ総理で気になった言葉が二話の「芸術は人を欺く空しい知識」というワンフレーズ。美術館であった建物を人間収容施設にしてしまっているので、総理は何か芸術に対して嫌悪感を抱いていたのでしょうか?ちなみにヒトラーは元は画家を志し芸術学校を受験しましたが落ちて挫折。ゴッホやピカソといった近代美術を「退廃芸術」と名付けて弾圧していました。ここにも何か通ずるものがあるように感じました。

・佐藤

お次は佐野くん演じる佐藤。佐藤の役職は「外務防衛国民啓蒙宣伝宗教大臣」なのですが、ナチスで「プロパガンダの天才」と言われたゲッベルスも「国民啓蒙・宣伝大臣」でした。佐藤はゲッベルスをインスパイアされ作られた人物と考えられます。

そんな佐藤はとにかく「崇拝」「狂信」という言葉がぴったりすぎました…。収容されたホームレスに美しい人の重要性を説くシーンでの「その美しい草花は我が国の象徴である国民神殿への捧げものとなるのです!」という台詞、リズムにして読み解くと太字にしてある部分を三連符で喋っています。三連符は音楽でも曲を印象付けるのに効果的ですし、聞くたびにビクリと圧倒されるのはここに起因すると感じます。佐藤は基本的に子音をとても立てて喋っており、~~です、という普通だったら「す」を無声音で鳴らして終わらせる言葉をしっかり最後まで母音を鳴らして話していたりもするのでより圧迫感が出るように聞こえますし、「台詞を歌のように」をまさに体現してると思わせられました。あとシンプルにめちゃくちゃ歌がうまい。

・内川

正門くん演じる内川。内川自体のセリフは上記二人よりは少なめですが、ひとつひとつが内川の心情の変遷が如実にわかるものばかりで存在感が強かったです。最初は改革って何ですか?あそこに僕も入れられたらどうしよう…などと言っていたはずなのに、気づけば美しい人たちのことを人間ではなく”動物”と言い放ったり「撃て!」と容赦なく命令したり。ジュウロウを撃たせるシーンの表情が照明も相まってあまりにも怖すぎました。


<「美しい人」内での社会構築>

ジュウロウが美しい人に放り込まれてから、美しい人の中で完全にひとつの社会が構築されていました。きっとそれまでは元社長と部下のようにちょっとした上下関係はありつつも、みんなほぼ同等の地位で生きていたんだと思います。そこに元は自分たちを監視していた役人が入ってきて、それも他人が証言する「心の美しい人」だということがわかったからこそ、多分周りはジュウロウを神格化し、崇めていったのではないでしょうか。

よく考えてみるとジュウロウってイエス・キリストぽくないですか?実の弟に銃弾で撃たれるという”受難”。これを美しい人の中での教科書に載せ、「みなの代わりに銃弾を受けたのです」と記したくだりも聖書っぽいですし、あの頭の上で手で三角形をつくるようなポーズをして子供の病気を治してるのもイエスの奇跡にリンクします。

結局どんな社会でも、人間はリーダーという存在があらゆる安定につながり、信じて縋るものができるとなお良しということなんじゃないかと思います。

<ジュウロウとゴロウ>

ジュウロウとゴロウ、兄弟でありつつ性格が対極にあったのが面白かったです。ゴロウの純粋無垢が故に信じると決めたものをずっと信じ抜いてしまう性格が政府にいいように使われてしまったの本当に悲しい……ゴロウは死体に汚い、臭いと文句を言ったり、懲戒免職処分だ!と言われてもジュウロウのように言い返すこともできなかったりと、良くも悪くも素直さが全面に出ているキャラクターだからこそ、大晴くんのまっすくで少し無邪気な歌い方と表情が本当にぴったりでした…。

<革命・その後>

ゴロウがやっと醒めて国民神殿を破壊し、花を散らします。ホームレスどころか政府の思想に反しただけでも即収容した結果、国民の三割も入ってしまったせいで政府は既に一年間でもう3回目の債務不履行、「政府は何もしない」「どうせ銃弾もない」発言からわかるように思いっきり政府は追い詰められて、反比例するかのように美しい人たちは栄えていっていますから、とうとう美しい人が檻を壊して革命を起こします。それもジュウロウの意向と反してです。革命で戦っている人間は政府も美しい人もみなそれぞれ「崇拝しすぎた」者たちです。ゴロウ然り、信じるという行為は時に仇となるって…ことですよね…(号泣)戦いに勝利し美しい人が集ったとき、ジュウロウのあの頭の上三角形ポーズに誰も反応してません。ここにもジュウロウの「みんな自分を信じてくれるだろう」という信じ込みがあったのかも。それでもって元社長の「痛みに耐えて!」というセリフ、総理大臣もかつて言ってましたよね…(戦慄)

そしてリーのセリフ(多分大多数の民意)から察するにもう美しい人たちの願いが叶ったことで”用済み”同然になってしまったジュウロウ。リーの口から出たのは「体の不自由な人を施設に入れて『自由な人』を作ろう!」というもの。歴史が繰り返されすぎて怖いです。新しい民主主義とか平等とか訴えてるのに……コウのセクシャルマイノリティが分かった時の元社長の「ここの檻にいていいのかね!?」発言もそうですが、多数派と違ったものがいたとき、人間はそうやって少数の人間を無意識下に区別化しようとしているということだと思います。自由な人、美しい人と聞こえ良く謳う。あくまでも善意で塗り固めておけば区別していても悪い印象にはならないだろうという考えの甘さ。見えない檻とは人間の深層意識にある差別心理のことじゃないかなあと私は思いました。少数派として生きて苦しめられてきたコウも、やっと多数派になれると思って檻から出て行ってしまったのかなあ……  最後のゴロウの表情、めちゃくちゃ良かったです。

ジュウロウもゴロウも神の存在が消え、絶対的な信条が消えました。「やっと夢から覚めて現実を見た、自分で檻を破って、自分の心の翼で飛ぶ」と決心のついた二人はニーチェの言葉を借りると、「超人」のような心理状態と言えます。

一つの思想が消滅して、新たな思想が幕を開けました。

最後にヒトラーが言い遺した言葉がこの作品の世界をまさしく象徴するものであったので、紹介して終わります。

人類は支配する側と支配される側に分かれる。人間はごく少数の新しいタイプの支配者達と非常に多数の新しいタイプの被支配者とに分かれていく。一方では全てを操り従える者、他方は知らず知らずのうちに全てを操られ従わされる者たち。                            思想と共に私は死ぬが、100年後また新しい思想ができる



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